株式会社BlueMemeは2026年3月期決算の準備中、2020年3月期以降の一部取引の会計処理を精査する必要があるとして、2026年5月13日に決算発表の延期を開示しました。
5月28日には、会計監査人であるあおい監査法人からの情報提供を契機に、特定取引先との取引で売上の計上時期や会計処理、関連する仕入処理に誤りがあったことが判明したと公表しました。
外部専門家による当初調査の途中報告では、2020年3月のライセンス販売30百万円は派遣外注費の値上げと一連の取引であり、負債として処理すべきこと、売上の一部27百万円は翌月に計上すべきことが指摘されました。
その結果、2020年3月期は売上高57百万円、営業利益と純資産33百万円が過大計上され、本来は営業損失だったことが明らかになりました。同日、定時株主総会の継続会を開催する方針も決議しました。
さらに、前任監査人のEY新日本からより広範な検証が必要との懸念が示されたため、6月11日に外部専門家のみで構成される特別調査委員会を設置しました。
本記事では、調査報告書に記載されている事由の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は株式会社BlueMeme特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:974百万円(2026年6月30日時点)
- 売上高:2,349百万円(2025年3月期)
- 従業員数:159名(連結:2026年7月23日現在)
- 事業内容:ローコード技術とアジャイル手法を中心としたDX事業
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:監査等委員ではない取締役6名(うち社外取締役3名)及び監査等委員である取締役3名(全て社外取締役)の合計9名で構成、毎月1回定期開催
※不正発生当時は常勤の取締役3名、非常勤の取締役1名及び非常勤の社外取締役1名で構成 - 監査等委員会:監査等委員である社外取締役3名(うち常勤監査等委員1名)で構成、毎月1回定期開催
※不正発生当時は監査役会設置会社であり、社外監査役3名(うち常勤監査役1名)で構成 - 経営会議:取締役及び執行役員を含む各部門責任者等により構成、月1回以上定期開催
ソフトウェア取引の調査結果
特別調査委員会は、2020年3月期に計上したa1社向けソフトウェアライセンス売上3,000万円を「不正な財務報告」と認定しました。代表取締役社長だったZ氏と執行役員経営管理部長だったD氏が証憑を意図的に隠し、実態は無償の取引を有償の売上取引と偽ったと判断しています。
背景:上場を急ぐなかでの予算未達
BlueMemeは遅くとも2015年から株式上場の準備を進めていました。しかし月次決算の未達が続き、主幹事証券会社から上場目標の延期を繰り返し求められていました。
2019年11月には、2020年2月までの累計黒字化や前年度を上回る売上の確認などが上場の条件とされ、社内では「売上不足額1.5億円の対策」が話し合われていました。
そうしたなか、Z氏(元代表取締役社長)は2019年11月頃から、技術者の派遣(業務委託)を受けていたa1社に対して、共同開発事業と自社開発の部品一式を8,500万円で提供する提案を始めます。
Z氏の手元資料には「IPOを目的に審査中」「本取引が成立すれば上場申請を進められる」と書かれており、社内チャットでは「a1社を2月に売上計上してくれることで(上場の条件が)5つとも達成見通し」と報告されていました。
2020年1月の社内打合せのメモからは、8,500万円で販売する一方で、月額500万円×19か月を外注費としてa1社側に支払う仕組みが検討されていたこともうかがえます。
3,000万円への縮小と「念書」
交渉の過程で、8,500万円は「共通部品一式3,000万円」と「独占権5,500万円」に分けられました。D氏(元執行役員経営管理部長)は先方に、3,000万円を3月に、残りを翌期に計上するという、計上時期を分ける意図を伝えています。
その後、新型コロナの影響などもあってa1社はまず3,000万円分だけを契約する方針に転じ、5,500万円分は立ち消えになりました。
a1社側は交渉の初めから、支払った額を回収したいという意向を示していました。2020年4月9日、a1社のH氏はZ氏に「共通部品一式の取引に関する念書」の案を送ります。BlueMemeがa1社に支払う業務委託費の単価を上げることなどにより、総額3,350万円をa1社に支払うと約束する内容でした。
H氏は「代表取締役としてではご都合が悪いと思いました」として個人名義での署名を求め、Z氏は日付を空欄にしたまま、個人の実印で署名・押印しました。
契約書は実際には4月10日に押印されたにもかかわらず、日付は「2020年3月30日」に遡らせてありました。そして3月31日付の受領書をもとに、3,000万円が2020年3月期の売上に計上されました。
部品ごとの単価は押印の直前に、総額3,000万円を開発工数で按分して決めたものでした。部品を収めたDVDがa1社に届いたのも、4月中旬以降だったとみられます。
単価増額による「返済」
2020年6月以降、同社はa1社(のちに事業を引き継いだa2社)の派遣技術者の単価を引き上げ、その増額分を「返済」として管理しました。D氏(元執行役員経営管理部長)は「【返済ベース】」と題した管理表を作り、a1社側のH氏も「回収率」を記した表で管理していました。
