【I-ne】子会社隠しと貸付金の過少説明

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第三者委員会等調査報告書の要約

 株式会社I-ne(以下「I-ne」)は、2022年6月、同社の元従業員であるYa氏を唯一の株主かつ代表取締役とする株式会社Right Here(以下「RH社」)から、スキンケアブランド「aブランド」を18億円で買収しました。

 2025年12月、外部機関による調査を端緒として、RH社がI-neの連結子会社または関連当事者であったのではないかという疑義が浮上し、I-neは2026年2月に外部専門家による特別調査委員会を設置しました。

 本記事では、調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社I-ne特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

  • 資本金:50百万円(2024年12月31日時点)
  • 連結売上高:45,006百万円(2024年12月期)
  • 従業員数:434名(連結)(2024年12月31日時点)
  • 事業内容:ヘアケア製品、美容家電、スキンケア他関連のブランド及び製商品の開発、販売
コーポレートガバナンス体制
  • 取締役会(2024年12月31日時点):取締役6名(うち社外取締役4名(監査等委員である取締役3名を含む。))で構成され、原則月1回開催
  • 監査等委員会(2024年12月31日時点):常勤監査等委員1名を含む社外取締役3名で構成され、原則毎月1回開催
  • その他会議体・委員会
    取締役会の諮問機関:独立社外取締役を中心とする任意の指名報酬委員会
    取締役会の直属機関:代表取締役社長を委員長とするコンプライアンス・リスクマネジメント委員会及びサステナビリティ委員会

会計上の論点

 本件の核心は、議決権を直接保有していなくても、I-neの代表取締役である大西洋平氏(以下「大西氏」)を通じて実質的にRH社を支配していたと評価される場合、RH社がI-neの子会社または関連当事者に該当し得るという点にあります。

 特別調査委員会は連結会計基準および関連当事者会計基準に基づき、実質的な支配関係の有無を検討しました。

 なお、大西氏は資産管理会社と合算するとI-neの議決権の過半数を保有する大株主でもあります。

RH社設立の経緯

 2020年10月、大西氏は当時の経営幹部らとのChatworkにおいて、自らの資金で当時I-neの従業員であったYa氏を社長とする新会社を設立する構想を伝えていました。この時点で、将来的にI-neが当該会社を買収する可能性も想定されていたと認められます。

 大西氏は外部の公認会計士・弁護士に相談し、自らが経営に関与せず株主にもならなければ問題ないというアドバイスを受けました。

 しかし、専門家からは「多額の融資があれば子会社や関連会社に該当する可能性がある」「新会社は大西氏や貴社から独立して運営される必要があり、意思決定に関与してはならない」との重要な助言も受けていたにもかかわらず、その後の行動は必ずしもこの助言に沿うものではありませんでした。

 並行してI-ne社内では、2020年6月頃から開発が進められていた「aブランド」について、2020年11月中旬には新会社へ移管することが決定されました。

 社内の立上げチームには「I-neで長きにわたって頑張ってくれた社員を支援する意味も込めて」などと説明され、2020年12月25日、Ya氏を100%株主かつ代表取締役としてRH社が設立されました。

RH社の事業運営の実態

 RH社が設立から2022年6月のaブランド譲渡までに調達した資金は、すべて大西氏個人がYa氏に貸し付け、Ya氏がRH社に貸し付けた資金でした。累計貸付額は約4億8200万円にのぼります。当初、金銭消費貸借契約書すら作成されていませんでした。

 また、RH社設立時の資本金10万円について、Ya氏は実際に払込みをした記憶がないと述べており、2021年3月の資本金1000万円への増資も大西氏からの貸付金が原資でした。

 事業が失敗した場合の貸倒れリスクは大西氏個人が負担する構造であり、Ya氏個人にめぼしい資産がない以上、第三者にリスクを転嫁できる仕組みはありませんでした。

 RH社の事業運営は、実質的にI-neの役職員であるXc氏やYe氏らが中心となって行われており、RH社の代表印もI-ne社内で保管されていました。大西氏自身も「裏会社テレグラム」と呼ばれるグループに参加し、RH社の人事や発注、将来のI-neへの売却シミュレーションなどに具体的に関与していました。

aブランドの買収プロセス

 2021年7月の時点で、I-neの中期経営計画にRH社からのaブランド買収による売上増加を織り込む構想が進められていました。買収価格18億円の事業計画策定やバリュエーションの前提条件設定はすべてI-ne側のメンバーが主導しており、売手であるYa氏との実質的な交渉が行われた形跡はありません。

 買収価格はもともと15億円とされていましたが、Yq氏の発案で新商品の将来計画を加味して3億円増額され18億円となりました。

 2022年5月20日の取締役会において、監査等委員のXh氏から利益相反取引に該当する可能性が指摘され、議案は一旦取り下げられました。この場で大西氏は、Ya氏への貸付金額について「個人的に3000万円くらい貸した」と発言し、「出資者は数名いると思う」と説明しました。

 しかし実際には、この時点での貸付累計額は約4億7000万円であり、資金拠出者は大西氏のみでした。

 委員会は、大西氏が3000万円という金額を述べた背景について、買収価格の決定に第三者性がないとの監査等委員の問題意識に対応するため、RH社が一定の独立した存在であると説明する必要があると認識した結果と推認しています。

 会計上の連結範囲や関連当事者問題を回避する積極的意図は認められなかったものの、一度3000万円と説明した以上、その後の訂正が困難となり虚偽説明が維持された構造が指摘されています。

