業務プロセスの文書化 ーフローチャートー

業務プロセスに係る内部統制

 業務プロセスに係る内部統制の整備にあたって、評価対象とする業務プロセスを識別したら、その業務プロセスについて、取引の流れや会計処理の過程を整理し、理解します。

 そのために、フローチャートや業務記述書を作成し、業務プロセスを可視化します。

 また、業務プロセスに係る内部統制の評価の際にも、これらの文書を活用します。

 この記事では、フローチャートについて簡単にまとめました。

※実施基準=「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」

フローチャートとは

 実施基準では、評価対象となる業務プロセスの把握・整理について、以下のように記されています。

経営者は、評価対象となる業務プロセスにおける取引の開始、承認、記録、処理、報告を含め、取引の流れを把握し、取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程を理解する。

 また、取引の流れを把握するために、必要に応じ、図や表を活用して整理・記録することを勧めており、その例のひとつとしてフローチャートを挙げています。

 取引の流れの把握に加え、システム間のデータの流れ等についても、フローチャートの作図の際に欄を設けて記載できるようにします。

 フローチャート等の業務プロセスの文書化は、部署や階層および社内外にわたって共通認識を持つために有益であり、財務報告の信頼性を確保するための重要なツールとなります。

 業務プロセスの可視化によって、業務プロセスを標準化したり、業務上のリスクを識別し、リスクに対するコントロールの設定が適切かどうかを確認することができます。

 なお、内部統制報告制度(J-SOX)における文書化は、冒頭に述べたとおり、評価対象として識別された業務プロセスに限定して行われます。

フローチャートの作成ポイント

 フローチャートは、業務記述書の内容をフロー図として表したものです。

 業務記述書の内容を充実させておくことで、フローチャートの作成は比較的楽になります。

 実施基準では、フローチャート(「業務の流れ図」)として以下の図が例示されています。

以下のフローチャート作成時の留意点については、業務記述書の作成ポイントと概ね同じです。

  • 記述が必要な取引の区分
  • 証憑書類との整合性
  • 業務フローの変更への対応
  • 他プロセスとの共通業務フロー

縦書きと横書きのフローチャート

 実施基準で例示されているフローチャートは縦書きですが、書籍等では以下のような横書きのフローチャートもよく見られます。

 縦書きフローチャートでは縦に時間が流れ、部門単位の作業ステップを重視します。

 横書きフローチャートでは横に時間が流れ、作業ステップの流れそのものに注目するため、不適切な職務分離が見えやすくなります。

フローチャートに使用する記号

 フローチャートの作成では一般的に作図が可能なソフトウェアが利用されます。

 内部統制においては、内部監査や監査法人等、作成者とは異なる者が利用する場面が多いため、作成にはExcel等の閲覧時の汎用性が高いソフトウェアを使用した方がよいと思われます。

 下記ではExcelの標準機能であるフローチャート用の記号の例を紹介します。

 なお、図としての明瞭性を保つため、使用する記号の種類は多すぎず簡単なもので、かつ、どのフローチャートにおいても使用する記号を統一させ、閲覧しやすいフローチャート作成を心がけます。

フローチャートの作図の粒度

 前述のように、フローチャートは、業務上のリスクを識別し、リスクに対するコントロールの設定が適切かどうかの確認に利用します。

 そのため、表現する作業ステップの粒度は、財務報告の虚偽記載につながるリスクが抽出できるレベルに分解(もしくは統合)する必要があります。

 また、あまりに詳細に作り過ぎると、フローチャートの維持およびメンテナンスに手間がかかり、陳腐化するおそれがあります。

(参考)システムプログラムのフローチャートとの違い

 プログラム作成に用いられるフローチャートと、業務プロセスを可視化するフローチャートは、その本質が異なります。

 参考までに、その違いを以下に簡単にまとめました。

システムプログラムのフローチャート業務プロセスのフローチャート
主な目的これから作成するプログラム等の設計・企画現在実施している業務プロセスの可視化
利用者専門知識を有する情報処理技術者等
作成者=利用者の場合も多い
監査法人、内部監査、上場審査担当者等、当該業務プロセスの専門知識を持たない不特定多数
作成者≠利用者の場合が一般的
明瞭性専門家にとって常識的な箇所は省略も可誰が見ても分かるように作成する必要がある
管理対象情報(データ)の処理を記述する経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報(データ))の動きを証憑と合わせて記述する
改訂基本的に1回のみの利用で再利用なし現状の業務プロセスと合致するように定期的に内容を確認、改訂し、継続的に使用する

 業務プロセスのフローチャートは、内部統制監査や上場審査等において、現状に沿った正確さが求められますので、作図の効率化や省略が逆効果になる場合があります。

 そのため、システムプログラムのフローチャート作成に習熟した方が業務プロセスのフローチャートの作成支援をする際には、漏れがないように注意が必要になると思われます。

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