株式会社アクアラインは、投資有価証券および暗号資産関連の取引、水まわりサービス支援事業の取引について、外部機関から不適切な会計処理の疑義の指摘を受け、事実関係などの調査等を目的とした特別調査委員会を設置しました。
この記事では、アクアラインが公表した特別調査委員会の調査結果報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は株式会社アクアライン特別調査委員会「調査結果報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
資本金:673,272千円(2024年2月期)
売上高:4,455,476千円(2024年2月期)
従業員数:67名(連結2024年2月29日現在)
事業概要:水まわりサービス支援事業、広告メディア事業
コーポレートガバナンス体制
- 取締役会:独立社外取締役1名を含む3名で構成され、月1回定期開催
- 監査役会:独立社外監査役を含む4名で構成され、月1回定期開催
- 内部統制委員会:代表取締役、社外取締役を除く取締役、執行役員、理事、各部門長で構成され、社外取締役、社外監査役、常勤監査役がオブザーバー参加し、随時開催
- コンプライアンス委員会:代表取締役が指名した委員長およびコンプライアンスオフィサーを中心として設置され、随時開催
不適切な会計処理の疑いがある各事案
アクアラインは、外部機関から以下の各事案につき不適切な会計処理の疑いがある旨の指摘を受けました。
- 事案①:大垣内氏の指示で3加盟店に対し送客数を水増しして請求し、アクアラインの売上高を過大計上していた疑義
- 事案②:水まわり修理サービス事業の3加盟店の銀行口座をアクアラインが管理しており、各社がアクアラインの子会社に該当する疑義
- 事案③:アクアラインと3加盟店との間に不透明な資金移動があり、取引実態と異なる会計処理を行っている疑義
- 事案④:監査法人提出の債務確認書と未提出の確認書の記載内容から、A社の債務残高が320百万円ではなかった疑義
- 事案⑤:A社からの未収金50百万円回収が実態のない循環取引であり、貸倒引当金が適切に計上されていなかった疑義
- 事案⑥:A社から入金された140百万円を預り金処理しているが、実態は大垣内氏からの借入金である疑義
- 事案⑦:F社発行の仮想通貨転換可能社債をA社が引受後、アクアラインが買戻約束し実質保有していた疑義と会計処理疑義
- 事案⑧:アクアラインがG社から取得した仮想通貨に関する会計処理が不適正である疑義
事案①の調査結果
アクアラインとA社、B社、C社の3つの加盟店との取引における会計処理の適正性について調査が実施されました。主にA社との取引における収益認識の問題点と、適正な会計処理への修正が必要な事項が判明しています。
加盟店各社との取引概要
A社との取引
アクアラインは2021年8月17日付でA社と事務管理業務委託契約および加盟店契約を締結しました。特徴的なのは、A社の月次営業利益をゼロ円にするようアクアラインの売上高を決定する仕組みだったことです。
これは2021年の行政処分を受けて、アクアライン従業員の出向先としてA社に協力してもらう見返りとして口頭合意されたものです。
取引価格は、A社の水まわり事業に係る月次試算表を基に、A社の営業損益がゼロ円になるよう調整される構造となっています。この合意は口頭でなされており、書面化されていませんでした。
B社・C社との取引
B社とは2022年6月30日、C社とは2022年11月1日にそれぞれ加盟店契約を締結しています。両社とも、アクアラインから加盟店付与の対価および水まわり修理サービス事業に係る業務提供を受け、取引価格は送客数に送客単価を乗じて算定される仕組みです。
ただし、両契約ともキャンセルの具体的定義やキャンセル数の請求対象範囲について明確な定めがなく、個別の合意により処理されている状況です。
収益認識会計基準の適用
契約の識別と結合
