株式会社ナ・デックスは、2024年11月に仕入先のC社から6517万200円の売掛代金請求を受けました。北九州営業所長がC社との面談で、商品の流通経路がC社→対象会社→A社であることを確認し、A社に注文書発行と商品検収を依頼しました。
しかし、A社から取引実態がないとの連絡があり、不正取引の疑いが発覚しました。調査の結果、C社の他にD社とB社からの仕入れにも実態がない可能性が判明し、業務委託社員Xが循環取引を認めました。
この事態により2024年度の事業実績に疑義が生じたため、特別調査委員会を設置しました。その後の調査で、Xによる架空在庫の正規取引への付替えや仕入商品の領得疑惑も新たに発覚したため、追加調査を実施することになりました。
この記事では、ナ・デックスが公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は株式会社ナ・デックス特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:1,028百万円
- 連結売上高:34,436百万円(2024年4月期)
- 従業員:約240名(2024年11月現在)
- 事業内容:①接合機器の開発、製造、販売、取付工事及び接合材料の販売、②ファクトリーオートメーションシステムの開発、設計、製造、販売、取付工事、③電子制御機器の販売、④情報ネットワークシステムの企画、開発、設計、販売、保守及びコンサルティング業務
コーポレートガバナンス体制(2024年7月現在)
- 取締役会:取締役5名(うち社外取締役1名)で構成され、原則毎月1回開催
- 監査役会:監査役3名(うち社外監査役2名)で構成
- 常務会:社内取締役と常勤監査役で構成し、毎月1回開催され、取締役会への付議事項の審査、取締役会から委嘱を受けた事項、その他経営に関する重要な事項等について審議・決議
各取引の事実関係
各取引の端緒
2024年11月、仕入先のC社から約6517万円の売掛代金の請求を受けたことがきっかけで発覚しました。当初、A社の担当者は12月中に検収すると回答しましたが、11月19日になってA社との取引は実態がなく、商品の納品実績もないことが判明しました。
この後の調査で、C社以外にもD社やB社からの仕入も実態のない不正取引である可能性が浮上。業務委託社員Xに対するヒアリングで、A社向けの取引が循環取引であることが確認されました。
領得行為
領得行為は、B社からのPC等の仕入れに関する不正です。XはB社に対し、個人のメールアドレスを使用してPC等を指定の場所に納品するよう指示し、直接受け取っていました。
その際、B社に対して納品書の品目を機械部品類に書き換えるよう依頼し、B社は手書きまたはエクセルで書き換えた納品書を作成していました。
Xは受け取ったPC等を買取業者で現金化し、その現金は交際費や部材購入等に使用したと説明しています。この領得行為は2016年頃から開始され、2024年10月まで続きました。2020年1月以降の取引について、120件、合計1億4867万1436円の不正が確認されています。
循環取引
循環取引は、2020年2月頃から開始されました。取引の流れは以下のとおりです。
- ナ・デックスがC社等から機械部品類を仕入れ、A社に販売
- A社がE社またはH社に販売
- E社またはH社がG社に販売(場合によってはF社を経由)
- G社がC社等に販売
- C社等が再びナ・デックスに販売
この循環過程で各社は10%の利益を上乗せし、実際の商品移動は伴っていませんでした。2020年7月から2024年10月までの不正取引額は合計1億2045万720円に上ります。
付替行為
Xは、領得行為や循環取引により生じた架空在庫を、N社向け案件の仕入として計上していました。付替行為の総額は以下のとおりです。
- B社PC等分:23件、318万2255円
- B社循環分:55件、1163万7281円
- C社循環分:36件、592万700円
- D社分:83件、2165万2400円
合計で197件、4239万2636円となっています。
本件預け在庫
Xは架空在庫を処理するため、A社向けの預け在庫として計上し、A社から虚偽の預かり証を受領することで発覚を防いでいました。預け在庫額は年々増加し、2024年4月末時点で約9533万円に達していました。
Xの動機
Xは動機について、ナ・デックスのO社案件で発生した赤字の穴埋めのためと説明していますが、この説明には合理性がないと判断されました。
領得したと推定される約1億円の使途についても、その大半が不明であり、説明された接待交際費等の使途は裏付けられていません。特別調査委員会は、まとまった額の金銭を必要とする個人的事情があった可能性を指摘しています。
対象者以外の従業員による付替等の行為について
ヒアリングの結果、v氏が西部営業部長を務めていた時期に、赤字による稟議や利益率の低下を理由とする申請を回避する意図で、付替行為があったことが認められました。
ただし、この行為はナ・デックスや仕入先の最終的な利益には影響しないことから、仕入先と良好な関係を築くための一手法として認識されていました。
2018年2月にナ・デックスが赤字案件の積極的な申告を周知して以降は、こうした行為は減少し、コンプライアンス意識も向上したと評価されています。
2018年12月頃に広島営業所で赤字案件の仕入伝票を別案件に付け替えようとした事案がありましたが、内部監査室の指摘により修正され、以後同種の事案は確認されていません。
以上から、Xによるものを除く従業員の付替行為については、会計処理に及ぼす影響が限定的であることを前提に、コンプライアンス上の問題点の指摘にとどめることとされました。
領得行為の認定金額及び財務への影響
領得行為の金額
Xの領得行為は2015年頃から行われていた可能性がありますが、証憑は2020年1月31日以降のみ存在します。特別調査委員会は、2020年4月期以降の行為のうち、仕入データ以外の証憑が存在するものを認定額としました。
決算期ごとの領得金額が以下のとおりです。
- 2020年4月期:567万2455円
