【ダイワ通信】上場後も続いた私的流用

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第三者委員会等調査報告書の要約

 ダイワ通信株式会社は、子会社における売上過大計上と簿外在庫の疑義に関する第三者委員会の調査報告書を受領後、会計監査人による追加監査手続の過程で、関連当事者取引が過年度の有価証券報告書に適切に注記されていなかったこと等の疑義が判明しました。

 これを受けて2025年6月2日、事実関係の調査と根本原因の究明、再発防止のため、新たな委員会が設置されました。

 この記事では、ダイワ通信株式会社が公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不適切な関連当事者取引の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細はダイワ通信株式会社特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

  • 資本金:100百万円(2025年3月末)
  • 連結売上高:5,241百万円(2025年3月期)
  • 連結従業員数:116名(2025年3月末)
  • グループ構成:完全子会社2社(ディーズセキュリティ株式会社及びアクト通信株式会社)
  • 事業内容:防犯カメラの企画販売等を取り扱うセキュリティ事業、及びソフトバンク株式会社との代理店契約に基づく携帯電話等の通信サービス契約取次、携帯電話端末等の販売を行うモバイル事業
コーポレートガバナンス体制
  • 取締役会:岩本社長ほか業務執行取締役3名(隈田氏、前田氏及び多賀氏)という構成で発足し、その後、米沢社外取締役が2020年6月に、木村社外取締役が2021年6月に加わった。原則として月1回定例開催。
  • 監査役会:常勤監査役1名のほか、非常勤の社外監査役2名(宮川氏、武部氏)で構成されており、原則として月1回定例開催
  • 経営諮問委員会:米沢社外取締役を議長に、委員3名(米沢氏のほか、岩本社長、木村氏)で構成されており、年1回定例開催
  • 執行委員会:岩本社長を議長に、取締役4名、執行役員で構成され、月1回定例開催
  • リスク・コンプライアンス委員会:隈田氏を委員長に、グループ会社各部門長で構成されており、規程上は四半期1回開催だが、メンバーが執行役員会メンバーと同じであり、実態として執行役員会の中で協議を実施

関連当事者取引の注記不記載等の疑義が指摘された4案件

事案の概要

 ダイワ通信の岩本社長が所有する土地及びIWA(岩本社長の資産管理会社)が所有する分譲マンション3室について、不動産会社X社を介してダイワ通信との間で賃貸借契約を締結されていました。

 しかしこれらが関連当事者取引に該当するにもかかわらず、過年度の有価証券報告書に注記されていないのではないかとの疑義が持ち上がりました。

 調査の結果、岩本社長及びIWAが、X社(2020年1月まではY社)を介してダイワ通信と不動産賃貸借契約を締結し、ダイワ通信から賃料名目で毎月定期定額の金銭を受領していたことが判明しました。

 Y社やX社はごく一部の資金を受領していたに過ぎず、実質的には岩本社長又はIWAとダイワ通信の間の賃貸借契約に、形式的にこれらの会社を介在させたものでした。

 これらの取引はいずれも会社法上の利益相反取引に該当するとともに、関連当事者取引にも該当するものでしたが、ダイワ通信では取締役会による利益相反取引の承認決議を経ていませんでした。

IWAについて

 IWAは2016年3月に新設分割により不動産事業を除く全ての事業を新設したダイワ通信に承継させ、その後は岩本社長の資産管理を主たる事業とする資産管理会社となりました。役員は代表取締役である岩本社長及び取締役S氏で、株主は岩本社長と岩本社長の息子3名です。

 岩本社長が保有するIWAの株式は拒否権付種類株式であり、後に息子3名の株式は無議決権種類株式とされ、株主総会において議決権を有するのは岩本社長だけとなりました。これらの事情から、IWAは岩本社長に実質的に支配され、岩本社長個人と同一視できると認められます。

各物件の取引詳細

土地a

 石川県内の住宅街にある更地で、2008年に岩本社長に所有権移転されました。2018年1月1日、岩本社長はY社との間で月額18万8100円で賃貸する契約を締結し、同日ダイワ通信を代表してY社から月額19万8000円で賃借する契約を締結しました。

 2020年2月1日、管理会社をX社に変更し、岩本社長はX社との間で月額19万806円(後に19万2984円に変更)で賃貸する契約を、ダイワ通信を代表してX社から月額19万8000円で賃借する契約を締結しました。

 ダイワ通信による使用実態は、セキュリティ事業の従業員が防犯カメラ設置工事の廃材や高所作業車の仮置き場として使用することがありましたが、過去に数回程度で、使用面積も全体の5分の1程度でした。毎月20万円弱の賃料を支払う必要性、合理性については疑問があります。

マンションb

 金沢市内の分譲マンションで、2017年1月にIWA(当時ディーズカンパニー)の所有となりました。岩本社長が2020年6月頃までマンションcに転居するまで居所として使用し、その後は関係者が居住しています。

 2018年1月1日、IWAを代表してY社との間で月額23万7500円で賃貸する契約を、ダイワ通信を代表してY社から月額25万円で賃借する契約を締結しました。

 2020年2月1日、X社に変更し、IWAを代表してX社との間で月額33万8450円(後に34万2300円に変更)で賃貸する契約を、ダイワ通信を代表してX社から月額35万円で賃借する契約を締結しました。

