業務プロセスに係る内部統制の有効性の評価にあたって、まず整備状況と運用状況の評価を行います。
評価を行った結果、不備を発見し、その不備が評価基準日(期末日)までに是正されなければ、「開示すべき重要な不備」に該当するかどうかを検討し、判断を下す必要があります。
この記事では、業務プロセスに係る内部統制の不備の検討について簡単にまとめました。
※内部統制基準=「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
※実施基準=「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」
業務プロセスに係る内部統制の有効性の評価
業務プロセスに係る内部統制の有効性を評価するには、内部統制の整備状況と運用状況を確認します。
<整備状況の評価>
業務プロセスに係る内部統制の整備状況の評価では、ウォークスルーという手法により、3点セットを利用して業務プロセスを理解し、重要な虚偽記載リスクが低減されるようにキーコントロールが適切に設計されているかを確認します。
<運用状況の評価>
業務プロセスに係る内部統制の運用状況の評価では、サンプリングテストにより、虚偽記載リスクに対して整備されたキーコントロールが意図されたとおりに運用されているかを確認します。
これらの評価手続によって内部統制に不備が発見された場合、その不備が「開示すべき重要な不備」に該当するか否かの検討は、主に以下の手順で行われます。
Step1.不備の影響が及ぶ範囲の検討
Step2.影響の発生可能性の検討
Step3.内部統制の不備の質的・金額的重要性の判断
業務プロセスに係る内部統制の不備の検討
実施基準では、開示すべき重要な不備の判断指針について以下のように記しています。
開示すべき重要な不備の判断指針は、企業の置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、基本的には、財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさのそれぞれから判断される。
影響を及ぼす勘定科目の範囲
複数の不備が同じ勘定科目に関係するものにあれば、それらの不備をすべて合わせて財務報告に重要な影響を与える不備であるかどうかを評価します。
一方、内部統制の不備が一つ一つの勘定科目に与える影響の重要性は低くとも、複数の勘定科目に与える影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合も、開示すべき重要な不備とみなされます。
このように、内部統制の不備は、単独で、または複数合わせて、影響を及ぼす勘定科目とその重要性を検討します。
例えば、A支店の商品販売に係る業務プロセスに不備が発見され、その不備が影響を及ぼす勘定科目が売上高であり、また、その不備が発見された内部統制が、会社全体の商品販売に係る業務プロセスに横断的に適用されている場合、会社全体の売上高に影響を及ぼすと考えられます。
逆に、A支店の商品販売に係る業務プロセスがA支店独自のものであった場合、その不備が影響を及ぼす範囲はA支店の売上高のみとなります。
影響が発生する可能性の検討
上記で検討された不備による影響が実際に発生する可能性を検討します。
検討の際には、影響の発生確率をサンプリング結果を用いて統計的に算定する方法がありますが、専門的な知識が必要なため、算定が困難な場合があります。
そのときは、以下の事項に留意しつつ、重要な虚偽記載の発生可能性の程度を定性的(高、中、低)に把握することも認められます。
<検出された例外事項(ミス等)の大きさ・頻度>
誤謬(ミス)等の規模が大きく、検出の頻度が高いほど、影響の発生可能性が高いとみなされます。
<検出された例外事項(ミス等)の原因>
内部統制が整備されていないことにより発生したミスより、整備はされていたが不注意により発生したミスの方が、影響の発生可能性は低いとみなされます。
一方、何らかの判断が必要であったり、複雑なコントロールの場合は、不備の発生可能性が高いといえます。
<ある内部統制と他の内部統制との代替可能性>
先に述べたように、開示すべき重要な不備を判断する際には、個々の内部統制を切り離して考えるのではなく、相互に連携していかに虚偽記載リスクを低減しているか、という視点も重要です。
ある内部統制に不備があるとしても、その不備を補う内部統制(補完統制)が存在し、それが虚偽記載の影響を低減している場合があるからです。
なお、重要な虚偽記載の発生可能性が低い不備は、開示すべき重要な不備に該当しないと考えられます。
内部統制の不備の質的・金額的重要性の判断
開示すべき重要な不備の判断は、前述のように発生可能性と影響の大きさを勘案して行われますが、実施基準では、以下のようにも示されています。
経営者は、内部統制の不備が開示すべき重要な不備に該当するか判断する際には、金額的な面及び質的な面の双方について検討を行う。
内部統制の不備が財務報告に及ぼす潜在的な影響額の検討に際し、質的・金額的重要性を評価します。
開示すべき重要な不備の判断における質的・金額的重要性については、以下のような判断基準があります。
金額的な重要性の判断
金額的な重要性の基準値として、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益等に対する比率と比較し、潜在的な影響額を検討します。
判断に用いるのは評価対象年度の実績値に限らず、過去の一定期間の実績値の平均を適用する場合があります。
連結総資産、連結売上高、連結税引前利益等に対する比率については、概ねその5%程度と実施基準では示されていますが、例年と比して連結税引前利益の金額が著しく小さい場合や、負の場合には、必要に応じて監査法人と協議したうえで、より適切な指標を用いる必要があります。
これらの比率は画一的に用いるのではなく、あくまで業種や規模、特性等、会社の状況に応じて判断することが重要です。
質的な重要性の判断
質的な重要性は、例えば、以下のような財務報告の記載事項に与える影響の程度で不備の重要性を判断します。
投資判断に与える影響
★上場廃止基準
金融商品取引所が定める上場廃止基準には、上場株式数、株式の分布状況、時価総額、債務超過、有価証券報告書等の虚偽記載、監査人による不適正意見または意見不表明、売買高等の定めがあります。
虚偽記載によってこれら上場廃止基準を回避することとなるときは、質的な重要性があると判断します。
★財務制限条項
金融機関が融資する際、債務者の財政状態や業績等が一定の条件に該当する場合、借入金を一括返済する義務を負う条項を契約に含めることがあります。
虚偽記載によってこれら財務制限条項を回避することとなるときは、質的な重要性があると判断します。
※条項例)純資産維持条項、利益維持条項、現預金維持条項
財務報告の信頼性に与える影響
★関連当事者との取引
開示すべき関連当事者の存在や、その関連当事者との取引の識別の検討を適切に行うための内部統制に不備が認められる場合には、質的な重要性があると判断します。
★大株主の状況
名義株の検討、大量保有報告書の検討、財務諸表提出会社の親会社、その他の関係会社、主要株主の判定を適切に行うための内部統制に不備が認められる場合には、質的な重要性があると判断します。
※監査・保証実務委貝会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」より
開示すべき重要な不備の是正
発見された不備については、不備一覧表等を作成して是正状況と再評価の結果を管理し、評価時点(期末日)までに是正されていなければ、内部統制報告書に「開示すべき重要な不備」として記載する必要があります。
不備は必ずあるものと心得て、是正することを想定し、評価実施から評価時点(期末日)まで一定の期間を確保できるようにスケジュールを作成することが重要です。
ただし、是正措置による改善および再評価が評価時点(期末日)までに間に合わなくとも、内部統制報告書提出日までに是正が完了したのであれば、その旨を内部統制報告書の付記事項に記載することが可能です。