【コレックホールディングス】子会社の助成金代行申請が不正化

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第三者委員会等調査報告書の要約

 2025年8月、株式会社コレックホールディングスの子会社である株式会社Aoieにおいて、助成金代行申請業務の申請先から顧客との間で金額欄の記載のみが異なる契約書が2通存在することが伝えられ、助成金申請に関する不正行為が発覚しました。

 これを受けて、コレックホールディングスは外部専門家による特別調査委員会を設置し、事実関係の調査および原因分析を実施しました。

 この記事では、コレックホールディングスが公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社コレックホールディングス特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

株式会社コレックホールディングス(以下「コレックHD」)

  • 資本金:52,230千円
  • 売上高:3,938,768千円(連結)
  • 従業員数:92名
コーポレートガバナンス体制:
  • 取締役会:取締役8名(うち社外取締役は2名)で構成、原則として毎月1回の頻度で開催
  • 監査役会:常勤監査役1名、非常勤監査役2名の合計3名(うち3名全員が社外監査役)で構成、毎月1回程度の頻度で開催
  • コンプライアンス・リスクマネジメント委員会:取締役5名(A氏、C氏、D氏、E氏およびB氏)、常勤監査役1名(I氏)、内部監査室長(L氏)等のメンバーで構成、少なくとも四半期に一度、全社的なコンプライアンス管理およびリスク管理に関わる課題および対応策を協議
  • 投資委員会:取締役4名(A氏、F氏、C氏およびB氏)で構成、M&Aに関する各種調査結果の精査、買収価格の妥当性検証等

株式会社Aoie

  • 資本金:9,990千円
  • 従業員数:72名(令和7年6月時点)
  • 事業内容:太陽光関連商材の販売・設置
  • 会議体:令和7年2月27日の臨時株主総会の決議以前は取締役会設置会社であり、監査役が置かれていたが、事業の執行のスピードを向上させる目的で取締役会非設置会社へ移行

株式会社C-clamp

  • 資本金:10,000千円
  • 従業員数:43名(令和7年6月時点)
  • 事業内容:家庭用太陽光発電システムの販売、コスト削減のコンサルティングサービス、事業者に係る営業・販売促進業務のアウトソーシング受託事業、太陽光発電・その他関連商材の販売、BPO事業
  • 取締役:代表取締役社長O氏(コレックHDおよびC-clampの元執行役員)および取締役D氏(コレックHD取締役)

助成金制度の概要

クール・ネット東京が助成金を交付する制度

 東京都はクール・ネット東京を通じて「ゼロエミッション東京」の実現に向け、中小企業等の省エネ設備導入や運用改善に助成金を交付しています。

 助成対象経費や算定方法は事業内容により異なり、例えば蓄電池導入事業では、発電出力や助成率に基づいて算出された金額のうち小さい方が採用されます。

 虚偽申請などの不正が発覚した場合、助成金の交付決定取り消しや返還請求が行われます。

子育てエコホーム支援事業

 子育てエコホーム支援事業は、エネルギー価格高騰の影響を受けやすい子育て世帯・若者夫婦世帯による省エネ性能の高い新築住宅取得や省エネ改修を支援し、2050年カーボンニュートラル実現を目指す事業です。

 交付決定条件に違反した場合、事務局は助成金交付を取り消し、全部または一部の返還を命じることができ、事業者は速やかに返還する必要があります。

AoieおよびC-clampで行われていた助成金交付申請代行業務

 国や都道府県、市区町村等が実施している各助成金制度においては、工事施工業者等に手続きの代行を依頼することができます。

 AoieおよびC-clampにおいては、太陽光発電設備および蓄電池の販売等の業務を行っており、並行して顧客から助成金申請代行の依頼を受け、その申請を代行していました。

調査結果

クール・ネット東京の助成金に係る行為

Aoie

総額不一致の類型

 Aoieは225件の案件で、顧客との契約金額と助成金申請書の金額が異なっていました。

 値引きやキャッシュバックを申請書に反映せず、また契約金額を増額して申請書を作成するなど、複数の方法で助成対象経費を水増ししていました。

 クール・ネット東京の助成金は、太陽光発電やバッテリー、V2H等の設備ごとに異なる計算方法で支給されますが、Aoieは顧客に事前に案内した満額の助成金を得させるため、助成対象経費を増額した申請書を作成していました。

 顧客が実際に負担する経費ではなく、値引き前の金額を前提に契約書を作成し、架空の経費を計上する手法も使用されました。Aoieの行為は、顧客の実際の負担額に基づいて申請する必要があるという制度の根本に反するもので、クール・ネット東京が禁止する不正行為と認定されました。

総額一致・内訳調整の類型

 Aoieは197件の案件で、契約書の内訳を調整して助成金を増大させていました。

 内訳記載類型では、顧客との原契約と異なる内訳の申請書を作成し、助成率が高い設備から低い設備へ費用を付け替えていました。太陽光発電設備の費用は他の設備に転用されることがほとんどでした。