収益認識会計基準において、A社との複数契約(事務管理業務委託契約、加盟店契約、口頭合意等)は、同一の商業的目的を有し相互に関連していることから、単一の契約として結合して処理することが適切と判断されました。
履行義務の識別
アクアラインがA社に提供するサービスは、送客サービス等(顧客紹介、電話受付代行、営業ツール提供等)と事務管理サービス等(経理処理、労務管理、システム運営管理等)に分類されます。
これらのサービスは、単独では顧客が便益を享受できず、特性も実質的に異なることから、別個の財またはサービスとは識別されず、結合したサービスとして単一の履行義務を構成すると判断されました。
取引価格の算定
A社との取引価格は変動対価に該当しますが、月次試算表により適時把握可能であるため、見積りの要素はないとされています。A社の月次営業損益をゼロ円にするよう調整する仕組みが有効であることが確認されました。
収益認識のタイミング
提供サービスが反復的な性質を持ち、顧客が継続的に便益を享受することから、一定期間にわたり履行義務を充足する取引として、月次での収益認識が適切と判断されました。
財務諸表への影響
調査の結果、各四半期における影響額が算定されました。2022年2月期から2024年2月期にかけて、現状の会計処理と適正な処理との間に差異があることが判明し、修正が必要な金額が具体的に示されています。
特に2022年2月期では大きな影響額が発生しており、第1四半期で約62百万円、第2四半期で約703百万円の差異が生じています。
事案②の調査結果
事案②では、アクアラインが3つの加盟店(A社、B社、C社)の銀行口座を管理し、入出金の指示を行っていたことから、実質的に支配しているとの疑義が生じました。
口座管理の状況
アクアラインは各社と事務管理業務委託契約を締結し、銀行口座の管理を行っていました。A社については2021年8月から、B社は2022年7月から、C社は2022年11月から、それぞれ資金移動の手続きをアクアラインに委託する契約が締結されています。
資本関係と株主構成
アクアラインと3つの加盟店の間には資本関係はありません。各社の株主は以下のとおりです。
- A社:代表取締役K氏が議決権100%を保有
- B社:代表取締役M氏(アクアライン元従業員)が議決権100%を保有
- C社:代表取締役N氏(アクアライン元従業員)が議決権100%を保有
取引関係
3つの加盟店はアクアラインの水まわり事業の大口顧客となっています。総売上高に占める割合は以下のように高い比重を占めています。
- 2022年2月期:A社38.4%
- 2023年2月期:A社71.2%、B社18.0%
- 2024年2月期:A社45.2%、B社29.5%、C社19.2%
各社との関係性
A社:2021年の行政処分を受けてアクアラインの従業員雇用を守る目的で加盟店となりました。しかし、資金面・技術面・取引面で特段の関係はなく、実印管理や議決権行使についてもA社が独立して行っています。
B社:元営業部責任者M氏が、行政処分への責任を感じて退職し、大垣内氏の提案により個人ではなく法人として独立したものです。ただし、実印管理や会社経営の意思決定は完全にM氏が行っており、アクアラインからの指示はありません。
C社:元従業員N氏が定年退職後、アクアラインへの恩返しとして加盟店となりました。こちらも実印管理や意思決定は完全にN氏が独立して行っています。
財務諸表への影響
調査の結果、アクアラインの資金繰り改善のため、C社やB社を経由した資金支援が行われていることが判明しました。これらの取引について、実質を反映した会計処理への修正が必要とされています。
具体的には、C社経由で40百万円、B社経由で44百万円の資金移動があり、これらを適切な勘定科目(役員借入金等)で処理することで、より実態を反映した財務諸表とする必要があります。
この修正により、A社に対する未収入金残高が増加するため、貸倒引当金の調整も必要となります。
事案③の調査結果
事案③は、調査対象期間外の2025年2月期第1四半期において発見された不適切な資金移動に関するものです。
発見された資金移動
