【バルカー】幹部主導の水増し取引とキックバック

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第三者委員会等調査報告書の要約

 2024年8月、株式会社バルカーは外部から高機能シール本部内で本部長以下複数職員が取引業者との不正取引により利益を作出・分配しているとの情報提供を受けました。

 調査の結果、バルカー不正関与者らが特定取引業者と通謀し、水増し取引等で捻出した資金の一部分配を受けていたことが判明しました。

 同年9月25日の取締役会で、幹部社員らが取引業者と示し合わせて代金水増し発注を行い資金を着服していた不正行為の事実関係等を明らかにするため、独立社外役員中心の調査委員会が設置されました。

 この記事では、バルカーが公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社バルカー特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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株式会社バルカーの概要

資本金:約139億円(2024年3月31日現在)
売上高:約379億円(2024年3月期実績・グループでは約617億円)
従業員数:423名(グループでは1,670名、2024年3月31日現在)

事業内容:
・産業機器、化学、機械、エネルギー、通信機器、半導体、自動車、宇宙・航空産業等、あらゆる産業向けにファイバー、ふっ素樹脂、高機能ゴム等各種素材製品を設計、製造、加工および販売
・ソフトウエア・情報機器の開発および販売、関連する電子商取引などインターネットを利用した各種サービスの提供、コンサルティング、エンジニアリング、その他技術・ノウハウに関する事業

コーポレートガバナンス体制:
  • 取締役会:取締役7名(うち社外取締役3名)で構成され、原則毎月1回開催
  • 監査役会:常勤監査役1名、非常勤監査役2名(社外監査役2名)の3名で構成
  • 常務会:代表取締役およびその他の取締役(社外取締役除く)で構成され、常勤監査役やオブザーバー参加し、原則隔週開催
  • 指名報酬諮問委員会:取締役5名(うち社外取締役3名)で構成
  • コンプライアンス委員会:常務会の構成員で構成

調査結果の概要

不正行為の概要

 不正行為に関与した取引業者等は12社に及び、その多くが、バルカーグループとの取引関係の維持等のためやむを得ず協力していたとみられます。

 不正行為として認定された内容を類型化すると、以下のように分類することができます。なお、調査において、他に不正行為に類似する事象については確認されませんでした。

水増し代金の支払及びキックバック事案

バルカーグループと取引業者との以下の取引代金に水増しが行われており、かつ、バルカー不正関与者に対して取引業者からキックバックが行われていた事案:

  • F社:塗料用原料等の販売
  • A社:原料の販売
  • J社:コンサルティング契約
  • I社:同定分析、安全性評価試験、特許の精査等、材料費等に関する取引
バルカーグループとの取引におけるキックバック事案

バルカーグループと取引業者との取引代金に水増しは行われていないものの、バルカー不正関与者に対して以下の取引業者からキックバックが行われている事案:

  • C社:2液性塗料の販売
  • D社:塗料の試験開発
  • E社:■■の販売
  • G社:■■の販売、金型の短納期プロジェクト、■■の製造委託、開発案件、A社への■■原料の販売
  • H社:人材紹介、0リングの購入及び評価機の制作受託
  • J社:開発委託、■■及び材料の購入

以降調査報告書において黒塗りの箇所は「■■」としています。

バルカーグループとの取引以外に起因するキックバック事案

バルカーグループの取引業者から不正関与者に対するキックバックが行われているものの、当該キックバックがバルカーグループとの取引以外に起因する事案:

  • G社:シール製品の設計支援料、取引業者の紹介料
  • H社:不正関与者との間でのキックバック
  • K社:取引先の紹介に関する対価の支払

バルカー不正関与者らの経歴・動機等

経歴

 不正行為に関与したバルカー不正関与者の経歴は以下のとおりです。

  • W氏:バルカー 高機能シール本部 本部長上席専務執行役員
  • X氏:バルカー 高機能シール本部 副本部長
  • Y氏:バルカー 高機能シール本部 高機能シール開発部部長
  • Z氏:バルカー 高機能シール本部 参事
動機、キックバックの使途等

