2024年1月23日~26日、テクノフレックスの子会社であるニトックスに対する税務調査が行われました。
その結果、ニトックスが2017年~2022年に実体のない作業に対する外注費を支払い、その一部が得意先にキックバックされ(実際には外注先の取締役の裏金作りへの協力でした)、さらにその一部を前代表取締役社長A氏が私的に受領していた疑いが持たれました。
テクノフレックスはこれを受けて、外部専門家を含む特別調査委員会を設置され、調査を開始されました。
この記事では、同社が公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている主な不正案件の内容とその発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は株式会社テクノフレックス特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
※当該調査報告書の黒塗り部分は推察したうえで補完して当該要約を作成しています。その推察が誤っている場合がありますので、その点をご了承のうえ、お読みください。
ニトックスの概要
- 資本金:48百万円
- 事業内容:消防設備の設計・施工・管理など
- 従業員数:48名
- 株主:テクノフレックス(100%)
不正事実の概要
この不正は、ニトックスの元代表取締役社長A氏が中心となって行われました。A氏は、B社の取締役であるB氏と結託し、以下のような手法で不正な金銭の授受を行っていました。
- 某社が消防設備工事をニトックスに一括発注する
- ニトックスがB氏の息子が代表を務めるB社に一括外注する
- 複数の架空外注先(実在はするが実体のない作業に対して請求を行う)がニトックスに外注費を請求する
- ニトックスが架空外注先に支払った金銭を、B氏85%、架空外注先10%、A氏5%の割合で分配する(一部の架空外注先では割合が異なる)
- ニトックスから架空外注先への支払額について、B社がニトックスへの一括外注費の請求金額から控除して相殺処理を行う(※これによりニトックスには直接的な損失が生じないように工夫されていた)
この手法により、2017年6月から2023年12月までの間に、架空外注先への支払総額は130,444,850円(消費税別)に達しました。
当初は得意先へのキックバックの疑いにより調査が開始されましたが、調査結果としてB氏の裏金作りへの協力であることが判明しました。
不正発生の経緯
この不正は、以下のように、B氏の個人的な要望にA氏(ニトックスの元代表取締役社長)が応える形で始まり、徐々にスキームが確立されていったことが分かります。また、最初の不正は2015年頃から始まっており、その後、複数の架空外注先を巻き込んで規模が拡大していったことが推測されます。
発端:B氏とA氏の間で、B氏の老後資金作りについての相談があり、A氏がB氏のために裏金を作ることに同意したことが本件の発端とされています。
スキームの立案:A氏が、ニトックスに損害を与えずに実行可能な方法として、架空の請求と相殺勘定を利用するスキームを考案しました。
金銭の分配割合:B氏の取り分を架空外注先への支払額の85%とすることに両者が合意。残りの15%の配分(架空外注先10%、A氏5%)はA氏が決定しました。
最初の工事:会計の仕訳データ上、2015年の●●●店の消防設備工事において、ニトックスからB氏への支払いが確認されています。この工事ではB氏の他に2名の個人にも支払いが行われており、これらの人物も架空外注先として10%の配分を受けていたようです。
配分された金銭の使途:
- B氏:老後資金としてタンス預金
- 架空外注先:生活費、交際費、店舗の運転資金として使用
- A氏:明確な使途は覚えていないが、飲食等に費消したと述べています。
不正の動機
この不正は単純な個人的利得を目的としたものではなく、以下のように、業界の慣行や人間関係、会社に対する帰属意識などが複雑に絡み合って発生したことが見て取れます。特にA氏(ニトックスの元代表取締役社長)の場合、自身の利得よりも他者への配慮が不正行為につながるという、やや特殊な動機が見られます。
B氏の動機
- 役員報酬として利益を得るより、ニトックスと架空外注先を介在させる当スキームの方が、課税を回避しつつ、より多くの手取り金額を得られるため
- 得意先との直接取引ではなく、ニトックスを介在させることで、設備資材メーカーとの直接取引が可能となり、安価での資材調達ができるメリットがあった
A氏の動機
- 個人的な利得は少額(5%)だったにもかかわらず、不正に関与した理由が焦点となった
- ニトックスの売上を増やす意図はなかったと考えられる
- 昵懇の間柄であるB氏の老後資金作りに協力し、金銭面で困っている架空外注先の小遣い稼ぎになればよいという程度の動機
- ニトックスに損害が生じないため、大事にはならないだろうという軽い気持ちがあった
- 人格者であり、自分のことよりも他人のことを慮る性格が度を越した結果
架空外注先の動機
- 小遣い稼ぎの機会として本件スキームに関与
- A氏への個人的な信頼があった
