アライドアーキテクツ株式会社は、2024年5月、クロスボーダーカンパニー(クロスボーダー事業部及びオセロ事業部から成る、中国・香港・台湾向けインバウンド、越境ECプロモーション支援事業を行うカンパニー)の売掛金入金遅延を発見し、調査を開始しました。
同年11月、カンパニー責任者A氏が売上前倒計上等を自供し、不適切な会計処理が判明しました。社内調査後、監査等委員を中心とした従前調査を実施し、売上計上の不適切な点が確認されました。
12月24日、客観性確保のため外部専門家による調査委員会が設置され、売上原価付替、架空取引、連結相殺消去漏れ等の新たな問題が発覚し、2025年1月31日に調査範囲を拡大し、委員も増員されました。
この記事では、アライドアーキテクツが公表した調査委員会の調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細はアライドアーキテクツ株式会社調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:886百万円(2023年12月31日現在)
- 売上高:連結4,144百万円(2023年12月期)
- 従業員数:連結194名(2023年12月31日現在)
- 事業内容:マーケティングDX支援事業
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:取締役6名(監査等委員3名含む)で構成され、毎月1回定時開催
- 監査等委員会:常勤1名(社外取締役)と非常勤2名(いずれも社外取締役)で構成され、毎月1回開催
- 指名報酬委員会:議長は常勤監査等委員とし、代表取締役、非常勤監査等委員2名で構成
調査によって確認された各事案
クロスボーダーカンパニー長であるA氏の関与による不適切な会計処理が行われていた事案は以下のとおりです。
- 売上の前倒計上事案
- 原価の販管費計上事案
- 原価の後倒計上事案
- 架空クロス取引事案
- 売上の架空計上事案
- 連結相殺消去漏れ利用事案
各事案の経緯と実行方法
売上の前倒計上事案
事案に至る経緯
2020年7月、クロスボーダー事業部はクロスボーダーカンパニーとして独立し、A氏がカンパニー長に就任しました。
新型コロナの流行によりインバウンド需要が減少し始め、A氏はこの事態を踏まえた2020年度第3四半期の売上粗利の修正社内予算を報告しました。
A氏は、この予算を達成するためには、既存の受注見込条件だけでは足りず、新規受注条件の獲得が必要不可欠であると考え、新規営業又は越境EC を活用した商材の新規受注を見込みました。
しかし、新規受注獲得が進まず、A氏は予算達成が極めて困難であると思い、売上の前倒計上を実行するに至りました。
実行方法
A氏は以下3つの方法で売上の前倒計上を実行していました。
① 顧客から発注を受けた後、商材納品又は役務提供の完了前に顧客に対して検収承認を要請し、顧客からの検収承認を取得する方法です。
② 受注・検収・請求・支払を管理するシステムの案件作成に際し登録した架空のメールアドレス(ダミーアドレス)を使用する方法です。
A氏はCCに自身のメールアドレスを入力し、自らに送信された検収依頼メールの納品確認ボタンを押下することで、顧客からの検収承認を取得したかのような外観を作り出していました。
③ 発注書の顧客押印欄の印影を偽造して顧客からの発注を偽装し、ダミーアドレスを使用して顧客からの検収承認を取得したかのような外観を作り出す方法です。
原価の販管費計上事案
事案に至る経緯
A氏は、前述のように、売上粗利の最低ライン予算達成のため、売上を前倒計上していましたが、当初は原価の発生しない主力商材案件を中心に売上の前倒計上を実施していました。
しかし、それだけでは売上粗利の最低ライン予算を達成できなくなり、原価が発生する案件にまで売上の前倒計上の範囲を拡大させました。
そのうち、A氏は、原価を販管費として支払申請することで売上粗利を過大に計上できると考え、原価の販管費計上案件を実施するに至りました。
実行方法
A氏は、某案件の原価である外注費を、特定の案件に紐づかない販管費として受注・検収・請求・支払を管理するシステムに登録して支払申請することで、原価の販管費計上事案を実行していました。
具体的な手法は以下のとおりです。
外注先による納品後、外注先から請求書が案件担当者であるA氏に届き、A氏は販管費の支払申請に際し、エビデンスとして当該請求書を添付