 内訳不記載類型では、原契約には総額のみ記載し、申請時に初めて内訳を決定していました。顧客に交付した見積書と申請書の内訳は異なり、申請書の方が高い助成金を受給できるように設定されていました。

 要綱では、各機器の購入費と工事費を異なる基準で判定するため、内訳が確定していることが必要です。

 両類型とも、顧客との実際の契約とは別に、助成金を最大化するよう内訳を調整した契約書を作成・申請する行為であり、制度に反する不正と認定されました。

助成金の併給事実

 Aoieでは、クール・ネット東京と国または他の地方公共団体からの助成金合計額が、太陽光設備および蓄電池の購入額を上回る事例が69件確認されました。

 助成金の手引きでは、他の補助金を受給した場合は助成対象経費から除外し、併給の事実を隠蔽した申請は不正として明示的に禁止されています。

 しかしAoieでは市区町村への申請を顧客自身が行うケースも多く、併給の事実を認識できない場合、隠蔽したとは認められません。

 そのため明示的に禁止された不正行為には該当しないものの、結果として制度の予定範囲を超えて助成金交付を受けていることは明らかであり、本調査で発覚した行為として記載されました。

C-clamp

 総額不一致の類型では、キャッシュバックを実施したにもかかわらず申請用契約書に反映せず助成金を増大させた事例が8件確認されました。

 顧客が実際に負担する経費を前提に申請すべきところ、キャッシュバックを反映しない契約書を用いて負担しない費用も助成対象経費に含めたため、クール・ネット東京が明示的に禁止する不正行為と認定されました。

 その他の事例では、C-clampにおいて原契約書に内訳がなく申請時に見積書を添付したケースが確認されました。内訳が助成金最大化目的で補充された場合は不正の疑いがありますが、ヒアリングでは商社設定の金額等、助成金と無関係の規則に従ったものでした。

 信販会社提出用見積書との比較でも申請用内訳が助成金を最大化する意図は認められず、手続き上の過誤として不正とは認定されませんでした。

子育てエコホーム支援事業の助成金に係る行為

 令和6年度の子育てエコホーム支援事業では、令和5年11月2日以降着工の工事のみが助成対象です。

 Aoieが実施した申請代行業務124件のうち、顧客管理システム上、令和5年9月3日に完了した工事が1件存在しました。着工日は完了日より前のため、令和5年11月2日以前に着工されたことは明らかで、本来助成要件を満たしません。

 ヒアリングでは、令和5年度の申請が締切後となったため次年度制度として処理したとのことでした。本来要件を満たさないにもかかわらず、意図的に完工日を偽造して要件充足を装い助成金交付を受けたものとして不正と認定されました。

不正の契機

 調査では、不正がいつ誰の発案で始まったか特定できませんでした。しかし、太陽光発電ビジネスの激しい競争環境のため、顧客の実質負担額を低く設定する必要があり、Aoieは顧客が助成金をより多く受給できるよう不正を継続したと認められます。

 一括見積サイトを利用する顧客は価格の低さで業者を選ぶため、競争力を保つには実質負担額の低減が必須でした。C-clampでも同様に、顧客獲得のためキャッシュバックが活用されました。

 Aoieで使用されていた見積書フォーマットは常に最大額の助成金を提示するため、顧客への案内額と実際の受取額に差が生じ、その差を埋めるため申請時に契約書を改ざんしました。

 令和4年7月にはこれが不正と認識されていたにもかかわらず継続された点から、単なるシステム不備ではないと判断されます。

不正に関する各人の認識

 各役員の不正認識について以下のとおり認められました。

 AoieのE氏は令和7年4月下旬、顧客クレーム対応を通じて金額の異なる複数の契約書が作成されていることを認識しました。

 N氏は令和4年7月頃、助成金申請代行業務開始時から不正を認識していました。キャッシュバック名目で実際には値引き処理されているケースについても認識していました。

 D氏は令和7年5月7日に詳細調査を通じて認識し、F氏も同日にE氏の報告で認識しました。

 C-clampの役員は調査開始前に不正を認識していません。

 コレックHDの役員のうちE氏以外は令和7年5月7日にAoieの不正を認識しましたが、C-clampの不正については認識していません。

原因分析

コレックHDにおける問題点

子会社監督機能および子会社に対するコンプライアンス・リスクマネジメントの不足

 コレックHDの子会社管理規程では、子会社は重要なコンプライアンス違反やリスク事項を取締役会に報告することになっていますが、実際の報告は業績中心でした。

 令和7年4月の取締役会で、監査役が助成金申請業務フローの見直しを内部統制の問題として指摘しましたが、具体的対応策は示されず、実際の改善はクール・ネット東京の不正指摘後でした。

 コンプライアンス・リスクマネジメント委員会は設置されていますが、議事録では労働時間実績や個別事案への対処療法的対応が中心で、業務実態に照らした真因分析や制度面の根本的改善策の議論には至っていませんでした。