C社を経由した資金移動
2024年4月26日に「オオコウチタケシ」名義でC社口座に30百万円が振込まれ、同月30日にC社からアクアラインに40百万円が振込まれました。
この取引は、アクアラインの資金不足を補うため、実質的に大垣内氏からアクアラインへの貸付けでしたが、関連当事者取引の認定を避けるためC社を経由させたと推測されます。
B社を経由した資金移動
2024年5月29日にA社からB社に30百万円、同月31日にB社からアクアラインに44百万円が移動しました。これは、以前アクアラインがB社経由でA社に振込んだ30百万円の返金処理という形で、実質的にA社からアクアラインへの資金支援として行われました。
財務諸表への影響
適正な会計処理では、C社経由の取引は役員借入金30百万円として、B社経由の取引は未収入金の適切な区分として処理すべきです。これらの修正により、A社に対する未収入金残高が増加するため、貸倒引当金の調整が必要となります。
事案④の調査結果
事案④では、アクアラインとA社との間の債権債務残高に関する認識の齟齬と、それに関連する不適切な会計処理について調査されました。
事案の経緯
アクアラインは2021年5月の行政処分を受けて同年9月からA社との取引を開始しました。
2023年9月頃まで双方の債権債務残高に明確な齟齬はありませんでしたが、2024年2月期第2四半期レビューの際、監査法人からA社との債権債務残高について齟齬の可能性を指摘され、すり合わせ作業を開始することとなりました。
主要な判明事実
債権債務の構成
アクアラインがA社に対して認識している主要な債権債務は以下のとおりです。
- 売掛金:加盟店支援サービスの対価のうち未収のもの
- 未収入金:出向従業員の人件費や貸出車両維持費等、水まわり事業関連でアクアラインが立替えた経費
- 預り金:アクアラインが代理回収したA社水まわり事業の売掛金のうち未払のもの
- 未払金:A社に外注した作業代金のうち未払のもの
2023年11月末残高の問題
2024年1月12日、アクアラインはA社との間で2023年11月末時点の債務残高約320百万円を確認し「債務確認書」を作成しました。しかし同日、監査法人には提出しない別の「確認書」も作成し、2024年8月末までに清算する旨を記載しました。
この二重の書面作成は、監査法人から「A社から債権債務の確認を得られなければ監査証明は出せない」と言われた際、A社が押印を拒否したため、大垣内氏の指示により形式的に監査証明を得ることを目的として行われたものでした。
2024年2月末残高の問題
2024年4月3日、加藤氏がJ氏(前財務経理部長)に対し「形式上ではございますが押印いただき」とのメッセージを送信していることが判明しました。
これは、依然として債権債務について認識の齟齬があったにもかかわらず、監査法人から監査証明を得るため形式的に残高確認書への押印を依頼したものでした。
個別取引の問題
EPARKの株式手付金関連:
2022年5月27日にA社からアクアラインに50百万円が送金され、同年10月5日にアクアラインからA社への50百万円送金とA社からアクアラインへの50百万円送金が同日に行われました。
これらは株式譲渡契約の手付金処理に関連するもので、適切な会計処理(前受金の増減、売掛金の消込み)が必要でした。
2023年3月23日の送金:
アクアラインからA社に対する50百万円の送金が未収入金として処理されていましたが、関係資料による裏付けがなく、実質的には預り金の支払いとして処理すべきものでした。
類似調査の結果
他の加盟店との間では類似事案は発見されませんでしたが、アクアラインが口座管理を行っているB社・C社について、債権区分の判定方法に課題があることが判明しました。
これらの会社については簡便的な方法(経過時間による区分)を採用していましたが、財政状態を把握可能であるため、より適切な判定方法の検討が必要とされました。
財務諸表への影響
債権債務残高の修正
アクアラインとA社間の債権債務について、実態に即した会計処理への修正が必要となりました。
