【鴻池運輸】従業員主導で数々の不正経理

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第三者委員会等調査報告書の要約

 鴻池運輸株式会社は、税務調査の過程で従業員による不正行為が発覚したことを受けて、内部統制調査委員会を設置し、調査を行いました。調査の結果、従業員が取引業者と共謀し、架空請求や貯蔵品の不正消込、原価の付替え、先行支払、差額支払、派遣費用の水増しなど、複数の不正行為を行っていたことが判明しました。

 この記事では、同社が公表した内部統制調査委員会の調査報告書に記載されている不正事実の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は鴻池運輸株式会社内部統制調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

資本金:1,723 百万円
事業内容:複合ソリューション事業、国内物流事業、国際物流事業等
従業員数:連結:24,000 名、単体:14,000 名

コーポレートガバナンス体制:

  • 取締役会…取締役5名(常勤取締役2名、社外取締役3名)
  • 監査役会…監査役4名(常勤監査役2名、社外監査役2名)
  • 諮問委員会…人事・報酬委員会、サステナビリティ委員会、請負戦略委員会、ロジスティクス戦略委員会
  • 内部監査室

不正行為の内容について

架空請求

 D支店D1課の課長A1氏は、2021年10月から2023年10月までの間、部下のA2氏と共謀し、7社の取引業者(協力取引先7社)の協力を得て架空請求を行いました。この不正行為により、鴻池運輸から協力取引先7社に対して合計448百万円が支払われました。

 架空請求の手法は、A1氏が協力取引先7社に実態のない架空の業務を発注したこととし、協力取引先7社が虚偽の請求書等を作成・交付し、A1氏らがこれらの書類を用いて鴻池運輸から支払いを行わせるというものでした。

 この不正行為の背景には、D1課が2025年春頃に閉鎖することが決まっており、実績が予算を大きく上回る状況があったことが挙げられます。A1氏は、予算を大きく上回る実績を上げれば次年度にさらに大きな予算を求められることを回避したいという思いがありました。

 これらの不正行為により、A1氏らは協力取引先7社から現金やクレジットカードの貸与、商品券などの形でキックバックを受け取っていました。

 A1氏の上司であるA8氏(2018年4月から2022年3月まで業務第二部の部長)とA6氏(2022年4月から業務第二部の部長)は、本件架空請求について認識していなかったと述べています。また、D支店の支店長、副支店長も本件架空請求を認識していなかったとのことです。

 調査委員会は、D支店(D6営業所及びD7営業所を除く)において、外注費及び材料・修繕費について架空請求が存在しないか調査を行いましたが、上記の協力取引先7社との取引を除いては、架空請求の疑義のあるものは確認されませんでした。ただし、B8社およびB9社との取引において、請求書の工事名が書き換えられ、不適切な会計処理が行われていた事例が発見されました。

不正な貯蔵品の消込

 鴻池運輸では、梱包資材、燃料、設備補修用物品を「貯蔵品」として管理していますが、D支店において、不正な貯蔵品の消込が行われていたことが明らかになりました。この不正は主にD1課とD2営業所で発生しました。

 D1課では、2021年4月から2022年1月までの間、実際には存在しない貯蔵品を出庫(払出)したこととして、不正な消込を行いました。一方、D2営業所では2022年8月から2023年3月までの間、同様の不正が行われました。

 本来、経理規程や棚卸資産管理基準によれば、貯蔵品の受入・払出は継続的に記録し、四半期ごとに実地棚卸を行うことが定められていました。しかし、これらのルールが守られておらず、特にD1課では少なくとも7年以上も実地棚卸が行われていませんでした。

 D1課では、A1氏が課長就任時に帳簿上の貯蔵品残高と実際の在庫に大きな差異があることを認識し、業績調整と差異解消を目的に不正な消込を行いました。合計24,972千円の不正な払出計上が行われました。

 また、D2営業所では、所長のA3氏が帳簿上の数量と実態の差異を認識し、業務第二部部長のA6氏に相談しました。A6氏の指示を受け、A3氏はA1氏およびA4氏(業務第二部D3課課長)と相談し、架空の応援作業を計上する形で不正な消込を行いました。合計7,448千円の不正な払出計上が行われました。