業務と関係のない作業を無償で引き受け、その35万円分を返済に充てたこともあります。2024年の社内チャットでは、Z氏が返済の終わりを「イメージは2027年ですね」と述べ、担当者は2028年に完済する試算を出しています。
Z氏(元代表取締役社長)は「単価を適正な水準に引き上げただけ」と説明しましたが、委員会は不合理な弁解として退けました。
念書はD氏の個人フォルダに保管され、当時の会計監査人だったEY新日本にも開示されていませんでした。
疑義の発覚とその後の対応
2025年11月、当時社長だったB氏は、派遣費の削減を検討するなかで担当者からa2社への「借入れの返済」について説明を受け、監査役に報告しました。ところが監査役会は、経営権をめぐるZ氏(元代表取締役社長)とB氏の対立などを理由に調査を先送りし、監査法人にも伝えませんでした。
調査が始まったのは2026年2月、あおい監査法人が外部からの情報提供を受けて報告してからです。当初の特別調査体制によるヒアリングでも、Z氏とD氏(元執行役員経営管理部長)は念書の存在を明かしませんでした。
念書が提出されたのは、監査法人の指摘を受けた4月のことです。この間、監査役同士では「Zをローコード業界から退場させる訳にはいかない」など、Z氏をかばうメールがやり取りされていました。
会計処理と「不正」の評価
特別調査委員会は、念書の存在と内容、その後の支払いの状況から、ライセンス販売と単価増額は経済的な実態として一体の取引だと判断しました。許諾料は最初から全額を返すと合意されていたため、実態は無償の使用許諾だったという評価です。
問題の核心は会計基準の当てはめ方の誤りではなく、取引の事実関係そのものが偽られたことにあるとしています。
当初調査は「不正とまでは断じられない」としていました。これに対して特別調査委員会は、弥永真生教授の意見を踏まえ、証憑の隠蔽のように会計基準と関係のない行為は、事実関係を認識していれば「意図的」と評価できると整理しました。
念書はあえて個人名義で作られ、証憑として扱われず、監査人や取締役会にも示されていません。こうした点から隠蔽の意図は明らかだとして、監査基準報告書240にいう「不正」に当たると結論づけました。
Z氏(元代表取締役社長)は「D氏(元執行役員経営管理部長)が問題ないと言った」と述べましたが、D氏はこれを否定しており、特別調査委員会はZ氏の供述を責任転嫁とみています。
類似事案の調査結果
2020年3月31日に計上したb社向けデータベースライセンスの売上2,760万円は、利用開始日が2020年4月1日、ライセンスキーの発行は4月2日で、本来は2021年3月期の売上でした。納品書と受領書は4月15日以降に作られ、「『忘れてました』体で」日付を3月31日にするよう指示されていました。
営業担当者は実態と異なる受領書だとわかっていたとして、委員会はこれも不正な財務報告と認定しました。ただし取締役の関与は認められず、従業員による不正とされています。
発生原因の分析
特別調査委員会は「不正のトライアングル」の枠組みで原因を分析しています。
動機
上場目標の延期が繰り返され、予算を2度下方修正した後も、原価のかからない3,000万円の売上がなければ売上予算に届かない状況でした。
Z氏(元代表取締役社長)は「5,500万円の取引を実現するために念書に応じた」と説明しましたが、その後に先方の意向を確かめることすらしておらず、委員会はこの説明を信用できないとしています。
機会
本来は取締役会の手続が必要な債務の負担を、社長個人名義の非公式な書面にすることで手続を回避し、仕訳を承認する経営管理部長のチェックも働かなくしました。経営トップが自らの立場を使って内部統制を無効にした事案と位置づけられています。
姿勢・正当化
取引先との関係を保つこと、早期の上場で事業を広げること、もともと安すぎた単価を直すにすぎないこと、といった考えが不正を正当化する理由として働いたとみられます。
b社事案については、経理・営業・営業サポートの各部門の連携不足と、「顧客の都合で日付が多少ずれても業界の慣行として許される」という誤った認識が原因とされました。
経営者不正の根本原因について、特別調査委員会はZ氏に欠けていたのは会計の知識ではなく、適正な財務報告を行う意識と姿勢だったと指摘します。調査でも事実に反する弁解や責任転嫁を続けたことから、上場会社の経営者としての誠実性に大きな問題があるとしました。
ガバナンスについては、取引当時に不正を察知するのは難しかったとしています。
一方で、疑義を把握した後の監査役会は、調査を先送りし、監査法人と情報を共有せず、Z氏をかばう姿勢を見せるなど、中立性・客観性を欠く対応があったと指摘しました。ただし、調査を妨害したとまでは認められないとしています。
おわりに
金額だけを見れば、本件は3,000万円という小さな売上の問題です。しかし、上場を前にした業績の圧力のもとで、経営トップが個人名義の「念書」という形で返金を約束し、それを会社の帳簿から切り離したという構図は、経営者不正の典型といえます。
さらに、疑義が見つかった後に監査役会が経営トップをかばう動きを見せたことは、有事の際にガバナンスがどう機能すべきかという課題を投げかける事案といえます。
