Abalance株式会社では、2024年3月に監査等委員会の調査報告書に基づき有価証券報告書等の訂正報告書を提出しました。
しかし、不適切な会計処理の経緯についてさらに疑義が生じたため、第三者委員会の設置が検討され、同年8月に利害関係のない外部専門家のみで構成される委員会の設置が決定されました。
第三者委員会はAbalanceの依頼を受けて調査を実施し、その結果の報告と原因分析および再発防止策の提言を行いました。
本記事では、調査結果報告書に記載されている事由の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細はAbalance株式会社第三者委員会「調査結果報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:2,521百万円(2025年3月期)
- 連結売上高:72,417百万円(2025年3月期)
- 連結従業員数:1,713名(2025年3月期)
- グループ事業内容:太陽光パネル製造事業、太陽光発電所及び関連設備の販売並びに売電に関するグリーンエネルギー事業
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:社外取締役3名を含む8名(男性7名、女性1名)で構成され、原則毎月1回開催
- 監査等委員会:弁護士を含む社外取締役3名で構成され、2025年度において監査等委員会を10回開催
- 内部統制委員会:代表取締役社長兼COO を委員長とし、適正な内部統制報告書の提出を通じて信頼性のある財務報告の開示を目的とする。
- コンプライアンス委員会:社外取締役を委員長とし、リスク管理及びコンプライアンス推進の実効性向上とリスク・マネジメント体制の強化を目的とする。
有償支給取引における不正会計(粉飾)
Abalanceの連結子会社であるWWBでは、太陽光発電所の建設を外注先に委託する際、太陽光パネルやパワーコンディショナーなどの部材を有償で支給し、外注先が完成させた発電所を買い戻す「有償支給取引」が行われていました。
会計基準上、このような取引では支給時点で売上を認識することはできません。Abalance経理部もアスカ監査法人からも「支給時に収益認識は不可」と明確に指摘されており、実際に2021年6月期までは連結決算において適正な修正処理がなされていました。
ところが2022年6月期と2023年6月期において、大和大衡、河口湖、神栖、蔵波、大波、田野、那珂の計7案件で、有償支給取引であるにもかかわらず売上と利益が計上され、連結決算でも修正されないまま有価証券報告書に記載されてしまいました。
影響額としては、第23期(2022年6月期)で売上312百万円・営業利益91百万円、第24期(2023年6月期)で売上2,130百万円・営業利益760百万円がそれぞれ過大に計上されています。
特に第24期のWWB単体では、有償支給取引による計上を除くと経常利益がほぼゼロの水準であり、利益計上の意図性を強く示唆するものとなっています。
第三者委員会はこれらの会計処理について、単なる「誤謬」ではなく「不正会計(粉飾)」であると明確に断定しました。その根拠として、各案件に以下のような共通パターンが存在していたことが挙げられています。
第一に、多くの案件でWWBと外注先との間で同日・同額の請求書が相互に発行され、同日に同額の入出金が行われることで、双方にとって実質的な資金負担がゼロであるにもかかわらず、形式上の売上が成立する構造がとられていました。
第二に、注文書や納品書、納品確認書などの証票には、品番、数量、単価、日付といった重要情報が欠落しているものが多数あり、後付けで作成された可能性が高いと指摘されています。
第三に、一部の案件では当初は無償支給として処理されていた取引が事後的に有償支給取引へと変更され、売上計上の根拠とされていました。
第四に、大和大衡案件や蔵波案件では、本来売上原価として計上すべき支出が建設仮勘定や固定資産として付け替えられたり、未回収売掛金が固定資産に振り替えられたりするなど、利益を過大に表示する会計処理も行われていました。
また、各案件の売上や利益の情報は、月次で作成される売上明細や粗利表に記載されており、経営陣も毎月目を通していたと認められています。
例えば大和大衡案件では、粗利表の売上総額の87%、粗利総額の84%を当該取引が占めており、経営陣が認識し得なかったとは到底考えられないと第三者委員会は指摘しています。