 なお、D3課でもA4氏が業績調整のために貯蔵品の払出を不適切に処理していたことが判明しましたが、具体的な時期や金額は特定できませんでした。

 これらの不正行為の動機や認識は、以下のように関与者によって異なります。

  • A1氏(D支店業務第二部D1課課長):業績調整と帳簿上の差異解消を目的としていた
  • A3氏(D支店業務第二部D2営業所所長):帳簿上の差異を解消する目的で行ったが、業績調整の意図はなかったとしている
  • A4氏(D支店業務第二部D3課課長):業績調整を目的に不適切な払出処理を行っていた
  • A6氏(D支店業務第二部部長):D2営業所の差異解消の必要性を認識しつつ、D1課とD3課に協力を求めた
  • A8氏(元D支店業務第二部部長):D1課の不正な貯蔵品の消込を認識していなかった
  • 支店長・副支店長:不正な貯蔵品の消込を認識していなかった

 調査委員会は、鴻池運輸の他の拠点や関係会社において同様の不正がないか調査しましたが、D支店以外では不適切な管理や不正な消込を疑わせる事情は認められませんでした。

不正な原価の付替え

 D支店では、2022年8月から2023年10月にかけて、複数の課や営業所の所課長が協力して不正な原価の付替えを行っていたことが明らかになりました。この不正は主に2つの手法で実行されました。

  1. 材料費等付替:本来発注・消費を行う部署とは異なる部署で支払いを行い、D1課の材料費及び修繕費を増加させ、他部署の費用を減少させた。合計18,538千円の不正な付替が行われた
  2. 架空応援作業費の支払いによる付替:実際には人員の応援作業を行っていないにもかかわらず、これを行ったこととして部署間で支払いを行い、利益を付け替えた。合計15,004千円の架空の社内取引が行われた

 この不正行為には、A1氏(D1課課長)、A3氏(D2営業所所長)、A4氏(D3課課長)、A5氏(D4課課長)が関与していました。A6氏(業務第二部部長)も、D2営業所の貯蔵品の問題解消に関して、A1氏とA4氏に協力を求めるなど、一定の関与がありました。

 不正の動機や認識は以下のように関与者によって異なります。

  • A1氏:D1課の業績調整を目的としていた
  • A3氏、A4氏、A5氏:それぞれの部署の予算達成のために行い、A3氏については、貯蔵品の帳簿と実態の差異解消も目的としていた
  • A6氏:D2営業所の貯蔵品の問題を解消するよう指示したが、具体的な方法は把握していなかった

 一方、D支店の支店長、副支店長、D4課を統括する業務第一部部長は、この不正な原価の付替えを認識していなかったと述べています。

 調査委員会は、D支店の他の部署や期間についても調査を行いましたが、上記以外に不正な原価の付替えを疑わせる事実は確認されませんでした。

不正な先行支払

 D支店D1課の課長A1氏は、業績調整を目的として、2020年12月から2023年10月にかけて、3社の取引業者(B16社、B19社、B20社)に対して不正な先行支払を行っていたことが明らかになりました。

 この不正行為の手法は、実際には納品を受ける予定のない物品を発注したこととして請求書を発行させ、D1課から取引業者に請求書記載の金額を先行して支払い、物品の納品を受けていないにもかかわらず、これをD1課において費消したとして会計処理を行うというものでした。

 不正な先行支払の合計金額は42,928千円に上りました。ただし、その後実際に物品が納入されたり、取引業者の倉庫に保管されていることが確認できたため、鴻池運輸が被った実質的な損失は存在しませんでした。

 A1氏は、D1課の利益を圧縮し、実績と予算の乖離を縮小する目的でこの不正を行ったと述べています。A1氏が課長就任前から副長として実質的に業績管理を担当していたため、2021年4月の課長就任以前からこの不正行為が行われていました。A2氏はA1の指示を受けて、取引業者とのやり取りや物品の納品管理等を行っていました。

 D支店の支店長、副支店長、A6氏(業務第二部部長)、およびA1氏の前任者は、この不正な先行支払を認識していなかったと述べています。調査委員会は、D支店の他の部署や期間についても調査を行いましたが、上記以外に不正な先行支払を疑わせる事実は確認されませんでした。

