決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、財務報告に係る内部統制(J-SOX)の目的である「財務報告の信頼性」に直接的に影響する重要な内部統制です。
この記事では、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価について簡単にまとめました。
全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの評価
実施基準において、全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの評価について、以下のように述べられています。
主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、全ての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。
「全社的な観点で評価することが適切と考えられるもの」:
さまざまな決算手続きのうち、実施基準では、全社的観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスとして、以下の手続きを挙げています。
- 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続
- 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続
- 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続
「全社的な内部統制に準じて」:
全社的な内部統制の評価では、主にチェックリストを用いて評価が行われますが、全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスについても、同様にチェックリストを用います。
ただし、全社的な内部統制の場合は、実施基準の「財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例」を参考にチェックリストを作成することができますが、全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスについては、一般的に広く利用されているチェックリストが存在するわけではありません。
よって、それぞれの企業グループに応じたチェックリストを作成する必要がありますが、具体的には「経理規程」や「決算業務チェックリスト」「決算マニュアル」等の整備・運用状況を確認するようなチェックリストになると思われます。
また、決算業務を担当する経理部門等が「決算業務チェックリスト」等を利用して決算・報告プロセスを自己点検している場合もあるため、これらを利用することも考えられます。
全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスの一般的な評価項目は、以下のようなものになります。
- 職務分掌、職務権限、内部牽制の状況
- 会計制度、会計方針、決算手続きの明文化による業務の標準化
- 経理体制及び人員の整備状況
- 連結パッケージ等の子会社の報告体制
- 上記規程類の周知状況 等
「全ての事業拠点について全社的な観点で評価する」:
決算・財務報告プロセスの評価手続きの前に、全社的な内部統制の評価において、評価対象とする事業拠点が選定されます。
全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスは、その選定された事業拠点において評価手続きを進めていくことになります。
個別に評価する決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価
実施基準において、決算・財務報告プロセスに係る内部統制評価の実施について、以下のように記述されています。
決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、全社的な観点で評価が行われることとなるが、それ以外の決算・財務報告プロセスについては、それ自体を固有の業務プロセスとして評価することとなる。
個別に評価すべき「固有の業務プロセス」は、財務報告の信頼性に関して非常に重要な業務プロセスであり、実施基準では、重要性の大きい業務プロセスを検討するポイントとして、以下のものを挙げています。
- リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
- 見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
- 非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス
これらのポイントに関わる一般的な決算手続きとしては、貸倒引当金等の諸引当金の計上、固定資産の減損処理、繰延税金資産(負債)の回収可能性の評価等があります。
また連結決算手続きにおいては、未実現利益の消去や、債権債務の相殺消去等の複雑な処理が多く、ミスが発生しやすいと考えられます。
決算・財務報告プロセスにおいて、これら固有の業務プロセスの評価は、3点セット(フローチャート、業務記述書、リスク・コントロール・マトリクス(RCM))、決算業務チェックリスト、決算マニュアル等の文書を利用して行われます。
内部統制の整備に関する評価については、これらの文書において、財務報告の虚偽表示につながるリスクが洗い出され、それらに対応する統制が整備されているかかが問われます。
また、内部統制の運用の評価では、作成された文書どおりに決算業務が行われているかを確認しますが、決算業務は実施頻度が低いため、評価は慎重に行う必要があります。
もし内部統制に不備が発見された場合は、是正措置が必要です。
しかし都合上、評価の基準日は期末日となるため、期末日後に実施される決算手続きに不備が見つかっても、是正措置が基準日には間に合いません。
その不備が財務報告において重大なものである場合は「開示すべき重要な不備」として情報開示することになります。
このような事情もあって、日本公認会計士協会「監査・保証実務委員会研究報告第32号」では、調査対象とした2013 年4月期~2017 年3月期の重要な不備207件のうち、決算・財務報告プロセスの誤謬の件数は61件となっており、3割近くを占めています。
このことからも、財務情報の適切な開示において、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備・運用が重要であることがうかがえます。
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価時期
実施基準では、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の評価時期について、以下のように記しています。
期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的である。
内部統制評価では、期末日(=基準日)時点での内部統制が有効であるかどうかを評価します。
しかし前述のように、多くの決算手続きが期末日前後に実施されることにより、不備が見つかっても基準日までに改善が難しいため、「開示すべき重要な不備」となってしまう危険性が高まります。
内部統制の不備が早期に是正され、決算手続きが適切に行われるためにも、前年度の決算・財務報告プロセスを一旦予備的に評価しておくことが望まれます。