【創建エース】子会社の経済的実質を欠いた工事請負

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第三者委員会等調査報告書の要約

 株式会社創建エースは、2024年10月に証券取引等監視委員会から連結子会社とA社との取引実在性と債権の資産性について疑義を指摘されました。

 2025年3月に監視委員会から外部専門家による調査要請を受け、創建エースは3月19日に独立した特別調査委員会を設置し、会計処理の事実関係調査、業績影響把握、原因究明を行うことを決定しました。

 この記事では、創建エースが公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社創建エース特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

株式会社創建エース

  • 資本金:109億円
  • 売上高:1,580百万円(2024年3月期連結)
  • 従業員数:34名(2025年6月末時点の連結ベース)
  • 事業内容:建築業及び建築資材等の販売、グループ会社の管理経営などの持株会社
  • 連結子会社:巧栄ビルド株式会社、株式会社創建メガ、株式会社メディカルサポート(調査報告書日現在)
コーポレートガバナンス体制
  • 取締役会:社外取締役3名を含む取締役6名で構成、原則毎月1回開催
  • 監査役会:社外監査役3名で構成(うち1名は常勤監査役)、毎月開催

判明した事実

A社案件の受注経緯

 2021年4月の株主総会で経営陣が刷新された際、新たに取締役に就任した岡本武之氏がコンサルタントのc氏を招聘し管理本部長に任命しました。c氏は以前からA社のa氏と面識があり、同年9月にa氏が資金調達の相談のため本社を訪問したことから業務提携が始まりました。

 A社は多くの工事案件の引き合いがありながら、資金的な問題から受注できない状況にありました。

 当初は中小企業ホールディングス(創建エースの旧社名)グループが元請けとなる予定でしたが、工事実績がないため、A社が元請け、同グループ会社が下請けとして商流に入ることになりました。

外部取引照会による実態調査

 特別調査委員会は537件の工事取引について、元請け業者に対して外部取引照会を実施しました。その結果、以下の重要な事実が判明しました。

  • クレア建設(2022年にクレアホーム、クレアスタイルと統合し、巧栄ビルドに社名変更)および巧栄ビルドが工事に関与しているという回答は1件もなかった
  • 元請け業者の102件が「工事を実施していない」と回答した
  • 86件が「工事は受注しているがA社には発注していない」と回答した
  • A社に発注したと回答した304件についても、受注案件一覧記載の金額と大幅な乖離があった

 特に注目すべきは、A社への発注金額について受注案件一覧記載額と最大16億円以上の乖離があった事例や、元請け業者から「A社に発注していない工事について、なぜA社が情報を知っているのか気持ちが悪い」との指摘があったことです。

 これらの回答から、A社が実際には受注していない工事についても、自社の受注案件として情報を入手し、クレア建設および巧栄ビルドに発注していた可能性が強く示唆されました。

A社とB社の経済的一体性

 以下の調査結果により、A社とB社(下請け業者)の間に経済的一体性が認められました。

  • B社の代表取締役b氏はA社の従業員として勤務
  • 事務処理においてB社とA社が一体として扱われていた
  • 資金循環構造…B社からA社名義での振込や同日中の資金循環
  • B社の業績は売上高が28億円に増加したにも関わらず、営業利益率は0.002%と異常に低い

 なお、デジタル・フォレンジック調査により、会計監査人がA社とB社の経済的一体性について疑義を持たないよう組織的な対策が講じられていたことも判明しています。

資金循環の実態

 2023年1月以降、A社、巧栄ビルド、B社の間で複雑な資金循環が確認されました。

  • 巧栄ビルドからB社への支払い後、同日中にB社からA社名義で巧栄ビルドへ資金が還流
  • この資金移動を利用して売上高と売上原価を計上していた
  • 実際にはクレア建設が中小企業ホールディングスから借り入れた資金でA社の下請け業者への支払いを立て替えていた

税務申告書類の二重作成

 A社が税務署に申告している税務申告書にはクレア建設および巧栄ビルドへの工事未払金が記載されていない一方、中小企業ホールディングスに提出された資料には記載されているという二重作成の事実が判明しました。

 この二重作成について、A社のa氏は金融機関提出用に建設業実績のないクレア建設および巧栄ビルドを記載すると与信等の問題が発生することから、風評被害を懸念して記載していないと供述しました。

 しかし確定決算主義に基づいて作成された税務申告において取引を認識していないことは、実質的な工事関与がなかったことを示す重要な証拠となります。

工事関与の証拠検証

 工事への実質的関与を示す証拠の検証結果について、以下のことが判明しています。

証拠書類:注文書、請求書等の基本的書類は存在したものの、工事施工管理に通常必要な図面、工程表、安全日報、業務指示書等はほぼ不見当でした。

工事写真:537件中88件で工事写真が存在しなかった他、存在する写真も外観のみで工事実態が不明なものが大多数を占めました。建設業者として工事進捗を把握できるような写真は見当たりませんでした。

 会計監査人による監査対応として、d氏(元クレア建設および巧栄ビルド取締役)等が実際に現場に赴いて写真を撮影していましたが、工事現場への立入りができなかったため遠方からの外観写真が大多数を占め、施工管理を行っていると認められるような証拠価値のある写真は不見当でした。

ファクタリング関連の不整合

 A社の資金繰り改善のために実施されたファクタリング手続において、多数の書類間不整合が発見されました。

  • 同一工事に対する異なる元請け業者からの注文書の存在
  • 注文書と請求書の相手先が異なる事例
  • 指定請求書による請求しか受け付けない元請け業者に対するA社独自雛形の請求書の存在
  • ファクタリング資料と実際の請求書金額の不一致
  • 債権譲渡登記データにおける相手先の月次での変更