貸倒引当金の修正
A社に対する債権について、6か月超の債権債務純額の推移を分析した結果、遅くとも2024年第3四半期以降は貸倒懸念債権に区分すべきであったと判断されました。本調査で検出された修正を反映後の6か月超債権債務純額は重要な金額となっており、貸倒引当金の大幅な修正が必要となりました。
事案⑤の調査結果
事案⑤は、アクアラインが資金繰り困難と監査法人への説明を目的として、A社との間で循環取引を行った事案です。
事案の経緯
アクアラインは資金繰りが厳しく、A社の支払能力への監査法人の疑念を払拭する目的で、2024年1月11日頃、A社に50百万円の送金を依頼しました。翌12日、A社がアクアラインに50百万円を送金し、アクアラインは未収入金の消込みとして処理しました。
しかし15日、A社代表のK氏が返金を要求したため、アクアラインは監査法人への説明がつくよう第三者を介在させた返金方法を検討しました。
循環取引の実行
1月17日から18日にかけて、アクアラインは以下の循環取引を実行しました。
B社経由30百万円:
アクアラインがB社への既存債務28百万円の支払いを装い、差額をB社に負担してもらってA社に30百万円を送金させました。
D社経由20百万円:
実態のない差入保証金契約に基づきアクアラインがD社に20百万円を送金し、さらに実態のない金銭消費貸借契約によりD社からA社に同額を送金させました。
財務諸表への影響
これらの取引は全体として実態のない循環取引と認定されました。適正な会計処理では、B社・D社経由の送金を直接A社への未収入金として処理すべきであり、この修正によりA社に対する未収入金残高が増加するため、貸倒引当金の修正も必要となります。
事案⑥の調査結果
事案⑥では、アクアラインが資金繰り悪化に際し、関連当事者取引の開示を回避するため、A社を経由して大垣内氏から資金調達が行われました。
事案の経緯
2023年3月末頃、アクアラインは某社からの資金返済要求により資金繰りが悪化しました。大垣内氏は保有していたアクアライン株式を140百万円規模で売却し、資金調達を図りました。
しかし、直接の貸付けでは関連当事者取引として有価証券報告書等の開示が必要となり、東京証券取引所での確認等に時間を要して資金繰りがさらに悪化する恐れがありました。
偽装取引の実行
そこで第三者を経由した資金提供により関連当事者取引とみられない外観を作出することとしました。
2023年4月19日、大垣内氏からA社口座に140百万円が入金され、次いでA社口座からアクアライン口座に160百万円が入金されました。アクアラインは、この140百万円をA社に対する預り金として会計処理しました。
その後、A社を経由して大垣内氏への返済が行われ、同年9月25日に4百万円、11月9日に20百万円が返済され、2024年2月末時点の借入残高は116百万円となりました。
財務諸表への影響
適正な会計処理では、A社経由の140百万円は実質的に大垣内氏からの借入金として処理すべきです。また、大垣内氏は関連当事者に該当するため、関連当事者取引として開示が必要であり、2024年2月期の連結財務諸表に注記を行う必要があります。
さらに、キャッシュ・フロー計算書においても、投資活動から財務活動への区分変更が必要となります。
事案⑦の調査結果
事案⑦は、アクアラインが暗号資産転換可能社債の取得に関連して行った一連の取引における会計処理の適正性について調査した事案です。
暗号資産転換可能社債取得の経緯
E社との関係とCB発行
アクアラインは2020年代からE社のコンサルティングを受けていました。2021年の行政処分により業績が悪化し資金調達が必要となった際、大垣内氏がE氏に相談し、E社からの資金援助を受けることとなりました。
2022年2月28日、主にE社及びC社が出資する投資ファンドに対して180百万円の転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行しました。
暗号資産転換可能社債の提案
