【ベビーカレンダー】CFOが広告収入を個人口座へ

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第三者委員会等調査報告書の要約

 2026年1月23日、株式会社ベビーカレンダーはGoogleLLC(以下「Google」という)に対する売掛金の差異を発見し、社内調査を開始しました。

 調査の結果、Googleからの売上の一部が前取締役CFOであるA氏個人の銀行口座を経由しており、A氏による着服の疑いが生じました。1月28日、A氏は着服の事実を認めました。

 これを受け、1月29日の臨時取締役会において、事実関係の解明、影響範囲・金額の確定及び再発防止策の策定を目的とする特別調査委員会の設置が決議され、2月4日に同委員会が設置されました。

 本記事では、調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社ベビーカレンダー特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

  • 資本金:285百万円(2025年6月現在)
  • 売上高:1,528百万円(2024年12月期)
  • 従業員数:96名(2025年6月現在)
  • 事業内容:メディア事業及び医療法人向け事業
コーポレートガバナンス体制
  • 取締役会:取締役5名(うち社外取締役1名)で構成、毎月1回定時開催
  • 監査役会:監査役3名(いずれも社外監査役)で構成、毎月1回定時開催

社内調査に関する検討

 A氏による着服は2種類確認されています。まず2025年7月頃、小口現金120万円の着服(本件現金着服)に係る疑義が生じ、社内調査が行われました。A氏は2025年11月11日に120万円を弁済しています。

 その後、2026年1月23日、Google に対する売掛金の帳簿残高と実際残高に差異があることが判明し、社内調査の結果、A氏がGoogle からの広告収入の一部を着服していた疑義(本件売上着服)が生じました。

 社内調査では少なくとも約926万円の着服が強く疑われ、ベビーカレンダーの売上規模に照らして多額に及ぶ可能性があることから、特別調査委員会が設置されました。

本調査より判明した事実

A氏による売上着服

 本件の背景には、YouTubeチャンネルの事業譲受けに伴う管理体制の問題がありました。ベビーカレンダーは2022年12月から2023年10月にかけて、αチャンネル、βチャンネル、γチャンネルの3つのYouTubeチャンネル事業を順次譲り受けました。

 YouTubeチャンネルの広告収入は、チャンネルにリンクされたYouTube向けAdSenseアカウントに設定された銀行口座に振り込まれる仕組みです。

 A氏は、2023年8月21日以降、これら3チャンネルを自身の個人AdSenseアカウントにリンクさせました。その結果、本来ベビーカレンダーに入金されるべき広告収入が、A氏個人の銀行口座(本件個人口座)に振り込まれるようになりました。

 A氏は、個人口座に入金された広告収入のうち、2024年2月分(2024年3月支払分)以降、一部を着服し始めました。着服した残りの金額は、振込名義をGoogleからの振込みであるかのように偽装してベビーカレンダーの銀行口座に振り込んでいました。着服額の合計は9,263,000円と認定されています。

 なお、2024年8月23日にはA氏名義での振込みが発生し、経理担当者のB氏が不審に思いA氏に質問していますが、A氏は「グーグル名で入金し忘れた」と虚偽の説明をし、B氏はその指示通りに処理していました。

 2024年10月4日、A氏は突如出社しなくなり休職に至りました。これは金融機関からの融資交渉の失敗をベビーカレンダーに報告できなかったことが直接の原因です。

 A氏の休職後、ベビーカレンダーは広告収入の入金先がA氏個人の口座になっていたことを把握し、入金先を修正しましたが、過去の入金について調査を行いませんでした。

A氏による現金着服

 2023年4月以降、本社の経理担当者が不在となり、小口現金の管理はA氏が一人で行っていました。A氏は2023年10月から12月にかけて、預金口座から合計160万円を引き出し、そのうち120万円を着服しました。

 着服した120万円については、F氏(取締役)、W氏、S氏(医療法人営業部)への仮払金として虚偽の仕訳を計上して隠蔽していました。

類似事案・共犯関係の調査

 特別調査委員会は、売上着服および現金着服の類似事案についても調査を実施しましたが、A氏個人の銀行口座が売上の振込先に設定されていた他の取引先は確認されませんでした。また、共犯者の存在も認められませんでした。

財務諸表への影響額

 着服に係る財務諸表への影響額は、売掛金9,546千円(着服額9,263千円と米国源泉徴収分283千円の合計)、仮払金1,200千円の合計10,746千円と認定されています。

着服の動機

 A氏へのヒアリングによれば、着服はいずれもA氏個人の借入金の返済という金銭的動機のために行われたとのことです。デジタル・フォレンジック調査でも、A氏のスマートフォンから借金の存在を示唆する情報が確認されています。

原因分析

着服に共通の原因

 最も根本的な原因は、ベビーカレンダーの統制環境の不備にあると認定されています。具体的には以下の点が指摘されています。

経営者の意識及び姿勢の問題
 リスクマネジメントを実施すべきという認識を欠いており、管理部門及び内部監査を軽視していました。

リスクマネジメントの欠如
 リスク・コンプライアンス委員会は5分程度で終了するなど形骸化しており、内部通報窓口の周知も2023年6月にポータルサイトに記事を1回掲載したのみでした。