 取締役会での子会社業務の理解・把握、指導・モニタリング、および委員会での高度な分析と再発防止策検討が十分機能していれば本件不正を早期発見・是正できた可能性があります。

子会社の経営管理に関する制度的な枠組みの不在

 コレックHDの子会社管理規程は抽象的な基本方針に留まり、報告事項も「月次業績」と「重要なコンプライアンス違反・リスク事項」のみで、各子会社の業態の違いやリスクの濃淡が意識されていませんでした。

 実際の取締役会では業績報告が中心で、実効性ある管理は行われていませんでした。

 また、M&Aで買収したAoieは月次の経営会議への出席も求められていませんでした。形式上の制度は存在するものの内容・運用が不十分で、これが不正継続の原因の一つと考えられます。

役員のコンプライアンスに対する教育の不足および意識の低さ

 コレックHDとC-clampでは月次コンプライアンス研修が、Aoieでは危機管理講習が実施されていましたが、内容は勤怠や業務マナー等、現場従業員向けが中心で、役員向けのガバナンスやリスク管理教育は行われていませんでした。

 子会社監督機能やコンプライアンス体制は不十分で、経営陣の意識が欠如したと思われます。

内部監査部門の機能不足

 コレックHDの内部監査室が子会社監査を担当していましたが、実際は年2回、勤怠管理等の定型的項目をチェックリストで確認するのみでした。

 Aoie買収後1年間、助成金申請プロセスの問題点を誰も指摘しておらず、実効性ある監査は果たせていませんでした。各子会社の業態に応じた監査計画があれば早期発見できた可能性があります。

内部通報制度の周知不足

 コレックHDグループには社内外窓口を持つ内部通報制度が存在しますが、通報実績は令和4年度1件、令和5年度3件、令和6年度1件と従業員数に比して少なく、周知不足でした。

 不正は現場担当者が早期に認識していた可能性があり、制度が実効的に機能していれば役員への早期報告により問題是正できた可能性があります。

買収対象選定にあたってのリスク分析の不十分さ

 コレックHDは主要事業喪失後、新事業の柱を探索し、仲介業者を通じてAoieと接点を持ち、子会社C-clampの太陽光事業にAoieのweb集客ノウハウを活かせると考え買収しました。

 しかしC-clampは助成金が手薄な東京都外で訪問販売を、Aoieは助成金豊富な東京都でweb集客を実施しており、助成金制度・競争環境・集客手法に相違がありました。

 この差異に着目したリスク分析を実施していれば不正を認識できた可能性があります。

M&Aプロセスの未熟さ

 コレックHDの経営陣は、子会社C-clampが助成金を積極活用していなかったため、助成金申請での不正リスクの具体的認識を持たない者が大半でした。

 Aoieのデュー・ディリジェンスで助成金申請代行業務を確認したものの、適切性確認や取締役会での議論を行わず、買収検討過程で不正を感知できませんでした。

 既存子会社と異なる事業を展開する会社を買収する際、十分な情報収集と慎重な検討をしていれば不正に気付けた可能性があります。

PMIの経験値不足

 コレックHDはAoieのデュー・ディリジェンスで管理体制の不十分さを把握し、買収後代表取締役を交代させましたが、PMI経験値が不足しており、管理体制の甘さを抜本的に改善できませんでした。

 十分なPMI経験値があれば早期に組織改革やチェック体制整備により不正を是正できた可能性があります。

Aoieにおける問題点

コンプライアンスに対する意識の低さ

 調査では不正がAoieで開始された経緯は認定できませんでしたが、役職員が不正を認識する契機があったにもかかわらず一定期間継続しました。

 Aoie関係者は令和6年度以前は要綱にキャッシュバック除外の明記がなく、競合他社も実施していたため明確に不正と認識していなかったと供述しています。

 しかし助成金制度の趣旨を理解し常識的に判断すれば、顧客が実際に負担しない部分が対象外と認識できたはずで、安易に問題ないと判断すること自体がコンプライアンス意識を著しく欠いていたと思われます。

部門ごとの分業体制

 Aoieでは営業部、CSチーム、施工チーム、経理部等が業務を分断し、部門間を横断する体制がなく、前後工程への意識もありませんでした。その結果、自身の業務の位置づけを理解せず、不正への関与を認識しにくい環境でした。

 部署間で業務内容を相互認識し作業の意味を理解していれば、異なる契約書作成の理由に疑問を持ち経営陣へエスカレーションできたといえ、分業体制と認識欠如が不正継続の原因の一つと考えられます。

助成金申請に関するチェック機能の欠如

 Aoieでは助成金申請業務の担当者が少数に限定され、不明点は上長に確認していましたが、担当者以外による常時チェック体制は存在しませんでした。他の役職員によるチェック体制があれば不正を認識し是正できた可能性があります。

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