→財務経理部では、販管費の支払申請に当たり、請求書とシステム上の申請内容につき、金額、顧客名、口座名義について確認するものの、何に対する支払かについては精査せず承認
財務経理部では明確なルールが存在していなかったため、販管費の支払申請の段階でも、財務経理部に気付かれることなく原価である外注費を販管費に付け替えることができました。
原価の後倒計上事案
事案に至る経緯
A氏は前述「売上の前倒計上事案」及び「原価の販管費計上事案」の不正を実施したにもかかわらず、2021年度第4四半期の売上粗利の最低ライン予算を達成できない状況に陥りました。そこで、A氏は次年度における継続的施策の一括受注案件についても売上の前倒計上を行いました。
しかし、当該案件の具体的施策が未確定であり、外注費の支払リスクを回避するため、納品・役務提供後に外注費を支払うこととしました。
外注費の支払時期は、既存の売上の前倒計上案件の外注費として支払うことができなかったため、これを隠蔽する必要に迫られました。A氏は検収日が後に到来する別の案件の外注費として支払うことを考えるに至り、原価の後倒計上に及びました。
実行方法
A氏は、A案件外注費を検収日が後に到来するB案件の原価である外注費として登録し、B案件に紐づいた外注費として支払申請をすることで、原価の後倒計上事案を実施していました。
具体的な手法は以下のとおりです。
A案件で外注費が発生した場合、受注・検収・請求・支払を管理するシステムにおいて案件の原価登録を行うかどうかを選択し、外注先から請求書を受領後、当該支払をB案件と紐づけて申請し、エビデンスとして請求書を添付します。
財務経理部では、B案件外注費の支払申請があると、請求書の支払時期やシステムのB案件の検収日等を確認していましたが、当該外注費がB案件に紐づくか否かを確認せず承認していました。
財務経理部では明確なルールが存在していなかったため、支払申請の段階でも財務経理部に気付かれることなく、A案件外注費をB案件外注費に付け替えることができました。
架空クロス取引事案
事案に至る経緯
① 2社間の架空クロス取引事案(スキーム1)
A氏は、遅くとも2014年頃にWEBサイトを通じ外部の関係者であるL氏と知り合い、2022年6月頃、L氏に「●●円万円足りないから、イッテコイでできないか」と相談し、L氏は最終的にその相談に応じました。
アライドアーキテクツが、2022年度第4四半期に先行してX3社に架空の広告宣伝費として支払いを行い、前後してX3社が2023年度第1四半期にアライドアーキテクツに架空の業務委託費を支払うことで、資金を還流させる取引を行いました。
② 4社間での架空クロス取引(スキーム2)
アライドアーキテクツが、2023年度第3四半期から2024年度第4四半期にかけてX5社に架空の業務委託費として支払いを行い、前後してX3社およびX4社が2023年度第3四半期および同年第4四半期にアライドアーキテクツに架空の業務委託費を支払うことで、4社間で資金を還流させる取引を行いました。
これにより、A氏は2023年度の各四半期で売上粗利にかかる最低ライン予算を概ね達成することができました。
実行方法
この事案は、外部の関係者と共謀して行われていました。
まず、共謀先の協力を得て、共謀先と関係があると推察される取引先とは別の正規の顧客に対する架空の原価または販管費の計上をするものです。
これは、一連の行為により、実質的に経済的実体を欠く資金循環を、これら取引先との間で一定期間内に行うものであり、関連性の強いまたは紐づく関係のある取引を行うことを企図し、架空売上および原価または販管費を計上する類型です。
売上の架空計上部分
A氏は外部の関係者と共謀の上、受注・検収・請求・支払を管理するシステムで受注処理を行い、共謀先の協力を得て共謀先から架空取引にかかる発注書を取得し、検収承認を取得する方法で、売上の架空計上を実行していました。
原価または販管費の架空計上部分
A氏は、外部の関係者と共謀の上、上記の架空売上とほぼ同額の金額を、共謀先と関係があると推察される取引先とは別の正規の顧客に対する架空の原価、または特定の案件とは紐づかないクロスボーダーカンパニーにおける架空の広告宣伝費等の販管費としてシステムに登録する方法で、原価または販管費の架空計上を実行していました。
売上の架空計上事案
事案に至る経緯
