株式会社MTGの完全子会社である株式会社M’sエージェンシー(以下「M’s」という)で不正行為が発覚しました。2024年11月上旬、取引先の広告代理店からM’sの支払い遅延の情報提供があり、MTG内部監査室が調査したところ、請求内容や支払時期に差異があることが判明しました。
その後の調査で、M’sの代表取締役社長であったa氏が、MTGグループ各社からの依頼なく独自に広告を発注し虚偽報告していたことや、支払いのために請求書を改ざんしていたことが明らかになりました。
このため、MTGは2024年12月13日に特別調査委員会を設置し、事実関係の調査、財務諸表への影響検討、原因究明と再発防止に取り組むこととしました。
この記事では、MTGが公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は株式会社MTG特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
MTGグループ
- グループ構成:MTG及びその子会社18社の計19社
- 主な事業:HEALTH、BEAUTY、HYGIENEブランドを展開し、EC市場、サロン市場、リテールストア市場、グローバル市場へ、それぞれの商品・サービスを提供
- 連結売上高:71,865百万円(2024年9月期)
- 連結従業員数:1,451人(2024年9月期)
株式会社MTGの組織概要
- 資本金:16,781百万円(2024年9月期)
- 取締役会:取締役7名(うち監査等委員3名)で構成、毎月1回定時開催
- 監査等委員会:社外取締役である常勤監査等委員1名と会計及び法務の知見を有する監査等委員2名で構成、毎月1回定時開催
- 指名・報酬委員会:取締役である委員3名(うち社外取締役が2名)で構成され、社外取締役が委員長を務める
株式会社M’sエージェンシー(M’s)
- 資本金:1,000万円
- 組織構成:役員(取締役)と営業部のみで構成、経理業務はMTGの財務経理部門に委託、営業部の役職員数は2024年8月には派遣社員を含む5名体制
- 事業概要:MTGグループのハウスエージェンシーとして、各ブランドの広告方針のもと、広告企画を提案し、企画の実施を決定したブランドから広告を受注
認定された事実
MTGのハウスエージェンシーM’sの設立と発展について
M’sは2020年4月にMTGグループ専属の広告代理店として設立されました。設立当初はMTG70%、A社30%の共同出資で、取締役はMTG役職員3名とA社取締役2名で構成されていましたが、2021年12月にMTGはA社保有株式を買い取り、M’sを完全子会社化しました。
設立時の代表取締役はMTG取締役のb氏でしたが、テレビCM取引の知見を持つ人材が必要だったため、複数の広告代理店勤務経験を持つa氏を2021年1月に営業部部長として採用しました。その後もM’sは数名の従業員を採用しましたが、いずれも広告業界未経験者でした。
a氏はMTG広告業務において総合広告代理店とのやりとりを担当。b氏在任中は月数回のミーティングで業務状況を確認していましたが、実務面は全面的にa氏が担っていました。
2023年12月にb氏がMTG取締役を退任することになり、後任としてa氏がM’sの代表取締役に就任しました。選定理由は、a氏以外にM’sの業務に知見を持つ者がいなかったことや、a氏の専門性に対する信頼があったためです。
a氏は代表取締役就任後も、一部業務を他の従業員に移管しながらも、引き続き受発注実務の中心的役割を担っていました。
MTGグループの各ブランド担当者や財務経理部門担当者、業務執行取締役らは、問題が発覚するまでこれらの不適切行為を認識していなかったことが確認されています。
M’sの広告発注と支払いの業務フロー
M’sの職務権限規程では、広告枠の発注は「MTGの依頼に基づく発注に限る」と定められています。
稟議承認には①稟議書、②MTGグループからの発注書、③発注先からの見積書が必要で、M’sの部長と代表取締役の承認が求められます。2023年12月1日以降はa氏が部長と代表取締役を兼務していました。
実際の広告発注業務フローは以下のとおりです。
