不正に関するリスク ー不正のトライアングルー

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不正に関するリスク 内部統制入門編

 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」が2023年4月7日に公表されました。

 実施基準の改訂では、内部統制の基本的要素のひとつ「リスクの評価と対応」において、不正に関するリスクの評価の検討事項として「動機とプレッシャー、機会、姿勢と正当化(=不正のトライアングル)」が挙げられました。

 この記事では、「不正のトライアングル」について簡単にまとめました。

※内部統制基準=「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
※実施基準=「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」

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評価対象として検討する「不正に関するリスク」

 実施基準の「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み 2.内部統制の基本的要素 (2)リスクの評価と対応 ①リスクの評価」では、組織目標を阻害する要因となるリスクの評価の流れについて記されており、2023年の改訂では、以下のように不正に関するリスクについて新たに言及されています。

リスクの評価の対象となるリスクには、不正に関するリスクも含まれる。不正に関するリスクの検討においては、様々な不正及び違法行為の結果発生し得る不適切な報告、資産の流用及び汚職について検討が必要である。不正に関するリスクの評価においては、不正に関する、動機とプレッシャー、機会、姿勢と正当化について考慮することが重要である。

 組織が不正行為に対して無防備だったり、内部統制が弱い状態である場合、不正に関するリスクが高まります。

 不正行為には、資金の横領や不正会計処理、組織の資産の不正利用など、様々な形態があります。

 不正に関するリスクを把握し、適切に管理することは、ステークホルダーの信頼を獲得する上で非常に重要です。

 前述の引用では、不正に関するリスクの評価要素として「動機とプレッシャー」「機会」「姿勢と正当化」を挙げており、この3つの要素は「不正のトライアングル」と呼ばれています。

 内部統制は、不正に関するリスクを軽減し、組織の健全性を保つための基盤となります。

 適切な内部統制の整備・運用は、不正行為を未然に防ぎ、発見した場合は早期に対処することができるようになります。

不正のトライアングルの概要

 ドナルド・R・クレッシーは犯罪学者として横領の発生要因に関する仮説に基づく研究を行い、不正行為を解明するための理論を提唱しました。

 この理論を後にW・スティーブ・アルブレヒトがモデル化し、「不正のトライアングル(The Fraud Triangle)」として知られるようになりました。

 不正のトライアングルは、不正行為が発生するために必要な3つの要素「動機とプレッシャー」「機会」「姿勢と正当化」から成り立っています。

<動機とプレッシャー>

 不正行為を行う動機やプレッシャーが存在することをいいます。

 経済的な問題、個人的な困難、報酬の欠如など、個人が経験するさまざまな圧力が該当します。

<機会>

 不正行為を実行する機会が存在することをいいます。

 組織内の内部統制の脆弱性や、監督不十分、あるいは複数の人間が関与する複雑なプロセスなど、不正行為を隠すことができる余地がある場合が該当します。

<姿勢と正当化>

 不正行為を正当化する理由や思い込みが存在することうをいいます。

 例えば、組織に対する不満や不公平感、他の人が同様の行為をしているからなど、個人が自らの行動を合理化するための理由が該当します。


 組織はこれらの要素に着目して内部統制を強化し、不正のリスクを軽減する対策を取ることが重要です。

不正のトライアングルの要素「動機とプレッシャー」

 不正のトライアングルにおける「動機とプレッシャー」として、金銭的な欲求や、処遇への不満などの個人的な理由、経営者からの過度なプレッシャー、過重なノルマや、業績悪化、株主からの圧力等の組織的な理由などが挙げられます。

<厳しい業績評価や競争環境>

  • 業績主義が過剰に強調される組織文化では、従業員は個人的な成功や成果達成に対して強いプレッシャーを感じ、目標を達成するために不正手段を選択する可能性が高まります。
  • 組織内で激しい競争がある場合、報酬や昇進の機会を得るために不正行為に走る従業員が増えることがあります。
  • 個人の業績評価が厳格であり、失敗や低い評価を受けることへの恐れから、不正行為を行う動機が生じる場合があります。

<不適切な報酬システム>

  • 報酬が不透明で公正性が欠如している場合、報酬を得るために不正な手段を選択する誘因となります。
  • 従業員が組織の意思決定プロセスや報酬システムに対して不信感を抱く場合、その不満を解消するために不正行為を試みることがあります。

<個人的な経済的困難>

  • 経済的な問題や個人的な困難に直面している従業員は、経済的な動機から不正行為を行う誘因を抱えることがあります。

<市場環境からのプレッシャー>

  • 株主などの外部のステークホルダーからの企業の収益力や継続的な成長に関する期待に応えるため、経営者が不正行為に走る場合があります。
  • 取引所の上場基準、債務の返済又はその他借入に係る財務制限条項に抵触しうる状況が不正行為を誘う要因となりえます。