A氏は2020年~2023年、売上の前倒計上、原価の販管費計上および後倒計上、架空クロス取引などの手口を多様化し複雑化することにより、最低ライン予算の達成を仮装してきました。
しかし、A氏はこれらの手口の継続により、自ずと翌四半期の売上粗利にかかる予算の達成がより一層厳しい状況に追い込まれていました。
そこで、A氏は既存の顧客からの発注を偽装し、実体のない発注にかかる売上の架空計上を実行するに至りました。
2023年4月末から日本への入国者に対する新型コロナにかかる水際対策が緩和され、中国本土からのインバウンド需要が回復すると見込んでいました。
そこで、A氏は最低ライン予算を達成するため、2023年度第3四半期以降において受注可能性があると考え、顧客からの発注を偽装した上で、2023年度第2四半期において売上の架空計上を実行しました。
しかし、その後、福島第一原子力発電所における処理水の海洋放出問題が発生し、上記案件の受注見込みは消失し、一切実体のない取引として架空の売上が計上されました。
実行方法
A氏は顧客からの発注を偽造し、ダミーアドレスを使用して検収承認を取得することで、売上の架空計上を実行していました。
連結相殺消去漏れ利用事案
事案に至る経緯
A氏は、前述のとおりアライドアーキテクツの案件の売上・原価・販管費計上を自ら不適切な処理をすることにより、売上の前倒、架空計上、原価の後倒、販管費計上・架空計上を行っていました。
これらの手口に加えて、A氏は連結子会社であるオセロ社に対する外注費の支払に関する、アライドアーキテクツの未完了案件にかかる外注費の前渡金振替処理および連結会計処理の誤りを利用して、クロスボーダーカンパニーの最低ライン予算の達成を装っていました。
A氏は、C案件の検収完了前から2022年第3四半期末前に、オセロ社に対する外注費の支払申請を行えば、オセロ社における売上計上の前倒しとともに、アライドアーキテクツの原価計上を後倒しすることができ、その結果オセロ社を含むクロスボーダーカンパニー全体の売上粗利をよく見せることができると考えました。
連結相殺消去漏れ利用事案におけるA氏の狙いは、グループ会議で報告される、オセロ社を含むクロスボーダーカンパニー全体の売上粗利をよく見せる点にありました。
この現象は、アライドアーキテクツの振替処理により生じるものであり、本来、財務経理部が各四半期に行う連結相殺処理で解消されることが想定されていました。しかし、財務経理部担当者の誤りにより、これが解消されない事態が生じていました。
A氏は、最低ライン予算達成の手口として、オセロ社の請求書発行業務を担当しているI氏に、あえて案件の検収完了前にアライドアーキテクツの請求書を発行させ、2022年9月中にアライドアーキテクツの検収が完了したかのように装い、この請求における支払申請を行う方法で、連結相殺消去漏れ利用事案を実行しました。
実行方法
A氏は連結子会社であるオセロ社に対する外注費支払いに関し、検収完了前に請求書を発行させて支払申請し、経理財務部長が支払承認していました。
財務経理担当者が連結相殺誤処理を繰り返していた結果、連結財務諸表上の前渡金過剰計上・売上原価過少計上が発生しました。
発生原因の分析
調査委員会は、ほとんどの事案についてA氏が関与した不正会計処理事案であると判断しました。
A氏の関与が明らかでない不適切な会計処理も認められましたが、これらは会計処理の誤謬や知識不足等によるものとみられます。
直接的要因
社内予算達成への心理的重圧と負のスパイラル
これらの不正事案は、クロスボーダーカンパニー長であるA氏が主導し実行したものです。A氏が不正を行った主な要因として、社内予算達成への心理的重圧がありました。
アライドアーキテクツは3つのカンパニー(プロダクト、ソリューション、クロスボーダー)にセグメント設定し、各カンパニーごとに損益管理を行っています。グループ会議では売上高、売上粗利、営業利益のうち、特に売上粗利について重点的に達成度合いが確認されました。
社内予算の達成が困難な場合、各カンパニー長は修正社内予算を設定し、さらに達成困難な場合はC社長と協議のもと最低ライン予算を定め、その達成を確約していました。
2020年3月以降、新型コロナの感染拡大により、インバウンド需要をターゲットにした取引が急激に減少し、クロスボーダーカンパニーの事業は失速し、A氏は困難な状況に置かれました。
不正の機会の存在と手口のエスカレート