 その後、大西氏は自身の知人らに依頼して貸付債権4億5000万円を4者に譲渡し、形式上は債権債務関係を解消しました。さらに3000万円の金銭消費貸借契約書を新たに作成し、社外役員に開示しました。

 2022年6月22日の取締役会で議案は承認可決され、6月23日にI-neからRH社へ譲渡代金19億8000万円が支払われ、その日のうちにRH社から債権譲渡先4者へ約4億5900万円が送金されました。

 なお、aブランドの売却成功後、大西氏の発案により、RH社の資金を原資として関係者に合計180万円のボーナスが支払われています。

j社に関する類似事案

 2022年8月、Ya氏を代表とするj社が新たに設立され、I-neで開発が進められていた白髪用ヘアケアブランド「kブランド」が400万円で譲渡されました。

 j社の運転資金もRH社の資金を原資としており、外部からの資金調達はありませんでした。j社の備品購入なども大西氏の決裁を経て行われ、Ya氏に対する報酬や本件ストックオプション補填分の支払いも大西氏の承認のもとで決定されていました。

 委員会は、j社についてもRH社と同様、大西氏が実質的支配力を有していたと判断しています。

監査法人・東証への不適切な対応

 2023年1月の監査法人によるYa氏へのインタビューに先立ち、Yq氏が作成したスクリプトには「初期に大西さんより一部融資を頂いた。また、自分のルートで何名かにお声がけし、想いに共感頂く先から融資をしていただいた」との回答案が記載されていました。

 これは実態と異なる内容であり、適正な会計監査の前提を損なう重大な問題と評価されています。

 また、2023年のプライム市場区分変更に向けた東証審査においても、第1回質問事項回答書に「融資額3000万円、年利2.5%、期間1年」とのみ記載され、実際の貸付額と著しく異なる回答がなされました。

外部機関の調査前後のデータ削除

 2025年12月2日の外部機関による調査の前後において、大西氏、Xc氏、Yq氏、Yj氏、Ym氏、Ya氏ら複数の関係者が、テレグラム、LINE、Chatwork上のメッセージやアプリ自体を削除していたことが判明しています。

 大西氏は調査当日にテレグラムのアプリを削除し、LINEのデータも一部削除したと述べています。

 また、関係者が会社の管理が及ばない私用のテレグラムを業務コミュニケーションに常用していたことも問題視されています。大西氏自身が「裏会社テレグラム」の作成を指示していた経緯もあり、業務上の重要な情報が会社の管理下に置かれない状態が常態化していました。

委員会の結論

 委員会は、大西氏個人が実質的にRH社およびj社の議決権の過半数を所有しているのと同等の支配力を有していたと判断しました。

 一方、I-ne自体が緊密者や同意者を通じてRH社を実質的に支配していたとは認められないと結論づけ、RH社およびj社はI-neの子会社ではなく、関連当事者のみに該当すると判断しました。

ガバナンス上の問題点と原因分析

 委員会は、大西氏のYa氏に対する貸付金に関する取締役会等への説明が一貫して不正確であったこと、買収プロセスにおいて健全な第三者性が確保されていなかったこと、監査法人や東証への情報提供にも問題があったことを指摘しました。

 これらの背景には、以下の原因があったと分析されています。

  • 大西氏ら経営陣における上場会社としてのガバナンス・コンプライアンス意識の不足
  • 代表取締役への権限集中と同質的な経営チーム構成
  • 当時Yq氏が法務・取締役会事務局・対監査法人窓口などを一手に担うことで生じた執行側の牽制機能の不在
  • 関連当事者取引に対する組織的管理体制の不備
  • 社員が違和感をエスカレーションできる仕組みの不備
  • 私用テレグラムの業務利用に象徴される情報管理体制の不備

 なお、社外取締役、特に監査等委員らは利益相反の問題を指摘して議案を一旦取り下げさせるなど一定の牽制機能を発揮したものの、執行側から正確な情報が提供されない中では、その機能の発揮には限界があったと評価されています。

3ラインモデルから見た本事案のリスクマネジメントの破綻

 本事案は、3ラインモデルの各防衛線がいずれも機能不全を起こした典型例といえます。

 第1ライン(事業部門)では、RH社の実務をI-neのXc氏やYe氏ら、大西氏と同質的な関係者が担い、利益相反に異を唱える者がいませんでした。違和感を持つ社員も「批判的と取られる」ことを懸念し、内部通報も行われず、自浄機能が働きませんでした。

 第2ライン(管理部門)が最も深刻です。本来は独立して牽制すべき立場のYq氏が、取締役会事務局、社外役員説明、買収実務、対監査法人窓口までを一手に担い、情報の内容と範囲を決定する権限が同氏と大西氏に集中しました。

 その結果、牽制機能が働くどころか、不正確な情報を通過させる経路となってしまいました。

 第3ライン(内部監査)は、社長直轄かつ少人数にとどまり、代表取締役が関与する取引を独立した立場で検証することは構造的に困難で、本件に関する有効な検証は確認されていません。

 ガバナンス機関である監査等委員を含む社外取締役は、利益相反を指摘して議案を一旦取り下げさせ、独自にセカンドオピニオンを取得するなど相応の牽制を発揮しました。

 しかし判断の前提となる情報は第2ラインを経由するため、その情報自体が不正確であったことから、最終的には誤った前提での承認に至りました。

 さらに会計監査人に対しても事実と異なる想定問答が準備され、最も外側の独立した監査機能にまで正確な情報が遮断されていました。

 各ラインを形式的に設置していても、独立性と情報の正確性が担保されなければ、3ラインモデルは絵に描いた餅に終わるという教訓を鮮明に示しています。

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