不正な差額支払

 D支店D1課において、2つの取引業者(B21社とB22社)に対して不正な差額支払が行われていたことが明らかになりました。

1.B21社への不正な差額支払

 2021年10月以降、D1課はB21社から人員を受け入れることになりました。B21社は派遣業の許可を持っていなかったため、出向の形態を採用しました。通常、出向の場合は出向者の給与相当額を支払いますが、B21社は一人当たり1日3万円を負担するならば出向可能と提案し、A1氏はこれを了承しました。

 A1氏は、一人当たり1日3万円を前提とした金額と実際の出向者給与相当額との差額を、架空の工事発注という形でB21社に支払いました。この不正な差額支払の総額は、2021年10月から2022年2月までの間で1,841千円でした。

 2022年3月から同年9月にかけても出向は継続されましたが、この期間は架空工事の請求ではなく、出向費用に差額を上乗せする形で支払われました。上乗せされた金額は合計2,528千円でした。

 調査委員会は、2022年3月以降の支払方法について、不正な会計処理とまでは言えないものの、出向契約の本来の趣旨から逸脱しており、内部統制の運用に不備があると評価しています。

2.B22社への不正な差額支払

 B22社は2021年8月からD1課に人員を派遣していましたが、2023年1月から2023年10月までの間、派遣している人員の社会保険料等を補填する趣旨で、架空の補修工事等を発注したことにして、合計1,067千円の不正な差額支払が行われました。

 A1氏は、これらの不正な差額支払について業績調整の目的はなく、取引業者との関係維持や実際のコスト補填が目的だったと述べています。A2氏は、A1氏の指示を受けて会計処理を行っていました。

 また、D支店の支店長、副支店長、A8氏(前業務第二部部長)、A6氏(現業務第二部部長)は、これらの不正な差額支払を認識していなかったと述べています。

 調査委員会は、D支店の他の部署や期間についても調査を行いましたが、上記以外に不正な差額支払を疑わせる事実は確認されませんでした。

不正な派遣費用の水増し

 D支店D1課において、A1氏が2020年7月から2021年11月にかけて、取引業者B5社に対して不正な派遣費用の水増しを行っていたことが明らかになりました。

 この不正行為の手法は、B5社から派遣された人員が実際にD1課の業務に従事していた日時と異なる情報を報告し、実際よりも長時間勤務していたり、深夜や休日に勤務していたように偽ることで、実態と相違する過剰な費用を計上してD1課に請求させ、これに対する支払いを行うというものでした。この不正な派遣費用の水増しによって、D1課がB5社に対して支払った金額は、合計5,080千円に上りました。

 不正行為の経緯を見ると、2019年11月にB5社との契約形態が請負から派遣に変更されたことが発端となっています。2020年7月当時、A1氏はD1課の副長でしたが、課長が休職中だったため、実質的に業績管理を担当していました。A1氏は過去にB5社の業績を悪化させた経緯があったことや、派遣形態に変更されても単価が変わっていなかったことから、派遣費用の水増しをB5社に持ち掛け、B5社はこの提案を了承しました。

 A1氏は、A2氏の協力を得て、虚偽の就労報告書と水増しされた派遣費用の請求書を作成し、B5社に押印させてD1課に提出させました。2021年4月にA1氏がD1課の課長に就任後、D1課の業績が大幅に改善したため、実績と予算の乖離を縮小する目的で、より高額の不正な派遣費用の水増しを行うようになりました。

 A1氏は、この不正行為について、業績調整を目的としていたと述べていますが、私的な着服等の手段として利用された可能性も否定できません。

 D支店の支店長、副支店長、部長(A8は2020年6月から2021年3月は副支店長と業務第二部部長を兼務)、およびA1氏の前任の課長らは、この不正な派遣費用の水増しを認識していなかったと述べています。

 調査委員会は、D支店D1課の他の派遣取引についても調査を行いましたが、上記以外に不正な派遣費用の水増しを疑わせる事実は確認されませんでした。

不正の発生原因

 調査委員会は、本件不正事案の発生原因を6つの観点から分析しています。

コンプライアンス意識および倫理意識の不足・欠如

 法令や社内規程の理解が不足し、特に貯蔵品の管理や棚卸に関する基準、外注費等に関する業務フローが遵守されていませんでした。A1氏とA2氏には著しい倫理意識の欠如が見られました。