 W氏は不正行為の主導者でしたが、動機を明確に述べませんでした。高額な飲食費の捻出や、CEOの信頼獲得、独立事業への準備などが推察されます。

 X氏は水増し額の連絡など重要な役割を担い、W氏に次ぐ多額のキックバックを受領していました。その多くを飲食等で費消しており、積極的な関与が認められます。

 Y氏は職場風土によりやむを得ず関与したと主張していますが、開発部長という地位にありながら阻止措置を講じず、長期間キックバックを受領していました。

 Z氏も同様の主張をしていますが、取引業者と通謀し独自にキックバックを得て友人との遊興に費消するなど、経済的利得を目的とした能動的関与が認められます。

不正行為の内容

水増し代金の支払及びキックバック事案

 水増し代金の支払及びキックバック事案のうち、F社の塗料用原料の販売、J社、I社の同定分析、安全性評価試験、特許の精査等の事例について以下に要約します。

F社

 F社のバルカーに対する塗料用原料の販売に関する不正行為の手法は、以下のとおりです。

  • 見積段階:B氏がW氏又はX氏に正当な見積額を連絡
  • 水増し指示:W氏又はX氏がB氏に水増しした購入額を指示
  • 水増し請求:F社が水増し額で請求書を発行してバルカーに売却
  • 代金支払い:バルカーが水増しされた請求額を支払い
  • 実費精算:B社がF社に実際の仕入費用のみを支払い
  • 中間処理:F社が代金から手数料を控除してB社に支払い
  • 最終分配:B社が取引手数料控除後の残額をW氏、X氏、Y氏の指定口座に振込み

 F社との不正行為における水増し額は、F社のバルカー又はバルカーシールソリューションズに対する請求額(バルカー又はバルカーシールソリューションズのF社に対する支払額)から、F社の輸入代行手数料、塗料用原料及び■■原料の原価及びB社の取引手数料を控除した額となり、その額は133百万円となります。

 2020年後半より半導体及び樹脂原料が世界的供給不足となったため、バルカーグループは2021年6月より原料在庫を積み増し、正規ルート以外からも調達することとしました。

 W氏は元部下のB氏に市場調達を依頼しました。B氏のB社がバルカーと直接取引することを避けるべきとのW氏指示により、輸入代行に知見があるF社を活用し、2022年1月にF社へ輸入代行及びバルカー販売を依頼しました。

 F社は当初バルカーに原料を試験販売していましたが、検収により正式採用され、販売先がバルカーシールソリューションズに変更されて取引量が増加しました。同時期に液性塗料を共同開発し、塗料用原料についてもF社で取引を行いました。

 試験販売時は販売額が少額のため、F社はW氏への接待でキックバック分を還元していましたが、バルカーシールソリューションズ販売変更後はキックバック額が増大し、2022年9月より振込み分配方法に切り替えられました。

J社

 バルカーとJ社は2023年6月頃にコンサルティング契約を締結し、バルカー不正関与者とJ社代表者との間でコンサル費を水増しする合意がされました。

 バルカーは水増しされたコンサル費をJ社に支払い、J氏はキックバック方法として、J社のコーポレートカード2枚(J氏名義とW氏名義)を限度額100万円/月の範囲でW氏に交付しました。

 W氏名義カードはW氏が、J氏名義カードは主にY氏が使用し、飲食店や交通機関及び宿泊施設利用時に使用してJ社が代金を支払いました。さらに、W氏及びY氏は一部の支払分についてバルカーに経費として申請し受給していました。

 W氏とJ氏は2022年頃、神戸市の技術系企業の懇親会で知り合いました。W氏からJ氏に開発事業委託の話が持ちかけられ、2023年3月頃からバルカーとJ社間の取引が開始されました。

 その後、2023年5月頃にW氏又はZ氏からJ氏に水増し及びキックバック要請があり、J氏はバルカーとの取引関係維持のためこれに応じ、不正行為が行われることとなりました。

I社

 バルカーとの同定分析、 安全性評価試験、 特許の精査等に関する不正行為の手法として、まず、W氏がバルカーからI社への委託事項と水増しスキームを発案し、i氏がM社に委託費用を確認します。

 W氏が具体的な水増し額やキックバック額を定めた後、M社とA社間、I社とA社間で取引が行われます。ただし、A社はM社の作業結果を横流しするだけで独自作業はしていません。

 バルカーとI社間で取引が成立した後、A社はI社からの受領額とM社への支払額の差額から手数料を控除してL社に架空取引で支払います。

 L社は手数料控除後の残額を現金で引き出してa氏に手渡しし、a氏がW氏に手交してW氏が他のバルカー不正関与者に分配する仕組みです。

 不正の経緯としては、開発業務に興味を持っていたW氏は、I社の分析業務等を用いてキックバックを捻出することを思い立ち、i氏及びバルカー不正関与者をメンバーとするLINEトークルームを作成しました。