2022年1月頃、E氏からアクアラインに対し200~300百万円の暗号資産転換可能社債の引受け提案がありました。大垣内氏は、金利がつくことでアクアラインにとって利益になる、暗号資産の価値が落ちるリスクはないとの説明を受けました。
しかし、アクアラインに300百万円の原資がないため、E社からの貸付けを原資とする提案を受けましたが、財務局からの問題視、顧問弁護士からの法令上の指摘、監査法人からの指摘等により実現困難と判断されました。
A社による引受け
アクアラインによる引受けが困難となったため、2022年2月頃からA社への引受け打診を行いました。A社のK氏は、アクアラインの保証があり利息がつくとの説明を受け、利益が見込まれると考えて引受けを決定しました。
アクアラインによる取得
第1回暗号資産転換可能社債
当初、EPARK株式の譲渡代金の一部を暗号資産転換可能社債で代物弁済する予定でしたが、最終的に金銭での支払いとなりました。2022年7月29日、A社からアクアラインに100百万円で譲渡する契約を締結しました。
第2回暗号資産転換可能社債
2023年夏頃から、暗号資産価格の下落により、大垣内氏はA社保有の暗号資産転換可能社債の譲受けについて打診を受けました。2024年2月28日、A社からアクアラインに第2回暗号資産転換可能社債100百万円を譲渡する契約を締結し、同日付で譲渡代金をA社の債務に充当することで合意しました。
アセットスワップ合意書の締結
監査法人からの指摘を受け、暗号資産転換可能社債の内容が当初説明と異なることを認識したアクアラインは、E社・F社との協議を行いました。
契約内容の変更ではなく、利息の支払日にスワップ料を支払い、それを利息債務と相殺する仕組みとして、2024年2月29日にF社との間でアセットスワップ合意書を締結しました。
財務諸表への影響
保有区分の問題
アクアラインは第1回暗号資産転換可能社債を満期保有目的債券に分類していましたが、以下の要件を満たしていませんでした。
- 価格変動リスク:転換される暗号資産自体が市場で価格変動しており、実質的に価格変動リスクを負っている
- 発行体の信用リスク:F社は2022年12月時点及び2023年12月時点で債務超過状況にあり、元本償還及び利息支払いに支障を来すおそれがある
したがって、満期保有目的債券ではなく、その他有価証券として分類すべきでした。
時価評価の問題
暗号資産転換可能社債は時価把握が極めて困難な債券として、金融商品会計実務指針に基づく評価が必要でした。発行体F社の財政状態を考慮すると、債券額面から予想される損失を控除した額で評価すべきでした。
A社に対する損失負担
A社が暗号資産転換可能社債を保有している期間中、損失が生じた場合にアクアラインが負担する合意がなされていました。
この状況において、暗号資産市場価格の下落等により損失が生じ得る状況であり、アクアラインへの損失発生可能性は高く、合理的な見積りも可能でした。したがって、適切な名称による引当金計上が必要でした。
会計処理の修正
- 満期保有目的債券からその他有価証券への区分変更
- 時価評価による評価損の計上
- A社保有期間中の損失負担に係る引当金計上
- アセットスワップ合意による追加的な会計処理
事案⑧の調査結果
2022年10月頃、大垣内氏はO氏から暗号資産購入の提案を受けました。O氏は値上がりが期待でき、売買代金の支払期日までに利益で購入代金を賄えるため、アクアラインにとって実質的な金銭の出捐は生じないと説明しました。
また、大垣内氏は以前からCBによる資金援助を受けており、将来の第三者割当による資金調達等への配慮から、暗号資産購入を決定しました。
同年10月25日、アクアラインは取締役会決議を経てO社と100億円のコイン売買契約を締結しました。
財務諸表への影響
アクアラインは2022年9月25日に本暗号資産100億円を計上し、活発な市場が存在しない暗号資産として区分しました。処分見込価額は海外暗号資産取引所2社の市場価格の1年間平均値を使用していましたが、2023年11月期に71億円の暗号資産評価損を計上し、貸借対照表価額は29億円となりました。