内部管理体制及び牽制機能の不適切な運用、形骸化

 D支店では内部の管理体制が軽視され、支店長や副支店長が印鑑を総務に預けるなど、牽制機能が働いていませんでした。貯蔵品の実地棚卸が7年以上実施されていなかったことも大きな問題でした。

要員配置の固定化と適正配置の不備

 同一部署での長期滞留により、人事が固定化し、不正行為が横断的に行われる環境が形成されていました。A1氏とA2氏は数年間同じ部署に所属し、強い上意下達の文化の中で従属的な関係が形成されていました。

取引業者との密着した不適切な取引関係

 地元の中小規模事業者が多く、鴻池運輸への依存度が高い取引業者が多かったため、不健全な関係が形成されやすい環境でした。取引業者は鴻池運輸からの不正な要請を断りきれない立場にありました。

不正検知に対する内部監査の深度不足

 内部監査は広範囲かつ短期間で行われており、個別の取引の深掘りによる不正の端緒の検出ができていませんでした。多岐にわたる監査項目に時間をかけられず、不正の検出機能が発揮されていませんでした。

業績に偏重した支店特有の「閉鎖型」の企業風土

 D支店では、予算達成へのこだわりやプレッシャーが強く、業績検討会では原価の内訳・管理統制が話題になりにくい状況でした。上意下達の風土が強く、特有の仲間意識が醸成されていました。

 これらの要因が重なり、本件不正事案が発生し、長期間にわたって発見されなかったと分析されています。特に、D支店特有の閉鎖的な風土や、コンプライアンス意識の低さ、内部管理体制の不備が大きな要因となっていたと考えられます。

不正のトライアングル

 不正のトライアングルの観点から、調査報告書をもとに、不正の主な関与者であるA1氏およびA2氏が不正を行った要因をあらためて以下のようにまとめてみました。

A1氏(D支店業務第二部D1課課長)

動機・プレッシャー

予算に対する過剰なプレッシャー:A1氏は、D1課において予算を大幅に上回る実績を達成した場合、次年度にさらに高い予算目標が課されることを恐れていました。このプレッシャーから、A1氏は業績調整を行い、利益を圧縮しようとしました。

私的な利益の追求:A1氏は、架空請求によって得た資金を、取引業者へのキックバック、私的な飲食費や遊興費の支払いなどに充てていました。

正当化

業績のブレの調整:A1氏は、業績の良い時期に取引業者に合意対価以上の金額を支払っておけば、業績が悪化した際に融通を受けられると考え、架空請求を正当化していました。

D1課閉鎖への備え:A1氏は、D1課が閉鎖されることが決まっていたため、それまでの取引業者での人員確保や、閉鎖後に生じる可能性のある余剰人員の経費負担に対する利益補填のために、架空請求で得た資金をプールしておく必要があると考えていました。

機会

D1課における権限の集中:A1氏はD1課の課長として、外注、購買、検収、支払いといった業務に関する権限を集中して掌握していました。このような権限の集中は、A1氏が不正を行う機会を生み出す要因となりました。

チェック体制の不備:A1氏の上司であったA8氏やA6氏は、A1氏に印鑑を預けていたため、請求書等の確認を怠っていました。また、支店長や副支店長も、日々の業務管理やチェック体制を適切に機能させていませんでした。これらのチェック体制の不備は、A1氏が不正を長期にわたって隠蔽することを可能にしました。

A2氏(D支店業務第二部D1課副長)

動機・プレッシャー

 A2氏は、上司であるA1氏から架空請求の処理をするよう指示され、それに従っていました。A2氏は、上司の指示に逆らうことができず、不正に加担せざるを得ない状況にありました。

正当化

 A2氏自身の正当化に関する記述は見当たりませんが、A1氏の指示に従うことで、不正行為に加担していたものの、それを職務の一環として捉えていた可能性があります。

機会

経理処理の担当:A2氏はD1課の副長として、経理処理を担当していました。この立場を利用し、A1氏の指示のもと、架空請求の処理を実行していました。

A1氏との共謀関係:A1氏とA2氏は、長期にわたりD1課で上司と部下の関係にあり、個人的な関係も築かれていました。このような密接な関係が、共謀による不正を容易にした可能性があります。

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