バリュークリエーション株式会社は2018年以降、KDDI社の子会社であるジー・プラン株式会社(以下「GP社」という。)との間で、広告代理店との仲介取引を行っていました。
しかし、2026年1月以降、KDDI社の適時開示やメディア報道により、GP社の広告代理事業における架空取引の疑いが公表され、当社の取引の実在性にも疑義が生じました。
これを受け、当社は2026年2月17日、事実関係の調査や業績への影響把握、原因究明のため、外部専門家で構成される特別調査委員会を設置し、中立・公正かつ独立した調査を実施することとしました。
本記事では、調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細はバリュークリエーション株式会社特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:157,839千円
- 売上高:3,431,976千円(2025年2月期)
- 従業員:58名
- 事業内容:マーケティングDX事業(運用型広告を中心とするWebマーケティング支援)、不動産DX事業(解体マッチングプラットフォーム「解体の窓口」等の運営等)
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:取締役4名(うち社外取締役1名)で構成、原則月1 回の定時開催
- 監査役会:監査役3名(常勤監査役1名、非常勤監査役2名)で構成、毎月開催
- 経営会議:社外取締役を除く取締役、監査役、執行役員、ゼネラルマネージャーで構成、年4回開催
- リスク・コンプライアンス委員会:代表取締役を委員長とし、原則年4回開催
GP社との取引の経緯
バリュークリエーション担当者j氏とGP社担当者a氏は前職の同僚で、2018年2月にビジネス交流会で再会したことが取引の端緒です。
当初はSNS広告運用を受託する通常取引でしたが、数か月後にa氏から「GP社と既存取引先A社との間に入ってほしい」と依頼されます。「二社間の直接取引では監査上問題になりうる」との説明でしたが、実際にはGP社→バリュークリエーション→A社→GP社という架空循環取引が仕組まれていました。
バリュークリエーションは1〜5%の手数料で仲介を承諾しましたが、架空循環取引との説明は一切受けていません。
その後、下流取引先はC社へ切り替わり取引は拡大。2022年末にはGP社親会社ビッグローブ社も参入し、最終的に2025年度で21社が架空循環取引の商流に含まれる事態となりました。
調査で判明した事実
a氏の動機はGP社広告代理事業の赤字補填と売上目標達成でした。事業撤退への焦りから架空売上の計上を企図したもので、上流代理店からの金銭授受(約3,000万円)も確認されており、私的利益も継続の要因と指摘されています。
a氏の隠蔽工作は極めて巧妙でした。架空の成果レポートで正規取引と同様の証憑を整え、成果計測を求められた際にはダミーURLと自動アクセスの仕組みまで構築しています。
バリュークリエーション発行の請求書はExcelで角印やフォーマットを模倣した偽造請求書に差し替えてGP社経理部に提出し、監査法人からの残高確認状も送付先を自身に指定して回答を偽装していました。フォレンジック調査では、偽造請求書の角印のハッシュ値が正規のものと異なることも確認されています。
GP社役職員によるバリュークリエーション訪問時にはj氏に想定問答集を渡して虚偽の応答を求め、発覚直前にはチャットデータの削除やBGL社監査室ヒアリングへの虚偽回答の指南まで行いました。
バリュークリエーション担当者j氏と後任のce氏の共謀については、a氏自身が「架空循環取引であると伝えたことはない」と供述し、チャットワーク上にも意思連絡の証拠は発見されませんでした。委員会は共謀・認識いずれも認められないと結論づけています。
ただし、取引金額の異常な拡大やa氏のGP社内での不整合な説明に対し、j氏が懐疑心をもって追求していれば早期発見が可能だった可能性も指摘されました。
類似事案と会計上の影響額
バリュークリエーションが広告運用を行わず下流に発注・紹介手数料を受領している取引についてサンプル調査が実施されましたが、類似の不正事案は確認されていません。
会計上の影響としては、2019年2月期から2026年2月期の合計で売上高約16億3,300万円の訂正が必要です。バリュークリエーションは代理人として純額で売上計上していたため売上原価の訂正は生じません。
同期間のバリュークリエーションへの資金流入額は合計約16億3,700万円で、架空循環取引を通じて受領した手数料総額に相当します。
発生原因
報告書は4つの構造的問題を挙げています。
第一に、取引の実在性を独立検証する手段の欠如です。確認作業がa氏の管理する情報に依存しており、独立した検証がなされていませんでした。