- 2021年4月期:2322万2546円
- 2022年4月期:2811万5975円
- 2023年4月期:3013万6700円
- 2024年4月期:3791万4200円
- 2025年4月期第2四半期:2041万2560円
財務への影響
財務上、以下の処理が必要となります。
- 付替行為、循環取引にかかる売上・仕入の取消し
- 関連する売掛金、買掛金等の取消し
- 在庫商品の取消処理
- Xへの請求債権としての未収入金計上
原因分析
北九州営業所の管理・監督体制の不備
北九州営業所には管理者として所長が存在しましたが、西部営業部長との兼任で、常駐する管理者は不在でした。また、2020年7月時点では正社員はz氏のみで、事務担当のp氏は派遣社員でした。
z氏の退職後から2023年10月までは正社員不在の状態が続き、その後入社したn氏はXの子であり、上司以外による統制が働きにくい状況でした。
このような管理・監督体制の脆弱さが不正行為を生む要因となりました。
北九州営業所における決裁処理の形骸化
派遣社員のp氏は、長期に及ぶ受注から売上計上までの期間や、証憑類の不自然さ、取引内容の整合性のなさなどを認識していました。しかし、決裁権者のo氏は、これらの警告サインを見過ごし、取引の実態確認や証憑類の真偽の検証を怠り、形式的な決裁処理のみを行っていました。
決裁の意義は実質面でのチェックにありますが、その本来の機能が失われていました。
北九州営業所長と派遣社員とのコミュニケーション不足
p氏は複数回にわたりo氏に不正の兆候を報告していましたが、o氏の説明では報告を受けたのは発覚の1、2ヶ月前とされており、両者の説明には食い違いがあります。
仮にo氏の説明が事実だとしても、報告を受けた時点で預け在庫の現物確認を行っていれば、より早期に不正を発見できた可能性が高いと考えられます。
納品確認の実務運用の悪用
ナ・デックスの規程では、金額を問わず納品確認書類が必要とされていましたが、実務では100万円未満の取引については納品書のみで足りるとされていました。Xはこの運用を利用し、架空取引の対象を全て100万円未満として処理していました。
特に、設備販売を伴う取引では、設備自体は実在するため、セット品として紛れ込ませた架空部品の発見が困難でした。
在庫に対する危機意識の不足
商社取引では通常、仕入と同時に売上が計上され、在庫は発生しないのが原則です。しかし、本件では同一得意先向けに長期の預け在庫が存在するという異常な状態が続いていました。
この状況を認識していながら、A社からの預かり証の確認のみで現物確認を怠ったことが、不正の発見を遅らせる原因となりました。
虚偽の証憑類作成に対する取引先の関与
領得行為では、B社が納品書の品目書き換えに協力し、循環取引では、A社を含む複数の事業者が伝票処理のみで現物確認を行わず、特にA社は虚偽の預かり証を発行するなど、取引先の協力なしには成立し得ない不正でした。
その他
過去には利益率が低い場合の特値申請や赤字の場合の稟議を上げにくい雰囲気があり、これが付替や仕入先との貸し借りの原因となっていました。ただし、2018年2月の全社周知以降は、そのような雰囲気は改善されました。
しかし、一部の管理職には高いコンプライアンス意識が浸透しておらず、これも本件不正の一因となった可能性があります。
不正のトライアングル
不正のトライアングルとは、米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した理論で、不正が発生する3つの要因「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」を示したものです。この3要因が揃うことで、不正が起こる可能性が高まるとされています。
今回のナ・デックスの調査報告書にも、循環取引や領得行為といった不正行為が記載されていました。もし、この不正をトライアングルに当てはめるとしたら、次のように考えられます。
動機・プレッシャー
赤字工事の補填:
- 2014~2016年頃、O社との取引で赤字工事が発生する可能性があったため、補填のために架空の仕入や領得行為を開始
継続的な資金繰りの必要性:
- 赤字補填だけでなく、その後も循環取引や領得行為を継続していた
- 本来支払うべき仕入代金を別の案件に紛れ込ませる「玉突き処理」を行い、不正を繰り返さざるを得ない状況に陥った
個人的な利益や交際費の捻出:
- 会社の資金を不正に流用し、交際費や仕入補填に充てていた
- 調査報告書によると、1億円以上の不正資金があったが、個人的な目的にはほとんど使用していないと供述
機会
北九州営業所の管理・監督体制の不備:
- 営業所長が兼任であり、現場の業務を十分に監督できていなかった
- Xが自由に取引を行い、不正を隠ぺいできる環境が整っていた
決裁処理の形骸化:
- 仕入・売上の決裁が形式的に行われており、実質的なチェックが機能していなかった
- 証憑類の偽造(手書きやエクセルでの納品書作成)が発覚するまで疑われなかった
納品確認の実務運用の悪用:
- Xは、A社の担当者(a氏)に協力を求め、架空の預け在庫の証憑を作成
- これにより、実際には存在しない在庫を帳簿上維持し、不正を長期間発覚させなかった
仕入先や取引先の関与:
- B社がXの指示に従い、実際と異なる納品書を作成
- A社のa氏が、架空在庫の預かり証を発行
- こうした外部関係者の協力があったため、Xの不正は容易に実行可能だった
正当化
「赤字補填のために仕方がなかった」:
- 不正の動機の一つであるO社の赤字工事補填のため、当初は「会社のため」と考えていた可能性がある
「みんなやっている」「会社の管理が甘いのが悪い」:
- 過去にも仕入伝票の付替えなどが行われており、組織の慣習として受け入れられていた可能性がある
- 監督体制が甘いため、「バレないなら問題ない」と考えていた可能性
「どうせ自分は得をしていない」:
- Xはヒアリングで「個人的な利益にはほとんど使っていない」と供述
- 会社の資金を直接私的流用したわけではなく、あくまで「業務の一環」として処理していた可能性