決算・財務報告プロセスにおける「四半期決算」とは

決算・財務報告プロセスに係る内部統制

 財務報告に係る内部統制(J-SOX)は、内部統制の4つの目的のうち、「財務報告の信頼性」の保証を的とするものです。

 四半期決算や年次決算などの「決算・財務報告プロセス」における誤謬(エラー)や不正は、「財務報告の信頼性」に直接影響を及ぼします。

 そのため、内部統制の整備・運用により、当該プロセスに係るリスクを低減しなければなりません。

 しかしその前に、四半期決算や年次決算などの「決算・財務報告プロセス」とは何か、このプロセスにおいてどんな処理がされているのかを理解する必要があります。

 この記事では、まず「四半期決算」について、簡単にまとめました。

金融商品取引法における四半期報告制度の概要

 四半期決算とは、企業または企業グループが3か月ごとの業績、財務状態およびキャッシュ・フローの状況を開示するための手続をいいます。

 月次決算は一般的に自社の経営管理のために行われますが、上場企業の四半期決算においては、金融商品取引法に規定されており、株主などの財務諸表利用者へ適時に財務情報を提供するために行われます。

 上場企業は以下の四半期連結財務諸表の作成が義務付けられていますが、連結ベースで四半期財務諸表を作成しない場合は、個別ベースの四半期財務諸表を作成する必要があります。

  • 四半期連結貸借対照表
  • 四半期連結損益計算書
  • 四半期連結包括利益計算書
  • 四半期連結キャッシュ・フロー計算書(第1および第3四半期は任意で作成)

※株主資本等変動計算書の作成は不要です。

 さらに、四半期決算期末日から45日以内に四半期報告書を提出することが求められています。

四半期決算における内部統制上の留意点

 四半期財務諸表の作成に関する会計基準については、「四半期財務諸表に関する会計基準」および「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」で規定されています。

 また、四半期財務諸表の作成に際しては、年度財務諸表の作成にあたって適用される会計処理や手続きに準拠することとされています。

 しかしながら、四半期財務諸表は年度財務諸表より開示の迅速性が求められるため、一部の会計処理においては簡便的な手続きが認められています。

 もしくは原価差異の繰延処理など、四半期特有の会計処理が容認されているものもあります。

 四半期決算を内部統制の観点からみると、どの会計処理を採用するかを事前に検討し、企業グループの関係者に周知するプロセスや、会計基準が遵守されているかのモニタリングが必要になります。

 四半期決算は年次決算と類似した手順で行われるため、正確かつ迅速に四半期決算を実施できるようような体制をとっておくことは、「財務報告の信頼性」の構築を支援することになります。

 実施するのが年に3回とはいえ、しっかりノウハウを蓄積して、適切なスケジュール管理ができるようにしておくことが重要です。

 また、上場企業では四半期ごとに金融商品取引法に規定された開示があるため、非上場企業に比べて業務量や難易度が増し、経理部門などで求められる人的リソースやスキルの重要性が高まります。

 そのため、教育制度などによって、会計基準の改正情報のキャッチアップや、会計処理の知識向上を日頃から図っておく必要があります。

四半期決算における会計処理

 前述したように、四半期決算では、簡便的な処理四半期特有の会計処理が認められています。

 以下では、主な簡便的処理または四半期特有の会計処理について簡単にまとめました。

一般債権の貸倒見積高

 一般債権の貸倒見積高を算定する際に用いる貸倒実績率等において、前年度と著しく変動していない場合は、前年度の貸倒実績率等を使用することができます。

有価証券の減損処理の洗替え法

 年次決算における有価証券の減損処理は、切放し法のみが認められていますが、四半期においては、継続適用する場合に限り、切放し法と洗替え法のいずれかを選択することができます。

棚卸資産

1.実地棚卸の省略

 四半期末の棚卸資産残高の算定について、期首から四半期末までの棚卸資産の受払記録から算定するなど、合理的な方法によることができます。

2.洗替え法と切放し法の選択

 年次決算において洗替え法を採用している企業は、四半期決算でも洗替え法を採用することになります。

 しかし、年次決算で切放し法を採用している企業においては、四半期決算で洗替え法を選択することができます。

3.収益性の低下が明らかな場合

 棚卸資産の収益性低下が明らかな場合、正味売却価額を見積り、簿価の切下げを行うことができます。

 四半期決算では、収益性低下を捉える方法は、部門別損益や品目別損益の状況によることが認められます。

4.前年度末に処理見込価額まで切下げた棚卸資産

 前年度末において棚卸資産の帳簿価額を処分見込価額まで切下げている場合、前年度から当四半期末までに著しい状況の変化がなければ、前年度末の貸借対照表額を引き続き計上することができます。