不正の背景としては、WWBの資金繰りのひっ迫と予算達成のプレッシャーが挙げられています。
WWBは先行投資段階にあり収益化には時間を要する状況で、円滑な資金調達の継続が事業存続に不可欠でした。金融機関に実態以上の財務情報を提供しようとするインセンティブが強く働いていたと推測されています。
「誤謬」との虚偽公表と第三者委員会設置の回避
2024年3月14日、Abalanceは監査等委員会の調査結果に基づき、不適切な会計処理は意図的な不正ではなく「誤謬」であったとして訂正報告書を提出し、適時開示を行いました。
しかし第三者委員会は、この公表自体が内容虚偽の適時開示であったと結論づけています。金融商品取引法第158条の「虚偽の風説の流布」に該当し得る可能性にまで言及しました。
社内のメールやヒアリングからは、経営陣が早い段階から本件が「不正(粉飾)」であることを認識していたにもかかわらず、対外的には「経理部の知識不足による誤謬」と説明する方針が組織的に形成されていた事実が明らかになっています。
常務取締役C氏は2024年1月21日に「対外的には経理部の知識不足として説明するしかない。監査等委員の調査結果でも経理部の知識・認識不足が主要因との結論が必要です」とメールで指示しました。
経理部長であったB氏も同年2月16日の社内打合せで「有償支給とかこの関係は『みんなバカでした』で頑張るしかない」と発言しています。
さらに経理部長S氏はC氏に対し「本来は粉飾なのですが、5%の基準クリアに一条の光が見えてきました」と報告しており、粉飾であるとの認識を明確に有していたことが確認されました。
より深刻な問題として、本来は独立した立場で調査すべき監査等委員会の委員までもが、第三者委員会の設置回避について経営陣と足並みを揃えていたことが判明しています。
監査等委員会の委員J氏は「第三者委員会を入れられたりの最悪の事態は是非、免れたい」とメールし、委員長F氏は「監査法人の意見不表明も、第三者委員会設置要求も回避していく極めて難しいオペレーションを粛々と進めていく必要がある」「第三者委員会設置の提案を回避するためにも、不正ではなく錯誤であると認定している」と記しています。
常務取締役C氏に至っては「第三者委員会設置されると刑事事件に繋がり小菅(東京拘置所)が現実になります。勿論、上場廃止に」と述べていました。
監査等委員会の調査は、会計専門家を含まない体制で、会社が選定・提供した資料のみに基づいて行われ、デジタル・フォレンジックも実施されず、ヒアリングの議事録も作成されていませんでした。
また「不正」の定義を「故意」の立証に限定する狭い解釈を採用したため、重過失による不正という観点からの検討が行われず、誤った結論に導かれたと指摘されています。
金融機関向け請求書の偽造
大和大衡案件に関連して、G金融機関から融資を受ける際にも重大な不正が認められました。
A社から実際に発行された請求額は約3.2億円でしたが、WWBの依頼によって約6.2億円の請求書が作成され、G金融機関に提出されました。さらにA社が発行した請求書のデータに対し、WWB側で請求金額や内訳の記載を上書き修正した別バージョンの請求書も作成・提出されています。
融資実行日の2021年7月30日には、WWBからA社へ約6.2億円が支払われた後、A社からWWBへ約5.2億円が同日中に返金されるという資金還流が行われました。
当時のAbalanceグループは資金繰りが極めてひっ迫しており、G金融機関からの16億円の借入がなければ月末に資金ショートしていた状況でした。加えて、請負代金29億円の契約書を48億円に上書き修正するデータの作成も行われていたことが確認されています。
大和町太陽光発電所の減損・賃貸借契約等
大和町太陽光発電所については、2024年9月に東北経済産業局よりFIT認定の失効通知を受け、系統連系契約も解除されるという重大な事態が生じています。
第三者委員会は、Abalanceの事業計画が減損回避圧力のもとで楽観的に作成された可能性を指摘しました。ただし、売電開始時期の見積りには一定の合理性があるとして、現時点で減損損失を認識すべきとまではいえないと評価しています。
一方で、減損兆候の判定を営業キャッシュ・フローのみで行っていた点や、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象が存在していた可能性など、複数の問題を指摘しました。