- 使用された預金口座は他の用途には使っていないものだった
不正の発生原因
調査委員会は、この不正行為が発生し、長期間にわたって発覚しなかった原因として、以下の点を挙げています。
A氏の属人的要因
- A氏(ニトックスの元代表取締役社長)は創業者としてニトックスの社内で絶対的な立場にあり、この立場を利用して不正を行った
- テクノフレックスによる株式取得後も、ニトックスは自分の会社であるという意識が抜けきっていなかった
- 同業者との人間関係を重視し、その利益を優先させた
- コンプライアンス意識が決定的に欠如していた
ニトックス社内のチェック機能の形骸化
- 技術部による請求書の査定が形式的なものとなっており、実質的なチェックが行われていなかった
- 新規取引先登録時の確認が不十分で、架空外注先の実態確認が適切に行われなかった
証憑の事後的な作成(内部統制に対する理解の不足)
- 内部監査への対応として、見積書や注文書を事後的に作成するなど、不適切な対応が行われていた
- 業務フローが工事の実態を適切に反映していない可能性があった
親会社による牽制が効かなかったこと
- テクノフレックスから派遣された役員による牽制が十分に機能していなかった
- A氏の影響力が強く、他の役職員が問題を指摘できない状況にあった
同業者間の馴れ合い
消防設備工事業界の狭さと同業者間の強い仲間意識が、不正行為を助長した可能性があります。
相殺処理の悪用
相殺処理を利用することで、ニトックスに損失が生じないようにし、不正の発覚が遅れることになりました。
内部統制の不備
業務フローが実態に即していない部分があり、役職員が内部統制上の自己の役割を適切に理解していませんでした。
例外的な処理の横行
A氏が関与する案件は特殊であるという解釈により、通常のチェック手続きが省略されていました。
これらの要因が複合的に作用し、不正行為が長期間にわたって継続され、発覚が遅れたと考えられます。特に、A氏の強い影響力と社内のチェック機能の形骸化が大きな要因となっており、上場会社の子会社としてのガバナンスが適切に機能していませんでした。
不正のトライアングル
不正のトライアングルの観点から、調査報告書をもとに、A氏(ニトックスの元代表取締役社長)が不正を行った要因をあらためて以下のようにまとめてみました。
動機・プレッシャー
- B氏のような同業者からの要請に応えたいという心理的プレッシャー
- 長年の友人関係にある同業者を助けたいという動機
- 業界内での人間関係や立場を維持したいという欲求
- 個人的な小遣い稼ぎの機会として捉えた可能性(A氏自身の取り分は5%と少額ではあったが)
正当化
- ニトックスに損害が生じなければ問題ないという考え方
- 相殺処理を利用することで会社に実質的な損失を与えていないという認識
- 自身が創業者であり、ニトックスは依然として「自分の会社」だという意識
- 同業者間の助け合いは業界の慣行だという認識
- 仲の良い同業者の利益を優先することは許容されるという考え
機会
- 創業者としてニトックスの社内で絶対的な立場を持っていた
- 社内のチェック機能が形骸化しており、実質的な査定が行われていなかった
- 相殺処理を利用することで不正を隠蔽しやすい環境があった
- 新規取引先登録時のチェックが不十分で、架空外注先の登録が容易だった
- 親会社からの牽制が十分に機能していなかった
- 内部統制の理解不足により、証憑の事後的な作成などの不適切な対応が可能だった
- 業務フローが実態に即していない部分があり、例外的な処理が許容されやすい環境があった
親会社であるテクノフレックスの監督責任について
テクノフレックスは、本社の役職員をニトックスの役員(取締役2名、監査役1名)と兼任させるとともに、テクノフレックスの子会社からの人事異動により、管理部門を統括する立場の者と、技術部門を統括する立場の者をともに執行役員に就任させています。しかしながら、これらの役員による牽制は機能していませんでした。
上記を踏まえると、テクノフレックスは親会社として以下のような責任が考えられます。
子会社に対する監督責任
テクノフレックスは、上場企業として、子会社であるニトックスの業務執行を監督し、法令遵守を徹底させる責任があります。本件においては、テクノフレックスは、ニトックスの内部統制が適切に機能しているかを十分に監視できていなかった可能性があります。
ガバナンス体制の構築責任
テクノフレックスは、ニトックスとの間で、適切なガバナンス体制を構築し、情報共有や意思疎通を図るべきでした。本件のように、子会社で長期間にわたって不正が行われていたということは、親会社と子会社の間で、十分なコミュニケーションが取れていなかった可能性を示唆しています。
企業文化の浸透責任
テクノフレックスは、上場企業としてのコンプライアンス意識を、子会社にも浸透させる責任があります。本件では、ニトックスの創業者であるA氏(ニトックスの元代表取締役社長)の影響力が強く、それがコンプライアンス意識の低さに繋がっていた可能性があります。テクノフレックスは、子会社を含めたグループ全体で、コンプライアンスを重視する企業文化を醸成する必要があったと考えられます。