マンションc

 金沢市内の分譲マンションで、2020年6月5日にIWAの所有となりました。2020年6月以降、岩本社長が金沢市滞在中の居住として使用しています。

 2020年6月5日、IWAを代表してX社に月額48万9000円で賃貸する契約を、ダイワ通信を代表してX社から月額50万円で賃借する契約を締結しました。

 重要な点として、多賀氏(ダイワ通信取締役管理部長)は2020年9月、マンションcのデベロッパーに対し、インテリア費用の請求書の宛先をダイワ通信に変更し、摘要欄を空欄にするよう依頼していました。

 これにより、本来ダイワ通信で負担できない岩本社長居住用のインテリア費用をダイワ通信で支払うようにしたことが明らかです。

マンションd

 東京都内の分譲マンションで、2024年9月27日にIWAの所有となりました。岩本社長の東京滞在時の住居を目的としています。

 2024年10月1日、IWAを代表してX社に月額231万円で賃貸する契約を、ダイワ通信を代表してX社から月額233万6000円で賃借する契約を締結しました。

 契約締結時、U氏(岩本社長の親族でダイワ通信職員)は社内の稟議申請のフローを理解していなかったため、必要な手続を経ずに契約を進行させ、後日事後稟議により承認されました。

法的評価

利益相反取引該当性

 この各取引は、いずれも岩本社長ないしIWAが所有する不動産であり、ダイワ通信が支払う転借料のほぼ全額がIWA又は岩本社長個人の収入となる構造で、会社と取締役である岩本社長との利益が相反する取引です。

 形式的にはY社又はX社が介在していますが、実態は岩本社長とダイワ通信との賃貸借取引であり、会社法上の利益相反取引に該当することは明らかです。

 2018年1月1日時点の取引については、当時の株主が岩本社長及びIWAのみであったため、全株主の同意があったものと認められ、利益相反取引規制に違反しません。

 しかし、2020年2月1日以降の取引については、他の株主も存在する中で取締役会の承認なく契約が締結されており、利益相反取引規制に違反し無効です。

関連当事者取引該当性

 岩本社長はダイワ通信の代表取締役社長であり、総株主の議決権の10%以上を保有する主要株主であることから関連当事者に該当します。IWAも岩本社長が議決権の過半数を所有する会社として関連当事者に該当します。

 この4取引は実質的にダイワ通信と関連当事者である岩本社長又はIWAとの取引であり、関連当事者取引に該当します。

 これらは重要な取引として有価証券報告書の連結財務諸表に注記する必要がありましたが、注記されていませんでした。この注記不記載は金融商品取引法に違反します。

法令上の規制が効かなかった経緯

岩本社長の対応

 岩本社長は関連当事者取引等質問回答書にこの取引を記載せず、取締役会でも詳細を説明した証跡はありませんでした。全体像を最もよく知る立場でありながら、分かりにくい契約形態を採用し、適切な報告を行いませんでした。

多賀氏の対応

 多賀氏は2022年3月に認識したと供述していますが、客観的証拠と矛盾しています。

 2017年11月に土地aのサブリース契約書案についてアドバイスし、2018年10月にはY社への「サブリース2件分」の支払いに関する報告を受け、2020年9月にはマンションcのインテリア費用請求書の宛先変更を依頼するなど、遅くとも上場準備段階では全体像を認識していたと推認されます。

 しかし多賀氏は取締役会の承認決議を求めず、監査役会や主幹事証券会社、監査法人にも報告しませんでした。「IWAは法人なので個人の重要性基準が適用されない」と弁解していますが、会計基準では岩本社長の資産管理会社は岩本社長個人と同視すべきであり、誤った解釈でした。

その他の役員等

 前田氏(ダイワ通信常務取締役)は2018年1月の取引開始時から概要を知っていたと述べています。隈田氏(ダイワ通信専務取締役)は一切知らなかったと述べており、疑いを差し挟む証拠はありませんでした。

 監査役会はこの取引を認識しておらず、関連当事者取引について重点監査をした形跡もありませんでした。

 内部監査のM氏は土地a、マンションb、cについて認識していませんでした。マンションdについては2024年11月に問題を認識したものの、日常業務に追われていたことや、オーナー社長の意向に沿わない行動をしにくいという忖度の意識から放置してしまったと述べています。

件外調査

同種取引の調査

 関連当事者が所有する不動産を第三者経由で賃貸借する取引や、その他のスキームによる迂回取引の有無を調査しました。

 具体的には、地代家賃や駐車場費用の会計帳簿を確認し、主要な関連当事者の全銀行口座情報や税務申告書を検証しました。その結果、第三者を迂回した関連当事者取引は見当たりませんでした。

 しかし、この調査過程で、ダイワ通信グループの従業員ではないS氏(岩本社長の親族)へディーズセキュリティから給与名目の支払いがあること、従業員であるT氏(岩本社長の親族)に他の従業員と比較して著しく高額な賞与が支払われていることが判明しました。