通常取引フローとの比較分析

 特別調査当委員会は、会社として想定している工事請負に係る通常の取引フローとA社案件の実務運用を比較検証しました。

通常の取引フロー:工事内容の情報収集→下請け業者への見積依頼→自社見積書作成→元請け業者との商談・合意→受注稟議承認→契約締結

A社案件の実務運用:A社から案件リストを受領→資金繰り検討による受注案件決定→B社から一括見積書入手し10%程度の利益を上乗せして見積書作成→A社との契約手続き

 この比較により、A社案件では通常の建設業における積算や施工検討が行われておらず、A社から送付される管理資料に依存した実務運用がなされていたことが確認されました。

調査結論と影響額

 各調査手続きの結果、クレア建設および巧栄ビルドはA社案件の工事に実質的に関与しておらず、収益認識会計基準のステップ1「契約の識別」要件である「契約に経済的実質があること」を満たしていないため、収益計上は適切ではないと結論付けられました。

連結財務諸表への影響額(累計):

  • 2022年3月期:売上高258.6億円減、営業利益8.6億円減
  • 2023年3月期:売上高418.7億円減、営業利益73.8億円減 
  • 2024年3月期:売上高61.8億円減、営業利益9.3億円増(販管費取消効果)

発生原因の分析

問題の全容

 特別調査委員会の調査により、クレア建設および巧栄ビルドがA社から受注したとされる工事請負契約について、実際には工事に実質的に関与しておらず、経済的実質を欠いていることが判明しました。

 A社案件の中には架空取引も存在し、同グループは意図せずこれらに関与することとなりました。その結果、収益認識基準を満たさない売上高73億9094万円(連結売上高の約95%)を計上し、ステークホルダーの意思決定に重大な影響を与える事態となりました。

 このような事態が発生した主な原因は、以下のとおりであると考えられます。

当時の経営陣のリテラシー欠如

 最も根本的な原因として、経営陣の知識と判断力の不足が挙げられます。具体的には以下の問題がありました。

 まず、A社案件を受注するにあたっての経営課題の検討が全くできていませんでした。

 同グループはもともと小規模な内装工事を手がけていたところ、A社との取引により従来とは比較にならない規模と数の工事を受注することになりました。

 しかし、大規模かつ多数に及ぶA社案件について、適切に工事の施工又は施工管理をし得るだけの人員体制や工事能力を全く有していませんでした。

 本来であれば、中小企業ホールディングスの取締役会において、建設業法をはじめとした関連法令の遵守、工事の品質管理、社内体制の構築・人員の整備等について慎重な議論が必要でしたが、これらは全く行われませんでした。

 次に、A社案件に内在する重大なリスクを見過ごしていました。

 工事請負取引において、人工の融通、資材の仕入などの施工管理をしないか、形式的・名目的にのみ施工管理をしているにもかかわらず請負として商流に入ることは、架空取引に関与してしまうリスクが内在するものでした。

 特に、A社案件のように、クレア建設および巧栄ビルドの上流と下流にA社・B社という経済的に同一であると認められる主体が入る場合、架空取引を行う動機・リスクは一気に増大します。

 実際、一部の従業員や子会社役員は、A社とB社が実質的に一体であることを把握していたにもかかわらず、このリスクに対する検討や対応は行われませんでした。

 さらに、法令上、会計上の検討も全く行われていませんでした。

 調査の結果、同グループがA社との取引を開始した理由は、A社の資金問題を解決するためであったことが判明していますが、経営陣は真正な工事請負であれば通常取られるはずの体制を整えることなく取引を開始していました。

 これは、経営陣がA社案件を一種の資金融通取引として考えながらも、上場会社として売上高を計上し業績を拡大したいとの思惑から、請負契約として処理したものと推察されます。

重要な事実の役員間での情報共有不足

 財務担当取締役であった齋藤雅彦氏への聞き取り調査では、以下の重要な事実が取締役会で共有されていなかったことが判明しました。

 B社代表取締役であるb氏がA社の東京支店長を兼務していた事実、A社が税務署への申告用と中小企業ホールディングスへの送付用という二重の税務申告関連資料を作成していた事実、A社・同グループ・B社間における資金の流れなど、いずれも取引の問題性を示す重要な情報でした。

 これらの情報は一部の従業員や子会社役員によって把握されていたにもかかわらず、他の取締役には共有されず、当然社外役員にも共有されていませんでした。

 この情報の非対称性の結果、取締役会での十分な議論が行われず、取締役会や監査役会が本来果たすべき役割を果たせないまま、重要な意思決定がなされてきました。

経営陣の判断に盲目的に従う企業風土

 A社案件受注当時から在籍していた巧栄ビルドの取締役および従業員への聞き取りでは、現場レベルで多くの問題意識が存在していたことが判明しました。

 具体的には、案件数に比して対応できる人員が足りていないこと、自社の社員が現場の管理をしていないこと、A社とB社は実質的には同一主体であるように見受けられること、建設業者として本来なすべき業務を実施しているか疑問であることなど、A社案件そのものに対する違和感を抱いていた者がいました。

 しかし、これらの問題意識は経営陣に共有され、検討されるには至りませんでした。その理由について、従業員らは「経営陣の決めたことに従っていただけ」「自分が意見を言える立場にはなかった」と述べており、経営陣の判断にただ従っていく意識であったことが判明しました。

 このような、経営陣の判断や業務の実態について疑問を抱きながらも、経営陣の判断だから仕方がないという企業風土が存在していたこと、さらにA社案件に対する疑問を中小企業ホールディングスの経営陣に共有できる実効的な仕組みが存在していなかったことが、A社案件の問題を同グループ全体の課題として捉えられなかった重要な原因となりました。

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