原価差異の処理方法

 原価差異の配賦において、簡便的な会計処理と、四半期特有の繰延処理のいずれかを選択することが認められています。

 簡便的な会計処理では、年次決算よりも簡便な算定方法を用いて棚卸資産と売上原価へ配賦することができます。

 四半期特有の繰延処理では、一定の条件を満たせば、原価差異を流動資産または流動負債に振替処理を行います。

経過勘定

 以下のものは、投資家など財務諸表を利用する者の判断を誤らせない限り、合理的な算定方法により概算額を計上することができるとされています。

① 契約により役務提供の金額が事前に定まっているもの

  • 財務関連:支払利息、受取利息 等
  • 施設・設備関連:地代家賃、受取賃料、保険料 等
  • その他:新聞雑誌等の購読料、業界団体等の会費、情報システム等の外注業務委託料 等

② 見積りにより未払費用の金額を算定するもの

  • 未払賞与等
  • 未払給与等

固定資産

1.年度予算を作成している場合

 固定資産の取得、除却および売却等の見積りを考慮したうえで、減価償却費に係る年度予算を作成している場合、年間の減価償却予定額を期間按分して四半期決算の減価償却費として計上することができます。

2.減価償却方法において定率法を採用している場合

 年間の減価償却費の額の1/4を四半期決算の減価償却費として計上することができます。

3.減損の兆候の把握

 前期末等において所有する資産または資産グループについて、全体的に減損の兆候を把握している場合には、必ずしも各四半期末に資産または資産グループに関連する営業損益、営業CF等の情報を入手する必要はないと考えられます。

 ただし、前年度末に把握した減損の兆候等に著しい変動がある場合を除きます。

法人税等および繰延税金資産・負債

1.年次決算と同様の方法による場合

 投資家等の財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、加減算項目や税額控除項目を重要なものに限定することができます。

2.繰延税金資産の回収可能性の判断

 以下に該当する場合は、前年度の回収可能性の検討に使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができます。

  • 重要な企業結合や事業分離がなく、業績や経営環境の著しい変化がないこと
  • 将来減産一次差異等の発生状況に大幅な変動がないこと

3.年間見積実効税率の利用

 四半期特有の会計処理として、税金費用の算定において、年度の税引前当期純利益に対する税効果適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前四半期純利益に当該見積実行実効税率を乗じて計算することができます。

 なお、その場合、前年度末に計上された繰延税金資産および繰延税金負債について、繰延税金資産の回収見込額を各四半期決算時点で見直すことになります。

 また、回収可能性の見直しについては、上記「繰延税金資産の回収可能性の判断」の簡便的な取扱いが認められています。

4.重要性の乏しい連結会社における税金費用

 重要性の乏しい連結会社の税金費用の計算において、以下2つの条件を満たせば、税引前四半期純利益に前年度の損益計算書における税効果会計適用後の法人税等の負担率を乗じて計算する方法が使用できます。

  • 重要な企業結合や事業分離がなく、業績や経営環境の著しい変化が発生していないこと
  • 四半期財務諸表上の一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないこと

 なお、当該連結会社の前年度末に計上された繰延税金資産および繰延税金負債については、そのまま四半期貸借対照表に計上されます。

5.未実現利益の消去に係る税効果

 期首から四半期末までに連結会社間の取引で生じた未実現利益を四半期連結の手続で消去するにあたり、未実現利益の額が売却元の年間見積課税所得額を上回っている場合は、連結消去に係る一時差異の金額は、売却元の年間見積課税所得額を限度とします。

6.連結納税制度を採用

 連結納税制度を採用した場合であっても、予想年間税金費用と予想年間税引前当期純利益を合理的に見積もることができるのであれば、年度の税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前四半期純利益に当該見積実効税率を乗じて計算する方法を採用することができます。

退職給付引当金

1.退職給付費用の計上方法

 四半期会計期間および期首からの累計期間の退職給付費用は、期首に算定した年間の退職給付費用を期間按分した額を計上することとされています。

2.数理計算上の差異の償却方法

 数理計算上の差異の償却については、以下の償却方法があり得ます。

  • 数理計算上の差異が発生した年度に一括で費用処理する方法を採用している場合は、発生年度の第4四半期に全額費用計上
  • 数理計算上の差異が発生した年度から残存勤務期間で期間按分して費用処理する方法を採用している場合は、発生年度の第4四半期に1年分の費用処理額を計上
  • 数理計算上の差異が発生した年度の翌年度から残存勤務期間で期間按分して費用処理する方法を採用している場合は、翌年度から年間費用処理額を期間按分して計上

3.過去勤務債務の償却方法

 過去勤務債務の償却については、以下の償却方法があり得ます。

  • 過去勤務債務を発生時に全額費用処理する方法を採用している場合は、発生年度の第4四半期に全額費用計上
  • 過去勤務債務を発生年度から残存勤務期間で期間按分して費用処理する方法を採用している場合は、四半期会計期間および期首からの累計期間の費用処理額は、年間費用処理額を期間按分して算定