岩本社長による会社経費の使用等

会社経費の使用

 岩本社長の立替経費と法人カード使用について調査したところ、重大な問題が発見されました。

 岩本社長は経費使用申請を行わず、2~3ヶ月に1度領収書を管理部長に渡すだけでした。管理部長の多賀氏は利用目的や必要性を確認せず、金額に基づいて機械的に勘定科目を割り当てていました。

 これらは全て内部統制から逸脱したものであり、デジタル・フォレンジック調査の結果、明らかに私的利用と分かる経費が検出され、修正が必要と認定されました。

岩本家メンバーへの会社財産の流出

S氏への給与支払と社用車利用

 2018年7月よりS氏へ給与が支払われていましたが、雇用契約は存在せず、定期定額の給与を支払うにふさわしい労働実態も認められませんでした。また、ダイワ通信の社用車1台がS氏に利用されていることも判明しました。

T氏への追加賞与等の支給

 岩本社長はT氏に対し、2020年7月以降、通常の賞与とは別に追加賞与や給与を独断で支給していました。また、2023年9月以降は車両関連手当として毎月3万円を支給していましたが、支給根拠となる規程は存在しませんでした。

 これらは全て内部統制の無効化により行われたものであり、適切な会計処理ではないと判断されました。

その他の調査

 他の役員の経費使用状況も調査しましたが、私的利用は検出されませんでした。

 ただし、ディーズセキュリティの役員K氏が岩本社長の指示によりディーズセキュリティの法人カードで、マンションに設置するテレビや洗濯機等を購入し、ディーズセキュリティの経費として計上していたことが判明しました。

原因分析

上場企業としての責任意識の欠如

社長による公私混同

 上場会社では、会社の財産と個人の財産を明確に区別しなければなりません。しかし、岩本社長は自身や家族が居住する物件の賃料をダイワ通信に負担させる取引を継続していました。

 岩本社長自身も「約30年間にわたり非上場のオーナー会社の社長として過ごし、上場会社になって以降も習慣を治せていなかった」と反省しています。

 また、岩本社長の個人的な出費が会社の各種経費として不正に処理されていました。他の役職員もオーナー社長の意向を忖度して異議を唱えず、社長案件を聖域化していました。

隠ぺい体質

 上場会社となった以上、ステークホルダーに対して全ての取引や事象を開示する覚悟が必要です。しかし、ダイワ通信は主幹事証券会社や監査法人に対し、問題のある取引を主体的に説明せず、管理部長の多賀氏が事実に反する回答をすることで問題を隠ぺいしました。

 一部の取締役は「監査法人が適正にチェックしていれば今回のようなことにはならなかった」という趣旨の発言をしていましたが、開示情報の正確性に責任を持つべき主体は会社です。

 ダイワ通信は、自ら主体的に取引の全体像を説明すべきでしたが、それを怠り、チェック機関への他責の発想を示していました。

ガバナンス機能の喪失

取締役会の機能不全

 問題の4取引は、いずれも会社法上の利益相反取引に該当します。岩本社長、多賀氏、前田氏は取引の全体像を知っていましたが、管理部長である多賀氏から他の取締役へ情報共有されることはありませんでした。

 その結果、取締役会で利益相反取引の決議を経ることなく、ガバナンス機能を発揮する機会が失われました。

 社外役員は「上場するということは公器になるということだ」と発言していましたが、岩本社長ら取締役はその意味を理解し実践していませんでした。

管理部門の問題

 管理部長の多賀氏は岩本社長に対してのブレーキ役にならず、社長案件については岩本社長の意向に沿った会計処理をするだけの事務屋となっていました。多賀氏は公認会計士でもありましたが、専門家としての職業倫理を遵守していたとは評価し難い状況です。

 多賀氏は、上場準備段階で岩本社長に進言したもののたしなめられたと述べていますが、他の取締役や監査役会と情報共有すべきでした。多賀氏が自己で背負い込んだことで、全社的なガバナンス機能が失われました。

監査役会の監査不全

 監査役会はこれら4取引について認識しておらず、議論されることもありませんでした。

 非上場の時代が長かった後に上場したオーナー社長の会社として、社長案件の不正リスクを想定し、関連当事者取引を重点監査項目にすることも考えられましたが、そのような対応は取られませんでした。

社長案件に対する内部統制システムの欠陥

 内部統制で最も重要なのは「統制環境」であり、経営トップの誠実性・倫理観によって決まります。しかし、ダイワ通信では岩本社長自身が内部統制の枠組みから外れており、社長案件に対する統制環境整備ができないまま上場してしまいました。

 契約書締結に関する決裁フローや事前稟議が徹底されておらず、関連当事者リストも上場後は作成されていませんでした。2021年3月以降、各種規程の改訂は行われず、規程の見直しも不十分でした。

 内部監査を担当していたM氏は、他の業務に追われ、オーナー社長に対する遠慮もあって意見を言えませんでした。岩本社長の立替経費等は内部監査の対象にもされず、有効な監査が行われていませんでした。

 このように、疑義の対象となった取引や社長の経費に関する情報は、一部の役職員だけにとどまって隠され、モニタリングも機能していませんでした。

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