結論
本件以外に疑義のある暗号資産の保有は確認されませんでした。暗号資産の市場価格は右肩下がりで推移しており、1年間の平均値を処分見込価額とする会計処理は、直近の市場価格との乖離が生じるため妥当ではないと判断されました。
原因分析
アクアラインは2021年事案の発生後、再発防止策を策定し実施状況を見直しながら再発防止に努めていましたが、それにもかかわらず本事案が再び発生しました。
本事案が再び発生した根本的な原因は、アクアラインの経営状態と資金繰りの悪化にあります。例えば、事案③では資金繰りに困り、経営陣が窮状を切り抜けようと奔走する中で不透明な資金移動を行いました。
また、事案⑦及び⑧では、2021年事案の行政処分による業績悪化で資金が枯渇し、資金援助と引換えに暗号資産転換可能社債や暗号資産を無理に引き受け、その結果不適切な会計処理をせざるを得なくなりました。
経営陣のコンプライアンス意識の希薄さ・会計リテラシーの低さ
大垣内氏のコンプライアンス意識の希薄さ
各事案において大垣内氏が直接的又は間接的に関与しており、基本的なコンプライアンス意識及び適正な会計処理を実施するという意識・姿勢が希薄です。
2021年事案による行政処分を受けて全社的なコンプライアンス体制の構築・運営に尽力すべき立場にあったにもかかわらず、株主をはじめとする利害関係者からの信頼を失墜させた責任は誠に重大です。
取引関係を契約書等の書面で明確化する意識の欠如
アクアラインと相手方との間で契約書が作成されていない取引関係が複数認められました。口頭による合意のみ(事案①)や、口頭による合意すらなく取引関係が形成されているもの(事案③、④、⑤及び⑦)などが散見されます。
これは不利益となる会計処理を避けるため、意図的に契約書等で明確化しないという意図がうかがわれ、基本的なコンプライアンス意識が欠如しています。
適正な会計処理を実施する意識の欠如
アクアラインには「適正な会計処理を実施しなければならない」という意識・姿勢が根本的に欠如しています。事案③では直接送金を回避し他社を経由させることで適切な会計処理を回避し、事案⑤では実態のない循環取引を主導し、事案⑦及び⑧では十分な検証なく不適切な会計処理を行いました。
相互牽制機能の不全
2021年事案後にコンプライアンス体制の構築・強化を謳っていたにもかかわらず、本事案の発生を抑止できませんでした。取引関係が書面で記録されていないため相互牽制機能が発動せず、経営陣の会計リテラシーの低さも相まって適切な意見等をする者がいませんでした。
また、コンプライアンス・法務室への連絡・情報提供がなされず、牽制機能が発動しませんでした。
取引関係の不適切さ
アクアラインと3加盟店との馴れ合い
利益分配やキャンセル数の調整等が書面による合意に基づかない形で継続され、客観的な指標が存在しませんでした。また、アクアラインが加盟店の銀行口座を管理・利用し、資金の往来的送金が可能という特殊な関係性が不透明な資金移動を可能にしました。
A社等との関係性
資金需要に迫られたアクアラインが、資金援助を求める中でE社のO氏から見返りを求めるような提案を受け、不健全・対等でない関係性が背景となって不適切な取引が行われました。
契約締結プロセスの不備
書面による合意がない場合、客観的な指標が存在せず事後的な確認が困難となります。多額かつ重要な合意について客観的な証跡が残されておらず、また決裁権限のない担当者レベルで契約締結がなされるなど、契約締結プロセスに関する体制の不備が認められました。
経理部門・内部監査部門の機能不全
経理部門では暗号資産等の会計処理について十分な知識・経験を有する人材が存在せず、内部監査室は室長1名、コンプライアンス・法務室は2名(他部署兼務)しか在籍していませんでした。
2021年事案調査報告書で管理部門の人員拡充が提言されていたにもかかわらず、十分に履行されていませんでした。
これら部署の人材が十分に確保され適切に機能していれば、本事案を未然に防止できた可能性があります。