連結財務諸表の会計処理

1.債権・債務の相殺

 連結会社間の債権の額と債務の額に差異が見られる場合は、合理的な範囲内で、当該差異の調整を行わずに債権・債務を相殺消去できます。

 ただし、その差異に重要性があれば、差異の原因分析を行ったうえで債権・債務を消去する必要があります。

2.取引の相殺

 取引金額の差異の重要性が乏しいのであれば、以下のような一定の合理的な方法に基づき、連結会社間の取引を相殺消去することができます。

  • 親会社の金額に合わせる
  • 金額の大きい方に合わせる
  • 数値の確実性が高い側に合わせる

3.未実現利益の消去

 四半期末の棚卸資産在庫高に含まれる未実現利益の消去の対象となる棚卸資産の金額、および当該売買取引に係る損益率を、合理的に見積もって、消去すべき未実現利益の額を計算することができます。

 また、前連結会計年度または直前の四半期会計期間から、連結会社間の取引状況に大きな変化がない場合は、前連結会計年度または直前の四半期会計期間で使用した損益率や、合理的な予算制度に基づいて、算定された損益率を使用することができます。

開示

1.四半期貸借対照表の表示

 四半期財務諸表の表示方法は、基本的には年度の財務諸表に準じますが、開示の迅速性が求められるため、主要な科目は独立掲記したうえで、その他の科目は集約して記載することができます。

 なお、連結貸借対照表で独立掲記が求められる科目のうち、四半期連結貸借対照表で独立掲記が求められていない科目は以下のとおりです。

区 分勘定科目
流動資産リース債権およびリース投資資産
無形固定資産リース資産
流動負債リース債務
固定負債・リース債務
・繰延税金負債

 また、年度の貸借対照表において、主要科目ごとに独立掲記が原則であるのに対し、四半期で一括表示が原則とされている区分は以下のとおりです。

区 分四半期連結財務諸表連結財務諸表
有形固定資産「有形固定資産」として一括表示・建物及び構築物
・機械装置及び運搬具
・土地
・リース資産
・建物仮勘定
・その他
投資その他の資産「投資その他の資産」として一括表示・投資有価証券
・長期貸付金
・繰延税金資産
・退職給付に係る資産
・その他
繰延資産「繰延資産」として一括表示・創立費
・開業費
・株式交付費
・社債発行費
・開発費

 区分表示を求める数値基準について、年度の連結貸借対照表では「総資産の5/100」を超える科目の区分表示が求められますが、四半期連結貸借対照表では、その数値基準が「総資産の10/100」となります。

 引当金の表示については、年度の貸借対照表では、流動負債および固定資産に含まれる引当金は設定目的を示す目的を付した科目で表示することが原則です。

 しかし、四半期連結財務諸表では、負債および純資産合計の1/100を超える場合に、その設定目的を示す名称で表示することとされています。

2.四半期損益計算書の表示

 販売費および一般管理費、営業外損益、特別利益、法人税等の表示について、年度の連結損益計算書と四半期連結損益計算書の違いは以下のとおりです。

四半期連結損益計算書連結損益計算書
販売費及び一般管理費の主要な科目・引当金繰入額(少額のものを除く)
・販売費及び一般管理費合計の20/100超
・引当金繰入額(少額のものを除く)
・販売費及び一般管理費合計の10/100超
営業外損益で一括表示できる項目営業外収益(又は営業外費用)の総額の20/100以下で一括表示が適当なもの営業外収益(又は営業外費用)の総額の10/100以下で一括表示が適当なもの
特別損益で一括表示できる項目特別利益(又は特別損失)の総額の20/100以下で一括表示が適当なもの特別利益(又は特別損失)の総額の10/100以下で一括表示が適当なもの
法人税等「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」の一括表示可(注記が必要)──

 なお、販売費および一般管理費については、主要な科目は注記により開示することも認められています。

3.四半期キャッシュ・フロー計算書の表示

 四半期キャッシュ・フロー計算書では、営業活動キャッシュ・フローの表示において、小計を省略することができます。

4.注記事項

 四半期財務諸表は45日以内での開示が必要であるため、開示の迅速性が求められます。

 そのため注記においても簡略化が図られており、前年度と比較して著しい変動がある項目など、重要な事項の記載に限られています。

 なお、四半期決算において、簡便的な処理四半期特有の会計処理を採用し、それが重要性のあるもの、または以下に該当する場合は、その内容を記載する必要があります。

  • 簡便的な処理:減価償却費を合理的な予算に基づいて算定した場合
  • 四半期特有の会計処理:見積実効税率による税金費用の計算、原価差異の繰延処理

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