大和大衡案件に係る土地賃貸借契約についても、FIT認定対象の土地管理体制の不備、バックデートでの契約締結、経営の重要課題であるにもかかわらず少人数で対応していた点など、ガバナンス上の問題が認められました。
社内メールには「偽の書類を揃える」「契約書の偽造の相談」という記載も確認されていますが、最終的に成立した契約自体を虚偽と断定するには至っていません。
関連当事者取引と第三者割当増資
Abalanceグループでは、長期にわたり有価証券報告書における関連当事者取引の注記漏れが生じていました。
関連当事者の把握にあたり、役員の近親者や役員が支配する会社を十分に把握する体制が構築されておらず、アンケートを形式的に回収するだけで回答内容の正確性を検証する仕組みもありませんでした。
2025年4月には、WWBから代表取締役会長兼CEOのA氏への貸付けが行われ、その資金がAbalanceへの第三者割当増資に充てられていました。
しかしWWBの取締役会は実態として開催されず、議事録のみが形式的に作成される状態が恒常化しており、貸付けの合理性や利益相反の検討は一切なされていませんでした。
第三者委員会は「A氏がほしいままにAbalanceグループの金銭を利用していた」と評価し、上場グループ会社としてのガバナンス体制が一切機能していないと指摘しています。
原因分析:A氏への権限集中と企業風土の崩壊
第三者委員会は、一連の不正の根本原因として、Abalanceグループの実質的トップであるA氏のガバナンスへの理解不足と、その影響力のもとで形成された企業風土を挙げています。
A氏は筆頭株主(約24%保有)として資金決裁権限と人事権を掌握し、取締役会においても他の役員が異論を述べにくい状況が長期にわたって続いていました。
A氏に批判的な発言をした者は給与が減額されたとの証言があり、ガバナンス上の問題を指摘した歴代の経理部長や課長が職務上の不利益を受けて退職に至った事例も複数確認されています。
その結果、多くの役職員がA氏の意向を忖度し、コンプライアンスよりも上場維持を優先する行動をとるようになっていました。
第三者委員会の中間報告直前の2025年11月25日深夜には、A氏から委員3名に対して「結論ありきの調査」「意図的な不正であれば決して納得できない」とする長文メールが送信されており、委員会はこれを調査の独立性への圧力と受け止めています。
不正会計が発生した当時にもA氏による公正中立な判断を阻害する圧力が存在していた可能性を示唆するものだと指摘しました。
本報告書で最も異例とされたのは、不正の形態そのものです。
通常の企業不正は少人数で隠密裏に行われますが、Abalanceでは多数の関係者をCCに含めたオープンなメールで不正方向への舵切りが共有され、経営陣が集団的に「誤謬」ストーリーを形作っていきました。各自の役職に応じて呼応するように不正の説明構造を重層的に築き上げていったのです。
第三者委員会は「数多の不正調査に携わってきた委員においても、看過しがたい深刻な問題として受け止められた」と述べ、この集団的・構造的な不正の異常性を強調しています。
コーポレートガバナンス・3ラインモデル・不正のトライアングルの関係
ここからは、「不正のトライアングル」と「3ラインモデル」の両フレームワークを重ね合わせ、コーポレートガバナンスの崩壊がいかにして組織ぐるみの不正を生んだのかを読み解いていきます。
「不正のトライアングル」とは、犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した理論で、不正は「動機(プレッシャー)」「機会」「正当化」の3要素がすべて揃ったときに発生するとするものです。
一方、「3ラインモデル」とは、内部監査人協会(IIA)が示したリスクマネジメントの枠組みで、第1ライン(現場の事業部門)、第2ライン(経理・法務・コンプライアンス等の管理部門)、第3ライン(内部監査部門)の3層が多層的に防御機能を果たし、その上位で取締役会や監査等委員会が全体を監督するという構造です。
この二つのフレームワークは、実は表裏の関係にあります。3ラインモデルが健全に機能している組織では、不正のトライアングルの「機会」が構造的に封じられるのです。
3ラインモデルは不正のトライアングルの「機会」を封じる仕組みである