第二に、「下流のノウハウは上流に開示しない」という業界慣行がa氏に悪用され、成果物確認が阻止された点です。
第三に、下流取引先の受注能力が未検証だったことです。最大の取引先C社は設立間もない小規模会社でしたが、a氏の説明のみで受け入れていました。
第四に、取引実務がj氏・ce氏の2名に集中する属人化です。情報の閉鎖性が社内での早期発見を構造的に困難にしていました。
本件は、a氏が主導した架空循環取引に当社が認識なく組み込まれた構図です。意図的な不正は認められなかったものの、約16億円の売上訂正という重大な影響が生じており、仲介取引における実在性検証の欠如と属人化という内部統制上の課題が浮き彫りとなった事案です。
3ラインモデルから見たバリュークリエーションのリスクマネジメント
最後に、本件で認められた当社側の問題点を、リスクマネジメントの基本的なフレームワークである「3ラインモデル」の観点から整理します。
第1ライン:現場の属人化と懐疑心の欠如
本件取引の実務を担っていたのはj氏とce氏の2名のみであり、日常の発注・請求・入出金管理はce氏がほぼ単独で処理していました。取引情報が2名の内部に閉じていたことで、組織としての異常検知が構造的に働かない状態にありました。
加えて、報告書はj氏の姿勢にも課題を指摘しています。
取引金額が異常に拡大していたこと、a氏がGP社内で当社の実態と異なる説明をしていたこと、下流取引先C社が設立間もない小規模会社であるにもかかわらず数億円規模の取引を処理していたことなどの不自然さに対し、健全な懐疑心をもって追及していれば、問題はより早期に顕在化した可能性があります。
さらに、j氏はビッグローブ株式会社経営監査室によるヒアリングにおいて、a氏の指南に部分的に従い、C社は元々当社が発注していた取引先であるなど事実と異なる回答をしています。
架空循環取引の認識がなかったとはいえ、第1ラインの担当者が外部監査への誠実な対応を怠ったことは、リスクの早期発見機会を自ら狭めた行為といえます。
第2ライン:形式的な牽制にとどまった管理機能
バリュークリエーションにはリスク・コンプライアンス委員会や経営会議といった第2ラインの仕組みが存在していました。しかし、本件取引に対する実質的な牽制は十分に機能していませんでした。
象徴的なのは、上場準備時の対応です。主幹事証券会社はGP社への売上依存度の高さや、下流取引先がA社1社に偏るリスクを繰り返し指摘していました。これを受けてバリュークリエーションはGP社やC社との間で債権回収リスクに関する覚書を締結しましたが、覚書の内容は実態と乖離していました。
具体的には、覚書上は同時履行の取引を前提としていたにもかかわらず、実際にはGP社からの入金に先行して下流取引先に支払う「先出し取引」が取引開始当初から常態化しており、その解消が試みられた形跡もありません。
形式的にリスク対応の体裁を整えたものの、実務との整合性が検証されなかった典型的な事例です。
下流取引先が出稿するLPの適法性チェックについても同様です。バリュークリエーションは抜き打ちのサンプルチェックを実施するとしていましたが、実際にはチェック対象の選出をa氏に依頼しており、客観性のある検証とはいえないものでした。
第3ライン:外形的チェックの限界
バリュークリエーションの内部監査室は担当者1名体制で、GP社との取引について契約書・請求書等の証憑類や入金遅延の有無を確認していました。監査役会も本件取引をリスクの高い取引として注視する方針を打ち出していました。
しかし、これらの監査はいずれも証憑の外形的な確認や債権回収リスクへの対応が主眼であり、取引そのものの実在性を検証する深度には至っていません。
会計監査人であるESネクスト有限責任監査法人もC社に対して成果物の開示を求めましたが、a氏が「ノウハウに属するため上流に開示しないのが業界慣行」と主張してこれを阻止し、バリュークリエーションもそれ以上の確認を行いませんでした。
残高確認状についてはa氏が送付先を自身に指定して偽装回答を提出しており、第3ラインの検証手段そのものが無力化されていました。
3つのラインの「同時機能不全」
本件の本質は、特定のラインだけが破綻したのではなく、3つのラインが同時に機能不全に陥っていた点にあります。第1ラインでは属人化により情報が閉じ、第2ラインでは形式的な体制整備にとどまって実態との乖離が放置され、第3ラインでは外形チェックの壁を越えられませんでした。
a氏の隠蔽工作が巧妙であったことは事実ですが、いずれか1つのラインでも実質的に機能していれば、7年にわたる架空循環取引の継続は防げた可能性があります。
グロース市場に上場する成長企業にとって、限られたリソースのなかでいかに実効性ある内部統制を構築するかは共通の課題です。本件は、制度や規程を「整備」するだけでは不十分であり、それが現場の取引実態に即して「運用」されているかを不断に検証することの重要性を改めて示した事案といえます。