 W氏は同トークルームで様々な不正行為の手法を次々と考案し、i氏や他のバルカー不正関与者に指示を出していました。

 i氏にとって上場企業であるバルカーとの取引維持はI社にとって重要であり、またW氏をバルカーのナンバー2〜3の地位にあると認識していたため、W氏からのキックバック要請を断ることができず、不正行為が行われるに至りました。

バルカーグループとの取引におけるキックバック事案

 バルカーグループとの取引におけるキックバック事案のうち、C社の事例について以下に要約します。

C社

 バルカーに対する液性塗料の販売に関する不正行為の手法は以下のとおりです。

  • 価格設定の操作:C社がバルカーから液性塗料を購入する価格(仕切値)をバルカーの利益となるよう設定
  • 請求書の提出:C社が液性塗料納品後、仕切値で請求書を発行
  • 支払い:バルカーがC社に請求書額を支払い
  • 手数料の控除:C社が受領代金から手数料を控除し、残額をB社に支払い
  • 指定口座への振込:B社が架空取引によりA社経由でキックバックを支払う場合もあり

 2021年1月頃、C社から顧客開拓委託を受けた人物がバルカー在籍時の面識者を訪問し、バルカーとの取引が開始されました。バルカーとC社は加熱性と耐火性を備えた液性塗料の開発に取り組み、独自製品として成功しました。

 2022年3月頃から本格的取引が始まり、同年9月にバルカーが顧客への販売を開始。キックバックは試験納入段階からB氏への接待として開始され、2022年9月以降は販売額増加により口座振込方式に変更。

 2023年2月以降はA社経由での分配も行われましたが、同年6月のC社経営破綻によりD氏に事業譲渡され、不正行為は終了しました。

連結財務諸表に与える影響

 2022年3月期から2024年9月期にわたって、調査によって判明した不正行為により発生したバルカーグループへの水増し請求合計額は257百万円にのぼります。

 2024年9月末時点において、水増し金額は、累計で売上原価として47百万円、研究開発費(販管費)として24百万円が費用処理されるとともに、棚卸資産に162百万円が含まれていると試算されました。

 これらの金額は、バルカー不正関与者に求償されるべき金額であるため、各科目に含まれる水増し金額を取り消し、求償権に振替える修正を行うこととしました。

発生原因の分析

背景事情

権威主義的リーダーの暴走

 W氏は高機能シール事業のリーダーとして業績拡大の原動力となり、業界でも知名度が高く有力者としての地位を確立していました。

 これによりW氏の意見が絶対視される風潮が生じ、W氏の自尊心を肥大させて全能感を抱かせる結果となりました。W氏はその全能感の赴くまま、不正行為をあたかも仲間との「ゲーム」に興じるかのように実行していました。

固定的な人事と組織風土

 W氏が絶対的権威を有するに至った背景には、高機能シール本部における人事の固定化傾向がありました。

 W氏は2016年から6年以上担当役員を務め、この間副本部長の配置やローテーションが適切に行われず、結果的にW氏一人に権力が集中する状況が生まれていました。役職員アンケートでは、W氏に近い部門においてのみ不正発生の危険度が高い組織風土と評価されました。

発生原因

内部統制の無効化

 地政学リスクに基づく材料不足と価格乱高下という特殊な外部環境下で、権威主義的リーダーであるW氏が取引業者と共謀して不正を実行しました。W氏は承認権者であるX氏らに代金水増しを指示し、ダブルチェック機能を無効化しました。

コンプライアンス意識の不足

 W氏は自らの能力で事業を成長させてきたという自信から、不正関与者や協力した取引業者との間で仲間意識を強く持っていました。この認識が、キックバックを得て仲間に分配するという不正行為の要因となり、違法行為を正当化する理由ともなっていました。

取引業者との不適切な関係

 本件不正行為では、取引業者の積極的な協力が不可欠でした。取引業者は、不正に協力することでバルカーとの関係性強化や新規取引先紹介への期待を抱いていました。

 しかし、水増し請求やキックバックで取引関係を安定させるという発想自体が誤っており、バルカーとしても取引業者に対する適切な環境づくりが不十分でした。

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