unbanked株式会社は2025年11月に行った2件の金地金取引について、販売先から代金が支払われなかったため、12月15日に計13億4000万円の貸倒引当金の計上見込みを開示しました。その後も支払がなく、12月30日に全額の貸倒引当金計上を決定しました。
2026年1月にも支払がなされなかったことから、監査等委員会および取締役会は外部弁護士による調査委員会の設置を決議し、事実関係の調査を委嘱しました。
本記事では、調査報告書に記載されている事由の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細はunbanked株式会社調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:1億円
- 連結売上高:9,489百万円(2025年3月期)
- 従業員数:5名
- 事業内容:金地金事業
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:取締役5名(うち3名が監査等委員である社外取締役)で構成、原則1回開催
- 経営会議:管理本部長、内部監査室長、各部署の責任者で構成され、月1回開催
- コンプライアンス委員会:委員長含め外部の有識者(弁護士及び会計士)で構成
本件取引に至る経緯
新株主Akatsukiの登場
2025年6月頃、unbankedの筆頭株主であったCB戦略1号投資事業有限責任組合が保有株式を第三者に売却することが決まり、売却先はAkatsuki Capital Works株式会社に決定しました。
Akatsukiは資本金30万円の設立間もない会社であり、株式取得にあたっては合同会社Galaxyから約15億3900万円もの借入を行っていました。取得単価は1株872円で、当日の東証終値396円の約2.2倍に相当します。
安達社長と七條取締役は、Akatsukiの実質的支配者が誰であるかについて深く追及しないまま、株式譲渡前の2025年7月3日に同社とコンサルティング業務委託契約を締結し、X氏やY氏といった人員を受け入れました。
Y氏らに対し「オーナーは誰か」と何度か質問したものの、「中国人である」「複数いる」「実は日本人である」など曖昧な回答しか得られず、それ以上の追及は行われませんでした。
Y氏からのスクラップ取引の提案
Akatsukiの株式取得からわずか7日後の2025年7月29日、Y氏は安達社長に対し、スクラップ品(ノーブランド)の金地金取引を新たに始めたいと提案しました。
その内容は、Akatsuki側が紹介する仕入先と販売先の間にunbankedが入り、当日中に両社と取引を行うことで差額利益を得るというものです。販売代金の支払は5営業日後の掛け取引とされていました。
七條取締役とA氏は、スクラップ品には盗品・密輸品の疑いが払拭できないとして懸念を示しました。
しかしY氏は「オーナー案件なのでどうしても行いたい」「オーナーが保証する」と強く主張し、最終的に七條取締役は、筆頭株主が出資先に不利益を与える取引を提案しないだろうという判断のもと、提案を受け入れました。
本件取引の実施経過
初回から6回目の取引(2025年7月31日〜8月22日)
初回取引の前夜に、Y氏から仕入先(b社)と販売先(c社)の情報が初めて伝えられました。unbankedは与信管理規程の存在自体を失念しており、c社に対してインターネット検索以上の信用調査を行いませんでした。
取引はY氏が段取りし、仕入先・販売先の担当者がunbankedに来店して金地金の受渡しを行うという流れで進みました。
2回目の取引では、c社からの販売代金の一部が支払期限を1日超過して入金されましたが、お盆休暇を理由とする説明がなされ、問題視されませんでした。4回目の取引からは、Y氏の申し出により支払サイトが5営業日から7営業日に延長されています。
7回目の取引(8月25日):仕入先と販売先の入替え
7回目の取引では、それまで仕入先だったb社が突然販売先に変わり、新たにe社が仕入先となりました。Y氏からこの変更理由についての説明はなく、七條取締役らも積極的に確認しませんでした。
b社からの入金は支払期限当日に1億円不足した状態で着金し、Y氏への確認後にようやく残金が振り込まれるという一幕もありました。
8回目〜25回目の取引(8月28日〜11月11日):繰り返される入金遅延
以降の取引は仕入先をe社、販売先をc社として行われましたが、c社からの入金が支払期限当日になっても確認できない事態が繰り返し発生しました。
9回目
支払期限当日の午後3時過ぎまで入金がなく、Y氏に確認したところ「オーナー側で承認作業が漏れていた」との説明。午後4時50分にようやく入金。
15回目・18回目・19回目・21回目
前日に振込予約のスクリーンショットを受領していたにもかかわらず、翌朝に入金が確認できず、毎回Y氏を通じて確認する事態が続きました。「手続きは終えている」「なぜかエラーが出て実行されていなかった」といった不自然な説明が繰り返されましたが、七條取締役らはそれ以上追及しませんでした。
また、取引規模は次第に拡大し、1回あたりの取引金額は当初の約1億7000万円から最終的には約7億円超にまで膨らみました。資金不足の際にはグループ子会社から貸付金の繰上返済を受けてまで取引資金を確保するという状況でした。
七條取締役がグループ会社から資金を集めてまで取引を行う必要はないと考えていたにもかかわらず、Z氏を中心に取引継続の方向で議論が進み、異論を述べられる雰囲気ではなかったと説明しています。
26回目・27回目の取引と代金未回収(11月19日・20日)
2025年11月19日と20日に行われた最後の2回の取引では、販売代金合計約13億5900万円のうち、c社から一部(約1871万円)が支払われたのみで、残り13億4000万円が未回収となりました。