- M’sとMTGブランド担当者が協議し、企画を策定
- 企画確定後、M’sが見積書を作成
- ブランド担当者がMTGグループ内で発注稟議を申請
- 稟議完了後、MTGグループがM’sに発注書を発行
- M’sは稟議システムで発注稟議を申請
- MTGのグループ会社管理室とコーポレートガバナンスグループの承認を経てM’s代表取締役が承認
- 経理会計ソフトで発注書を作成し、発注先に送付
支払い業務フローは以下のとおりです。
- M’s担当者が請求一覧を作成し、MTG財務経理部門に支払処理を依頼
- MTG財務経理部門が受発注金額・項目の対比表を作成し整合性を確認
- EB上で振込依頼を作成し、支払稟議を起案
- MTG財務グループが支払承認を行い、フローを完了
なお、M’sは経理業務を一貫してMTGの財務経理部門に委託しています。
M’sにおける不適切行為の実態と経緯
不適切行為の態様
M’sの社内規程では、MTGグループからの受注に基づいてのみ広告発注が許可されていました。しかしa氏は遅くとも2021年7月頃から、MTGグループからの受注がないにもかかわらず、自らの判断で広告を発注する行為を繰り返すようになりました。
広告業界では社印等の発注書がなくても口頭や電子メールでの発注が可能であり、a氏はM’sの営業部部長(後に代表取締役)として発注することができました。また、a氏やc氏(M’s請求事務担当)は経理会計ソフトを操作して発注稟議を経ずともM’sの社印付き発注書を出力できる環境にありました。
当初は未受注広告の金額が少額だったため、MTGの財務経理部門による支払いチェックを通過していました。同部門は月次の総支払額がMTGグループからの受注総額の範囲内かを確認していましたが、個々の請求書とMTGグループからの発注内容の紐付け確認までは行っていませんでした。
しかし未受注広告の増加に伴い、請求書と受注内容の齟齬や請求額が受注額を超える事態が生じると、a氏はMTGの経理部門のチェックを通過させるため、発注先からの請求書を改ざんしたり、翌月以降の広告料として繰り延べるための請求書を偽造したりするようになりました。
時系列での主要経緯
初期の未受注広告発注(2021年7月頃)
a氏は入社数カ月後から未受注広告の発注を開始。B社のイベント協賛とCMを発注し、SIXPADの広告に充てました。これらはM’sが広告料を負担する形で実施され、請求書はそのままMTG財務経理部門へ提出・支払いされました。
請求書改ざん・偽造の開始
C社の「番組X」テレビCM(2021年10月〜2022年3月)について、MTGからの受注がない部分をM’sが負担。a氏は支払遅延を申し入れ、複数月分をまとめた偽造請求書を作成してMTG財務経理部門に提出しました。
また「イベントY」協賛(2022年3月)では、SIXPAD部門が実施しないと決定した後も準備を進め、最終的に他社を無償出展させる一方、協賛費(税込1,188万円)の請求書を改ざん・偽造して支払いました。
未払金額の累積(2023年後半〜)
2023年前半までは粗利の範囲内で収まっていましたが、2023年後半から高額な未受注広告を発注するようになりました。
- ■■放送のテレビCMパッケージ(税込5,335万円)
- 複数のタイム枠(2023年10月〜、月額約2,400万円)
- タイム枠の大幅増枠(2024年4月〜、月額約1億3,200万円)
a氏はこれらを一部はMTGグループに提案して発注を受けましたが、多くは「無償サービス枠」と説明して提供しました。これにより未払金額が急速に累積しました。
問題発覚(2024年11月)
複数の発注先から強い督促を受ける中、広告代理店からMTG従業員への情報提供をきっかけに内部監査室が調査し、問題が発覚しました。
a氏の認識と動機
a氏は未受注広告の発注が問題であることを認識していましたが、請求書改ざんの会計上の影響までは認識していなかったと述べています。
未受注広告を発注した動機として、MTGグループにとって効果的な広告枠を確保することがM’sの存在意義だと考えていたことを挙げています。個人的利益を得た形跡はなく、MTGを害する意図も認められません。