不正のトライアングルの要素「機会」

 不正のトライアングルにおける「機会」として、重要な事務手続きを1人の担当者に任せている場合のような、必要な相互牽制や承認プロセスの不備等が挙げられます。

<業務分掌や職務権限の設定の不備>

  • 組織内の業務プロセスや役割が適切に隔離されていないため、一個人が重要な業務を全て取り仕切ってしまう状況が発生し、不正行為を隠蔽しやすくなります。
  • 機密情報や重要な資産(現金等)へのアクセスを適切に制御していない場合、不正行為を実行するための機会が増えます。
  • 財務情報や報告が透明性を欠いており、誰もが容易にアクセスできない場合、不正行為を行う機会が増えます。

<不十分な監督体制>

  • 上司や管理者が部下や従業員の業務を適切に監督しない場合、コーポレートガバナンスが機能していない場合などでは、不正行為が発生しても早期に発見されず、機会が継続的に存在しやすくなります。
  • 無効な取引が許可されたり、適切な承認プロセスが欠如している場合、不正行為を行う機会が高まります。
  • 不正行為を発見・報告するための仕組みが整備されていない場合、不正が見過ごされることがあり、不正行為を行う機会が継続的に存在することになります。

<仕組みの複雑さや不透明性>

  • 業務プロセスや組織の構造が複雑すぎる場合、不正行為を隠蔽しやすくなり、発見が難しくなります。
  • 不正な取引先との関係を持ち、組織の資産を悪用することができる機会が生じやすくなります。
  • イレギュラーな取引、極めて複雑な取引、困難な実質的判断を行わなければならない取引等が存在する場合、不正行為の発見が困難になります。

不正のトライアングルの要素「姿勢と正当化」

 不正のトライアングルにおける「姿勢と正当化」は、個人的倫理観および組織的倫理文化の欠如により、不正が起こり得る状況において不正行為を思いとどまることができない状態をいいます。

<他の人が同様の行為をしている>

  • 周囲の人が同様の不正行為を行っているという考えにより、自分も不正を行うことを正当化します。
  • 経営陣や組織体の幹部が規則を破ることによって、不正を組織の文化と捉え、自身の不正行為を正当化します。

<組織に対する不満や報復>

  • 組織に不満を持っている場合、その不満を解消するために不正行為を行うという正当化が生じます。
  • 組織が公正な待遇を行っていないと感じた場合、不正行為を正当化することがあります。
  • 組織の目標や要求が不合理であると感じた場合、それを達成するために不正行為を行うことを正当化します。

<必要な資源の不足>

  • 仕事を遂行するために必要な資源が不足していると感じた場合、不正行為を正当化することがあります。

<経済的な困難>

  • 経済的な問題に直面している場合、不正行為を経済的な動機から正当化することがあります。

不正のトライアングルへの対応策

 不正のトライアングルに挙げられるような不正のリスクへの対応策として、以下のようなものが考えられます。

<倫理的文化の醸成>

  • 組織のリーダーや管理者に対して倫理的なリーダーシップを強化し、従業員に良い行動のモデルを示すことで、倫理観の向上と不正行為の防止に寄与します。
  • 組織全体に倫理的な文化を根付かせるために、倫理的行動を重視するポリシーやガイドラインを明確にし、倫理観を強化します。
  • 従業員に対してコンプライアンス教育を実施し、倫理的な行動を重視する企業文化を育成します。

<内部統制の強化>

  • 組織は適切な内部統制を導入・強化することで、業務プロセスや資産の適切な監督・管理を確保します。
  • 職務分掌と監督体制を確立し、特定の業務は複数の人間に分担させることで、一人の従業員による不正行為を防ぎます。

<リスク管理と内部監査>

  • 定期的な内部監査やリスク評価を実施することで、組織内の弱点やリスクを特定し、適切な対応策を講じます。

<適切なプレッシャーと人事評価・報酬制度>

  • 報酬システムを透明にし、公正な評価基準を設けることで、従業員の報酬に対する不満や不公平感を軽減し、不正行為の誘因を減少させます。
  • 投資や業績だけでなく、倫理的行動やリーダーシップに対しても報奨や認識を与えることで、従業員が倫理的な行動を奨励される環境を構築します。

<内部通報制度>

  • 不正行為に対する厳格な規定を定め、従業員が報告するホットラインや匿名通報制度の導入により、責任と透明性を強化します。従業員が不正を報告しやすい環境を作ることで、不正行為を抑制します。

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