【Abalance】注文書一枚で始まった架空案件

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第三者委員会等調査報告書の要約

 Abalance株式会社は2025年9月に過去の有償支給取引を調査する第三者委員会を設置し、同年12月に調査報告書を受領しました。

 その後、検証委員会の設置や再発防止策の策定に取り組んでいましたが、2026年4月に会計監査人から、過去のIT事業取引(2019年・2020年6月期)に実態がない疑義があると指摘を受けました。

 これを受け、社会的信頼の回復途上にある状況を踏まえ、客観的かつ独立した調査が必要と判断し、2026年4月27日に外部専門家による調査委員会を設置して調査を委嘱しました。

 本記事では、調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細はAbalance株式会社社内調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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第三者委員会 調査結果報告書

Abalanceは、2025年9月に過去の有償支給取引を調査する第三者委員会を設置し、同年12月17日に調査結果報告書を開示しています。

第三者委員会の調査結果報告書公表に関するお知らせ」(PDF)

調査結果

取引の概要

 本件取引は、Abalanceが2019年3月頃、「社団法人丙」からLPWA管理システムのプロトタイプ構築作業を3,000万円(税抜)で受注し、その作業を乙氏が代表を務める乙社に2,700万円(税抜)で外注したとされる案件です。

 工事進行基準により、2019年6月期に2,000万円、2020年6月期に500万円の売上が計上されました。本件取引は社内において専ら甲氏(当時取締役・IT事業管掌)が一人で担当しており、他の役職員はほとんど関与していませんでした。

取引の問題が表面化した経緯

 外注費の残額が未払いのまま構築作業は完了せず、売掛金も未回収の状態が続いたことから、会計監査の過程で前任監査人から進捗や売上計上の適否が問題視されるようになりました。2020年8月にAbit代表取締役に就任したC氏も、1年以上未回収の売掛金を問題視し始めます。

 2021年1月の社内打合せで甲氏に説明を求めたところ、具体的な納品物がないこと、取引内容が当初の航空機部品関連から監視カメラ技術へと大きく変遷していることなど、不自然な点が多数判明しました。

 その後、社団法人丙の丙氏との面談で売掛金回収の見込みが立たなくなり、C氏らは乙社からの外注費返還を求める方針に転換しました。公正証書まで作成しましたが乙社からの回収もできず、最終的に甲氏本人から2,430万円を回収するに至りました。

 なお、社内メールでは本件売掛金が「架空債権」と呼称されていたことが、後に現監査人の疑義を抱くきっかけとなっています。

調査委員会の認定

 調査委員会は、本件取引について経済実態を伴うものとは認められないと判断しました。その主な根拠は、発注者である社団法人丙が法人として実在しないこと、契約書や仕様書等の基本的な証憑が存在しないこと、取引内容や発注元の説明が大きく変遷していること、の3点です。

 一方で、甲氏が意図的に架空売上を計上したとまでは認定しませんでした。甲氏には売上目標達成などのプレッシャーがなく、外注費の着服や外部との共謀を示す事情も認められず、むしろ自己資金2,430万円を出捐して会社の損失を補填させられた立場にあったためです。

会計上の影響

 本件取引により過去に計上された損益への影響額は合計20万円の損失過大計上にとどまります。売上・外注費ともに計上は認められないものの、甲氏からの入金と乙社向け債権の貸倒が相殺される結果、連結損益計算書への実質的な影響は軽微でした。

指摘された問題点

 調査委員会は3つの問題点を指摘しています。

 第一に、契約書がないまま実在しない法人を顧客登録できた社内審査体制の杜撰さです。

 第二に、甲氏からの金銭回収にあたり、法的根拠の検討が不十分であった点です。

 第三に、2021年当時の調査結果が議事録や報告書として適切に取りまとめ・保存されていなかった点であり、これが今般の調査委員会設置を余儀なくされた一因であったと指摘しています。

考察:内部統制基準から見る問題点および改善策

 Abalanceの調査報告書から明らかになった問題点と改善策を、内部統制基準の枠組みに沿って整理します。

全社的な内部統制の問題点

 本件の根本的な原因は、統制環境の脆弱さにあります。IT事業は従業員3名程度にまで縮小していたにもかかわらず、甲氏が取締役として案件の受注から外注管理まで一人で担当し、他の役職員が関与しない体制が常態化していました。

 3,000万円の案件で契約書がないままシステム登録がなされ、実在しない法人が顧客登録された点は、社内審査の仕組みが形骸化していたことを端的に示しています。また、子会社Abitでは約5年半にわたり取締役会議事録がほぼ作成されておらず、子会社ガバナンスも機能していませんでした。

 リスクの評価と対応の面では、縮小事業での突然の大口案件、発注者の不自然な変更、納期超過後の進捗不良など、不正リスクの兆候が複数存在したにもかかわらず、これを識別・評価する仕組みがありませんでした。

 前任監査人から問題視された際も、甲氏の説明をそのまま伝達するにとどまり、経営者としてのリスク対応が不十分でした。

 情報と伝達の面では、取引情報が甲氏に属人化し、経理部門が取引先と直接やり取りする仕組みがありませんでした。

 2021年の社内調査で重大な事実が判明したにもかかわらず、議事録や報告書が作成・保存されなかった点も深刻であり、調査委員会も「資料が保存されていれば委員会設置は不要だった」と指摘しています。

 モニタリングの面では、1年以上未回収の売掛金が制度的な仕組みで検出されず、代表取締役の交代により偶然発覚した経緯が、日常的モニタリング及び内部監査の機能不全を示しています。

業務プロセスに係る内部統制の問題点

 受注プロセスでは、取引先の実在性確認、信用調査、契約書の締結がいずれも行われず、注文書のみで取引が開始されていました。

 外注管理においても、仕様書のない発注、内容が曖昧な作業報告書による検収、支払条件の事後的変更など、統制が著しく不十分でした。

 売上計上では、工事進行基準の進捗度が外注費の支払額のみに基づいて算定され、実際の作業進捗を客観的に測定する仕組みがありませんでした。

 債権管理では、長期滞留債権への組織的な対応プロセスが欠如し、最終的な会計処理も取引実態を反映しない不適切なものでした。

改善策

 全社的な内部統制としては、一定金額以上の取引に対する取引先実在性確認・契約書締結・複数者承認の義務化、不正リスクシナリオを想定した定期的リスクアセスメントの実施、重要情報の属人化を防ぐシステム上での共有体制の構築、滞留債権のアラート機能を含むモニタリング体制の整備が求められます。

 業務プロセスに係る内部統制としては、新規取引先の登記確認・信用調査を含む審査手続の導入、外注先との仕様書・契約書締結の必須化と担当者以外による検収体制の整備、工事進行基準適用案件における進捗度の客観的検証手続の導入、異常な債権処理に対する経理・法務合同レビューの実施が必要です。

 本件は、統制環境の脆弱さが他の全ての内部統制要素に波及した典型的な事例です。一人の担当者に全プロセスが集中し相互牽制が働かない環境が、実在しない法人との取引を長期にわたり看過させる結果を招きました。

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