財務報告に係る内部統制(J-SOX)には、①全社的な内部統制、②決算・財務報告プロセスに係る内部統制、③業務プロセスに係る内部統制、④ITに係る内部統制があります。
そのなかで決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、財務報告に係る内部統制(J-SOX)の目的である、内部統制の4つの目的のひとつ「報告の信頼性」に含まれる「財務報告の信頼性」に直接的に影響する重要な内部統制といえます。
この記事では、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の概要を簡単にまとめました。
決算業務とは
そもそも「決算」ってなにしてるの?
まず「決算業務」とは何なのか、ごく簡単にではありますが、以下にまとめてみました。
月次決算
月次決算は、法律上求められるものではなく、月ごとの経営管理のために行われる決算です。
月次決算処理としては、経過勘定の計上や、年払いした経費の月割計上、賞与引当金や減価償却費の概算計上などがあります。
上場企業では、少なくとも毎月10日頃までに、経営陣などに業績報告できるように資料作成をするのが一般的ではないでしょうか。
月次決算の主な役割としては、以下のようなものが考えられます。
- 損益と財務の状態を早期に把握し、経営者が迅速に対策をとる
- 予算と実績の差異、前月比、前年比など、経営環境の変化を分析する
- 毎月の会計情報を整理することで、早期に会計処理の誤りを発見できる
四半期決算
上場企業は、取引所規則により四半期決算短信の開示が求められており、3カ月ごとに業績や財務状況を明らかにし、投資者などの判断に資する情報を提供するため、四半期決算を実施する必要があります。
一方、金融商品取引法の法改正により、2024年4月1日以後に開始する四半期から四半期報告書制度が廃止され、第1・第3四半期報告書は、同時期の四半期決算短信と一本化されることになりました。
なお、同法では、上場企業は第2四半期決算において、従来の第2四半期報告書と同程度の記載内容の「半期報告書」を作成し、監査法人などのレビューを受けて、決算後45日以内に提出することが義務付けられました。
第1・第3四半期決算では、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」により、第2四半期決算では「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」により、年次決算と比べて、原価差異の繰延処理などの四半期決算特有の会計処理や、棚卸資産の実地棚卸の省略などの簡便的な会計処理が認められています。
年次決算
年次決算は、金融商品取引法、会社法、法人税法で求められるもので、1事業年度の業績や財務状況を明らかにし、株主や債権者、投資家などのステークホルダーに決算情報を提供するために行われます。
年次決算業務は、企業単独の個別決算と、企業グループ全体の連結決算があります。
個別決算処理では、棚卸資産の実地棚卸、仮勘定の整理、経過勘定の計上、1年内決済の固定資産・固定負債の流動区分への振り替え、各引当金の計上などの決算整理を経て、個別財務諸表を作成します。
連結決算処理では、連結パッケージで報告されたグループ企業各社のデータを合算し、連結会社間の投資と資本の相殺消去などの連結修正仕訳を行い、連結精算表を作成し、連結財務諸表を完成させます。
会社法では、事業年度終了後から3カ月以内に定時株主総会を開催し、会計監査人と監査役等が監査した計算書類の承認を受けます。
また、上場会社は、事業年度終了後から3カ月以内に、監査法人または公認会計士が監査した財務諸表を含む有価証券報告書を内閣総理大臣に提出します。
さらに、法人税法では、原則として、事業年度終了後から2か月以内に申告書を提出し、納税を行います。
決算・財務報告プロセスとは
じゃあ「決算・財務報告プロセス」ってなんなの?
決算・財務報告プロセスとは、経理部門等が行う決算整理仕訳や、財務諸表や有価証券報告書等の外部公表資料の作成など、決算時特有の業務プロセスをいいます。
決算・財務報告プロセスは、以下の2つに大別されます。
- 全社的な観点での評価が適切と考えられる業務プロセス
- それ以外の個別に評価すべき業務プロセス
全社的な観点で評価すべき決算・財務報告プロセス
「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下「実施基準」という)では、全社的な観点での評価が適切な決算・財務報告プロセスとして、以下の手続きを例にあげています。
- 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続
- 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続
- 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続
全社的な観点で評価すべき決算・財務報告プロセスは、全社的な内部統制と同じく、その整備・運用状況が、企業グループ全体の財務報告の信頼性に影響を及ぼします。
個別に評価すべき決算・財務報告プロセス
実施基準では、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスは個別に評価すべき、としています。
たとえば、個別財務諸表作成のための決算整理業務のように、企業グループ全体に関わるものではなく、各事業拠点で行われる業務のうち、財務報告への重要性の大きいものに係る業務プロセスが「個別に評価すべき決算・財務報告プロセス」となります。
重要性の大きい業務プロセスってどういうもの?