クロスボーダーカンパニーはメンバーが少数で、A氏以外の決裁承認権者が存在しませんでした。A氏は受注案件の申請者と承認権者を兼務し、自ら申請・承認できる状態でした。
これにより、A氏は納品完了前でも検収承認を得ることができる状況でした。
A氏は2020年9月の売上前倒計上から手口をエスカレートさせ、2021年度には受注見込案件での前倒計上、2022年にはダミーアドレスの使用、原価の販管費・後倒計上、架空クロス取引、最終的には2023年に売上の架空計上まで発展しました。
これらは最低ライン予算達成への心理的重圧と、不適切な計上を継続することで翌四半期の達成がより困難になる負のスパイラルによるものでした。
A氏のマネジメント能力の不十分性
A氏は古株の社員でしたが、2020年7月のカンパニー長就任まで事業部門の予算全責任を担った経験がありませんでした。上場企業のカンパニーを担うのに必要なマネジメント経験や能力、会計リテラシーが不足していました。
A氏は自分だけが困難な事業部門を任せられているとして、心理的重圧の中で無理な予算設定をせざるを得ず、不適切な計上処理でしか最低ライン予算達成は不可能と考え、自らの行為を正当化していました。
構造的要因
経営陣によるマネジメント上の問題点
C社長は各カンパニー長に運営を委ね、グループ会議での予算進捗管理を主としていました。しかし、A氏にクロスボーダーカンパニーの全権を委ねることのリスクを認識すべきでした。
A氏は直属の上長であるC社長に事業運営上の悩みを共有せず、サポートする管理職も存在しないため、一人で課題を抱えていました。
C社長がA氏に対して適切なコミュニケーションやマネジメントを行っていれば、本事案の発生・拡大を防げた可能性がありました。
また、社内予算に明確なフローや基準が存在せず、予算の修正が常態化していました。C社長は投資家の期待値等から売上粗利の前年対比約20%成長を基準としていましたが、各カンパニーの事業特性や市場環境に応じた合理的な予算設定がなされていませんでした。
業務管理上の問題点
申請者と承認権者の一致による牽制機能の脆弱性
クロスボーダーカンパニーでは、A氏が申請者と承認権者を兼務し、他の人員が関与せずA氏のみで申請・承認できる状態でした。
他のカンパニーでは複数名が決裁フローに関与し牽制機能を有していましたが、クロスボーダーカンパニーでは牽制機能が存在しませんでした。
自律的なリスク管理体制の不備
クロスボーダーカンパニーは21名と小規模で、業務管理を規律する役割を担う人員がA氏以外に存在せず、自律的なリスク管理体制を備えていませんでした。
コンプライアンス意識の希薄さ
A氏による発注書偽造、虚偽検収、架空取引等は上場企業として逸脱してはならない行為でした。
また、監査法人の売掛債権残高確認に際して顧客に正確な情報提供を行わないよう要請するなど、適正な監査を妨げる悪質な行為も行っていました。
管理部門による牽制機能の問題点
管理部門の脆弱性
アライドアーキテクツは2020年4月以降、2024年3月まで管理部門を管掌する取締役・執行役員が不在で、管理部門の管掌状況が不安定でした。事業部門に対する適切な牽制体制が整備されていませんでした。
事業理解度の不足
財務経理部は最終承認において発注エビデンスの確認等は実施していましたが、発注内容の具体的検証は実施していませんでした。
A氏の虚偽回答を受け入れ、例外的な請求書送付ルールに対する統制も不適切でした。
原価および販管費の管理ルールの統制機能の脆弱性
原価・販管費計上の規程が存在し、見積承認時にマネージャー等の承認を経る仕組みがありましたが、A氏は承認権限を悪用し、受注・検収・請求・支払を管理するシステムで原価情報を自由に削除・変更し、原価の販管費への付替や後倒計上を実行しました。
財務経理部は承認後の変更内容確認を行わず、管理統制が脆弱でした。
請求書発行・送付に関する問題点
売上計上後、財務経理部が請求書を発行し取引先に送付するルールがありましたが、A氏は架空・前倒計上の発覚を避けるため、財務経理部に指示して請求書を自ら受け取って保管し、実際の受注があるまで請求せず、未回収時は虚偽回答で凌ぎました。
財務経理部は異例運用を認識しながらも、A氏の指示に従い、統制が不適切でした。
内部監査部門の脆弱性
内部監査の専任担当者がおらず、人員体制が不十分でした。クロスボーダーカンパニーの滞留債権や前渡金の不自然な状況が見て取れていたものの、重要なリスクとして内部監査が行われていませんでした。