当初は少額の広告から始まり、問題指摘がなかったことや提案が採用されたことから、自身の目利きによる広告枠確保がM’sの価値だという思いを強め、次第に金額・頻度を拡大させていったと考えられます。しかし、これらの行為がM’sの制度上許容されないことは明らかでした。
なお、a氏以外の者が不適切行為に積極的な関与をしていたことを示す事情は認められませんでした。
不適切行為の発生原因と要改善点
a氏の資質に関する問題
a氏はM’sのプレゼンス向上を目指す過程で甘い見込みのもと未受注広告を発注し、それが問題なく処理できたことから規範意識が低下し、金額・頻度を増大させていきました。問題が生じても報告せず、請求書改ざん・偽造という不正手段に及びました。
a氏は過去の勤務先でも類似の問題を起こしており、テレビCMの放送枠について不適切な対応をした結果、部署異動や辞職に至った経歴がありました。a氏の業務における見通しの甘さとコンプライアンス意識の欠如が本件発生の主要因と評価せざるを得ません。
M’sに関するリスク分析の不足
MTG経営層や管理部門はM’sを「右から左に流すだけ」の低リスク会社と認識していました。しかし実際には、a氏はMTG稟議なしでも口頭発注が可能で、必要な場合は独断で押印できる状態でした。 また、少人数組織でa氏以外の社内牽制も不十分でした。
子会社管理の不足
MTGは子会社管理のための仕組みを持っていましたが、M’sは低リスクと見なされて重視されていませんでした。a氏による不正発注を制止できる具体的手続・制度はなく、財務経理部門のチェックも総額の異常性確認が主眼で、個別の請求書精査は行われていませんでした。
代表取締役選任プロセスの不備
a氏は前職での不祥事があるにもかかわらず、部長職採用時にはレファレンスチェック対象外であり、代表取締役選任時も前任者退任後の短期間での対応が求められたため、慎重な人選が行われたかは疑問です。
不正規模の拡大は2023年12月の代表取締役就任と無関係ではなく、適任者が上司として就任していれば不正を抑制できた可能性があります。
不正のトライアングル
不正のトライアングルとは、米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した理論で、不正が発生する3つの要因「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」を示したものです。この3要因が揃うことで、不正が起こる可能性が高まるとされています。
a氏の不正について「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の観点から分析すると、以下のように整理できます。
動機・プレッシャー
- a氏は、M’sのプレゼンスを高め、MTGグループにとって有益な広告枠を確保することを重視していた
- a氏は、広告発注において個人的利益を得る意図はなかったと述べているが、結果として未受注広告の発注を継続し、拡大させていった
- MTGグループからの受注が得られなかった際、正規の報告をするのではなく、請求書の改ざん・偽造で取り繕っていた
機会
- a氏は、口頭での広告発注が可能であり、MTGの稟議承認なしでも発注を進めることができた
- 発注書への押印に際して、MTG内の押印承認手続きが不要であり、a氏が独断で押印・提出できる環境があった
- M’sは少人数の組織で、a氏以外の役職員が広告業界の知見を十分に有しておらず、社内での牽制が不十分であった
- M’sはリスクの低い子会社と認識されており、J-SOXのスコープ対象外とされるなど、内部統制の目が行き届いていなかった
正当化
- a氏は、MTGグループにとって有益な広告施策を行っていると考え、未受注広告を発注していた
- 自身の行為を「M’sの存在意義を発揮するため」と正当化し、当初は少額の未受注発注だったものが、問題なく処理できる経験を重ねることで、次第に金額や頻度が増大していった
- a氏は、未受注広告の発注に関して問題があると認識しつつも、正規の報告をせず、請求書の改ざん等を行うことを容認する心理状態に陥っていた