重要性の大きい業務プロセスを検討する具体的なポイントは、以下のとおりです。
リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス(例)
- 金融取引やデリバティブ取引を行っている事業又は業務
- 価格変動の激しい棚卸資産を抱えている事業又は業務
- 複雑な会計処理が必要な取引を行っている事業又は業務 など
見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス(例)
- 引当金
- 固定資産の減損損失
- 繰延税金資産(負債) など
非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス(例)
- 通常の契約条件や決済方法と異なる取引
- 期末に集中しての取引
- 過年度の趨勢から見て突出した取引 など
決算・財務報告プロセスの留意すべき特性
決算・財務報告プロセスは、取引の発生から財務報告作成までの過程において、一番最後に行われる業務プロセスですので、不正や誤謬があれば、直接的に財務報告の信頼性に影響を与えることになります。
それってどういうこと?
「直接的に財務報告の信頼性に影響を与える」主な理由は以下のとおりです。
- 決算業務の実施頻度が少ないため、手順を見直す・習得する機会が少なく、ミスが起こりやすい
- 決算業務は期末日後に行われるものが多く、内部統制上の不備を発見しても、是正が評価基準日(=期末日)に間に合わない
- たった1つのミスでも「開示すべき重要な不備」として内部統制報告書に記載しなければならない事態になりかねない
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用ポイント
上記の決算・財務報告プロセスの留意点に注意して、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用を行う必要があります。
全社的な観点で評価すべき決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用ポイント
上場会社では、会社法、金融商品取引法、さらに取引所のルールによって財務報告の開示期限があり、これに対応できる社内管理体制をつくる必要があります。
全社的な観点で評価すべき決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用の主な目標は、組織的な取組みによって財務報告の「正確性」と「迅速性」を確保することです。
そのために企業集団全体にわたって整備が必要なものとしては、たとえば以下のような方針や規程、組織体制等があります。
- 会計方針(グループ会計方針、経理規程等)
- 経理部門体制(人員確保、教育体制等)
- 会計処理の標準化(決算業務マニュアル、連結パッケージ等)
- 決算業務の分掌、職務権限(内部牽制等)
- IT統制(会計システム利用ルール等) など
なお、全社的な観点で評価すべき決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用は、全社的な内部統制と同様に、主にチェックリストを用いて行います。
個別に評価すべき決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用ポイント
前述のように、以下の点を考慮して、財務報告に対する重要性が大きいと判断された決算・財務報告プロセスが、個別に評価する対象とされます。
- リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
- 見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
- 非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス
この個別の業務プロセスに係る内部統制の整備では、3点セットや業務マニュアル、チェックリストを作成します。
3点セットってなに?
3点セットとは、「フローチャート」「業務記述書」「リスク・コントロール・マトリクス(RCM) 」と呼ばれる文書のことです。
これらは、業務プロセス上に存在するリスクと、それに対応する統制(コントロール)を把握するために作成され、監査にも利用されます。
フローチャート
業務フローや情報の流れを図で示したもので、不正や誤謬のリスクがある箇所、およびそのリスクに対する統制を明示します。
業務フローに関わる帳票やシステムの名称、手作業での統制かITを利用した統制か、なども記載します。
業務記述書
業務フローや情報の流れを文章で示したもので、フローチャートと対応しています。
フローチャートでは記載できなかった詳細な情報を記述することができます。
リスク・コントロール・マトリクス(RCM)
勘定科目や金額の計上・表示が正しいことを主張する要件を「アサーション」といいます。
<アサーションの種類>
- 実在性:資産及び負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生していること
- 網羅性:計上すべき資産、負債、取引や会計事象をすべて把握していること
- 権利と義務の帰属:計上されている資産に対する権利及び負債に対する義務が企業に帰属していること
- 評価の妥当性:資産及び負債を適切な価額で計上していること
- 期間配分の適切性:取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益及び費用を適切な期間に配分していること
- 表示の妥当性:取引や会計事象を適切に表示していること
リスク・コントロール・マトリクス(RCM)は、このアサーションの観点から、虚偽記載が発生するリスクと、それに対応する統制を明らかにするものです。
また、フローチャートや業務記述書とも関連付けて作成されます。
なお、個別に評価すべき決算・財務報告プロセスのなかには、経理部門内に限定された業務フローで完結するものもあり、そのようなプロセスについては、3点セットではなく、アサーション、リスク、統制の関連性が理解できる形式のチェックリストのみを作成する場合があります。