七條取締役がc社の本店所在地に赴いたところ、そこはシェアオフィスであり、c社との利用契約は存在しないことが判明しました。
さらに、c社代表者c1氏のマイナンバーカードに記載されていた住所のマンションを訪問したところ、c1氏という契約者は存在せず、該当の部屋には別の入居者が居住していることが分かりました。
その後、c社の経理担当者c4氏との間で返済交渉が行われ、12月19日までに債務確認書の提出と一部入金はあったものの、同日午後のメールを最後にc社の担当者とは一切連絡が取れなくなりました。
Y氏も「自分は何も知らない」と繰り返すのみで、最終的に2026年2月9日付でグループ各社の取締役を辞任しています。
取締役会への報告状況
2025年8月20日の取締役会で本件取引について初めて報告がなされましたが、その内容は実態と大きく異なるものでした。
既に5回・約11億円の取引が完了していたにもかかわらず「9月から開始予定」と説明され、実際の販売先であるc社ではなくa社が販売先であるとされ、「ほぼノーリスク」との報告がなされました。
7営業日後の掛け取引である事実も、翌営業日に代金を受領する可能性があるという説明に置き換えられていました。監査等委員が本件取引の掛け取引であることを明確に認識したのは、未回収が発生した後の2025年12月になってからでした。
原因分析
1. 新株主の実態確認を怠ったまま取引を実施
本件の根本原因は、Akatsukiの実態が不明なまま、筆頭株主であるという理由だけで同社を信用し、Y氏の提案に応じたことにあります。
「オーナーが保証する」という説明も、そのオーナーが誰であるかすら分からない状態で鵜呑みにしており、取締役としての慎重さを欠いていたと評価されています。
2. 取引先の事前確認が不十分
c社について、与信管理規程に基づく信用調査が全く行われませんでした。そもそも役職員全員が与信管理規程の存在自体を失念していたという事実は、報告書において「あまりにも稚拙」と厳しく指摘されています。
数億円規模の売掛債権が発生する取引であったにもかかわらず、インターネット検索のみで取引を開始したことは重大な問題でした。
3. 与信懸念が生じても取引を継続
取引開始当初から、c社の支払遅延や支払サイト延長など与信上の懸念事象が繰り返し発生していました。にもかかわらず、信用調査の実施、掛け取引の中止、取引量の削減、取引自体の停止といった対応が一切検討・実施されなかったことが、最終的な未収金の発生につながったと認定されています。
4. 取締役会への不十分な情報提供
取締役会には本件取引の実態に即した情報が共有されず、監査等委員が実情を把握する機会が奪われていました。仮に正確な情報が報告されていれば、監査等委員の指摘等により取引の見直しが検討され、未収金の発生を防げた可能性があったと指摘されています。
3ラインモデルから見た本件の構造的問題
本件を、リスクマネジメントの基本的なフレームワークである「3ラインモデル」の視点から整理すると、組織の防御機能がすべての段階で機能不全に陥っていたことが浮き彫りになります。
3ラインモデルとは、IIA(内部監査人協会)が提唱する、組織におけるリスクマネジメントとガバナンスの役割分担を示すフレームワークです。
第1ライン(現業部門)がリスクを最初に認識・管理し、第2ライン(管理・監視部門)が横断的にモニタリングを行い、第3ライン(内部監査)が独立した立場で全体の有効性を検証するという三重の構造で、リスクの見落としや不正を防ぐ仕組みです。
第1ライン(現業部門)の機能不全
本件で金地金取引の実務を担っていた七條取締役やA氏らは、与信管理規程の存在自体を失念しており、数億円規模の売掛債権が発生するc社に対してインターネット検索以上の信用調査を一切行いませんでした。
さらに、c社からの支払遅延が繰り返し発生していたにもかかわらず、取引量の削減や掛け取引の中止といった対応を取ることもありませんでした。リスクを最前線で認識し管理すべき第1ラインが、その役割をまったく果たせていなかったといえます。
第2ライン(管理・監視部門)の機能不全
unbankedにはコンプライアンス部が形式上存在していましたが、従業員5名という極めて小規模な体制のもと、各部門にわずか1名(兼任含む)が配置されているにすぎませんでした。
Y氏の提案に対して現場から懸念が示された際にも、第2ラインとして独立にリスクを評価し、取引の妥当性を検証する機能は働きませんでした。
与信管理規程という重要な社内規程の存在が全役職員から忘れ去られていたこと自体、第2ラインによる規程の周知・遵守確認が行われていなかったことの証左です。
第3ライン(内部監査・監査等委員会)の機能不全
取締役会や監査等委員会に対しては、本件取引の実態と異なる情報が報告されていました。既に5回の取引が完了していたにもかかわらず「9月から開始予定」とされ、販売先も実際のc社ではなくa社と説明されました。
監査等委員が本件取引の掛け取引であることを明確に認識したのは、未回収が発生した後の2025年12月になってからです。ただし、監査等委員の側も、Akatsukiの実質的支配者について積極的に確認しなかった点は、報告書において改善の余地があると指摘されています。
本件は、3つのラインのいずれか1つでも正常に機能していれば、被害の発生または拡大を防げた可能性が高い事案です。
第1ラインが与信管理規程に従って信用調査を行っていれば取引開始自体を回避できたかもしれません。
第2ラインが規程遵守をモニタリングしていれば、規程の失念という異常事態は是正されていたはずです。
第3ラインに正確な情報が伝わっていれば、監査等委員の指摘により取引の見直しが検討された可能性もあります。
unbankedの事案は、組織規模の大小を問わず、3ラインモデルに基づくリスク管理体制を実質的に機能させることの重要性を改めて示す事例といえるでしょう。