経理部門の人材不足
 2023年4月以降、経理担当者は大阪勤務のB氏のみとなり、A氏が承認者でありながら自ら仕訳を登録する状態でした。監査役から繰り返し人材補充の意見が出されていたにもかかわらず、2025年10月まで対応されませんでした。

内部監査体制の形骸化
 2023年12月期および2024年12月期の内部監査は実施されなかったか、不十分な状況でした。

権限の集中
 A氏は取締役CFO兼経営管理部長として経営管理部の権限を一手に握り、さらに本件3チャンネル事業の管掌および内部監査部門の兼務もしていました。

売上着服に固有の原因

 ベビーカレンダーは本件3チャンネル事業を取得した際、YouTubeチャンネルの権限設定やAdSenseのリンクに係る内部統制を構築しませんでした。また、Googleは会計監査人の確認状を返送しないため、売掛金の残高確認が行われないという特殊な環境がありました。

 さらに、2024年10月にA氏の休職後、広告収入がA氏個人口座に入金されていた事実を認識しながら、経営者は過去の入金調査を行わず、取締役会への報告も行いませんでした。

現金着服に固有の原因

 2023年4月以降、預金の引出しおよび小口現金の払出しはA氏が一人で行っており、相互牽制による内部統制が完全に無効化されていました。仕訳の計上も実質的にA氏の自己承認であったため、着服の兆候を識別できませんでした。

本件を不正のトライアングルで読み解く

 本件における前CFO・A氏の不正行為は、不正のトライアングルの3要素が見事に揃った典型的な事例といえます。

動機・プレッシャー

 A氏へのヒアリングによれば、売上着服・現金着服のいずれも、A氏個人の借入金の返済という金銭的な動機のために行われました。デジタル・フォレンジック調査においても、A氏のスマートフォンから借金の存在を示唆するメールやSMSが確認されています。

 また、社内調査委員会の報告では、報酬面や評価面への不満の発言があったことも記録されています。

 A氏は、金融機関からの融資交渉の失敗を会社に報告できず、問題を一人で抱え込んだ末に突然出社しなくなるなど、個人的な問題を組織に共有できない傾向がありました。

 こうした心理的な孤立も、不正への動機を強めた要因と考えられます。

機会

 調査報告書が指摘する数多くの内部統制上の不備が、A氏に不正を実行する環境を提供していました。

 まず、A氏は取締役CFO兼経営管理部長として経営管理部の権限を一手に掌握していました。さらに、本件3チャンネル事業の管掌、内部監査部門の兼務も担っており、A氏の業務を牽制・監視できる人物が社内に存在しない状態でした。

 経理部門については、2023年4月以降、担当者が大阪勤務のB氏一人となり、A氏が仕訳の登録と承認の両方を実質的に行える状態、すなわち自己承認が常態化していました。B氏もA氏が登録した仕訳の内容を確認せずに申請しており、職務分掌による牽制は機能していませんでした。

 YouTubeチャンネルの管理においては、AdSenseアカウントへのリンクや権限付与に関する社内手続が一切定められておらず、どのチャンネルがどのAdSenseにリンクされているかすら管理されていませんでした。

 そのため、A氏は3チャンネルの広告収入の振込先を自身の個人口座に設定することが容易にできました。

 加えて、Googleは会計監査人から送付される確認状を返送しないため、売掛金の残高確認が行われないという特殊性もありました。内部監査は2023年12月期・2024年12月期ともに実質的に行われておらず、リスク・コンプライアンス委員会も5分程度で終了する形骸的なものでした。

 小口現金の管理についても、A氏が一人で預金の引出し、現金の払出し、現金出納帳の記帳、仕訳の登録・承認をすべて行っており、相互牽制は皆無でした。

正当化

 調査報告書では、A氏が着服についてベビーカレンダーや第三者に帰責したり、自己の行為を正当化する発言はなかったと記載されています。

 ただし、社内調査委員会の報告書では、A氏から報酬面・評価面への不満の発言があったことが記録されており、「これくらいは許される」と自己を納得させる心理的背景が示唆されています。

 また、A氏は経営管理部のH氏アカウントの使用について「内部統制上、自己承認を避けるため」と説明しており、形式的には統制を意識しながらも実質的にはそれを無効化していたことから、不正行為との間に一定の心理的距離を置いていた可能性もうかがえます。

本件からの教訓

 本件は、3つの要素の中でも特に「機会」が突出していた事例です。調査報告書が繰り返し指摘しているとおり、権限の集中、内部統制の不備、内部監査の形骸化といった統制環境の問題が、不正を可能にした最大の原因でした。

 動機や正当化は個人の内面に属するため、組織が完全にコントロールすることは困難です。しかし、機会の排除は内部統制の適切な設計と運用によって実現できます。

 特に上場企業においては、特定の人物に権限が集中するリスクを常に意識し、職務分掌の徹底、独立した内部監査の実施、監査役による実効的なモニタリングを通じて、不正が起きにくい環境を整備することが不可欠です。

 本件は、グロース市場に上場する比較的小規模な企業において、管理部門のリソース不足と経営者のリスクマネジメントに対する認識不足が重なったときに、どれほど深刻な事態が生じ得るかを示す教訓的な事例といえるでしょう。

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