不正のトライアングルの3要素のうち、「動機」と「正当化」は人間の内面に根ざすものであり、制度設計だけで完全に排除することは困難です。業績へのプレッシャーをゼロにすることはできませんし、人が自らの行為を正当化する心理を完全に止めることもできません。
だからこそ、組織が最も注力すべきは「機会」の封殺です。たとえ動機があり、自分を正当化する心理が働いたとしても、不正を実行する機会がなければ、不正は成立しません。そして、この「機会」を構造的に封じるために設計されたのが、3ラインモデルにほかなりません。
第1ラインの現場部門が日常的な内部統制を実施し、第2ラインの管理部門がそれを横断的に監視・支援し、第3ラインの内部監査が両ラインの有効性を独立した立場から検証する。
この多層防御が正しく機能していれば、仮にある層で不正が試みられたとしても、別の層がそれを検出し是正することができます。
Abalanceではすべてのラインが崩壊していた
Abalanceの事例に当てはめると、3つのラインがいかに全面的に機能不全に陥っていたかが浮き彫りになります。
第1ラインであるWWBの営業部門では、有償支給取引が売上計上できないことを認識しながら、同日同額の入出金や証票の後付け作成といった手法で不正な売上を創出していました。現場レベルの内部統制は形骸化を通り越し、不正の温床へと変質していました。
第2ラインであるAbalance経理部は、有償支給取引の会計処理について正しい知識を有していたにもかかわらず、牽制機能を発揮できませんでした。
それどころか、経理部長B氏は「みんなバカでした」で押し通す方針に加担し、S氏は「本来は粉飾なのですが」と認識しながら誤謬として処理する方向に協力しています。本来は不正を検出し是正すべき管理部門が、不正の隠蔽に加わっていたのです。
第3ラインにあたる内部監査についても、A氏への権限集中と忖度の企業風土のもとで、独立した検証機能が発揮される環境にはありませんでした。問題を指摘した者が不利益を受けて退職に至るという実態は、第3ラインの機能が完全に破壊されていたことを意味します。
そして3つのラインの上位に位置すべき取締役会と監査等委員会もまた機能不全でした。取締役会ではA氏の面前で異論を述べられず、監査等委員会は第三者委員会の設置回避のために経営陣と一体となって動いていました。3ラインモデルの前提となるガバナンスの監督機能そのものが失われていたのです。
ガバナンスの崩壊がトライアングルを完成させる
ここで重要なのは、3ラインモデルの崩壊と不正のトライアングルの完成が、独立した二つの事象ではなく、相互に連鎖する一つのプロセスであったという点です。
A氏への権限集中という構造的欠陥が3ラインモデルを形骸化させ、それが不正のトライアングルにおける「機会」を広く開放しました。
そして牽制機能の不在は「不正をしても見つからない」という認識を組織全体に浸透させ、忖度と萎縮の企業風土を醸成することで「正当化」の基盤も同時に提供しました。ガバナンスの崩壊が、トライアングルの複数の頂点を一挙に成立させていたのです。
逆にいえば、コーポレートガバナンスが健全に機能している企業では、3ラインモデルが「機会」を構造的に封じると同時に、透明性の高い経営環境が「正当化」の余地を狭め、適切な業績管理が過度な「動機」の形成を防ぎます。
コーポレートガバナンスとは、不正のトライアングルの3要素すべてに対する組織的な抑止力にほかならないのです。
本件が示す教訓
Abalanceの事例は、3つのフレームワークが実務の現場でどのように結びつくのかを極めて明瞭に示しています。
3ラインモデルは単なる理論上の整理ではなく、不正を防ぐための実践的な防御壁であること。その防御壁を支えるのはコーポレートガバナンスであり、ガバナンスが崩壊すれば3つのラインは一斉に機能を失うこと。
そしてすべての防御壁が失われた組織では、不正のトライアングルが完成し、個人の倫理観だけでは不正の連鎖を止めることができなくなること。
報告書が記録した「数多の不正調査に携わってきた委員においても看過しがたい深刻な問題」という言葉の重みは、まさにこの構造的崩壊の深さを物語っています。
上場企業に関わるすべての関係者にとって、形式的なガバナンス体制の整備ではなく、それが実質的に機能しているかを不断に問い続けることの重要性を、本件は改めて突きつけているのではないでしょうか。

