【工藤建設】工事原価付替えの常態化

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第三者委員会等調査報告書の要約

 工藤建設株式会社の工事原価を検証する過程で、原価の過少計上や他工事への付替えが判明しました。監査室の調査で、さらに別の工事でも付替えが行われていたことが発覚しました。同社はこれを重く受け止め、事実関係の確認や再発防止策の検討を目的とする社内調査委員会を設置しました。

 この記事では、工藤建設が公表した社内調査委員会の調査報告書に記載されている不正の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は工藤建設株式会社社内調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

  • 資本金:8億6,750万円
  • 従業員数:704名(2024年6月30日現在)
  • 主な事業内容:建設事業(建設・土木工事の設計・施工・監理及び請負、戸建住宅の設計、施工及び請負)、不動産事業(建物の保守点検・管理事業・家賃収納代行、不動産の売買)、介護事業(介護付有料老人ホームの運営)
コーポレートガバナンス体制
  • 取締役会:取締役9名(うち社外取締役2名)で構成され、経営上の重要事項を審議・決定
  • 監査役会:監査役3名(うち社外監査役2名)で構成され、取締役の職務執行を監督
  • 監査室:独立した内部監査機関で、定期監査や特別監査を実施
  • 指名・報酬委員会:社外取締役2名と代表取締役で構成され、取締役の指名や報酬決定の透明性を確保
  • 社外役員諮問会議:社外役員と代表取締役社長が経営課題などについて意見交換する場
  • コンプライアンス・リスク管理委員会:リスク管理を推進し、懲戒案件の処分も審議
  • サステナビリティ推進委員会:ESG課題への取り組みを推進
  • 経営会議・拡大経営会議:取締役会に次ぐ意思決定機関として、経営方針や施策を審議
  • 現況会議:建設事業部内で工事進捗や利益見込みなどを報告する会議

調査により確認された事実関係

不適切行為の概要

 今回の調査で明らかになった不適切行為には、主に3つの問題があります。

 第一に、原価の付替えが行われていたことが判明しました。これは、ある工事の原価を別の工事へ移動させることで、実際のコストを隠し、利益を調整する行為です。

 第二に、キックバックの可能性が浮上しています。特定の取引先に対し不当な支払いが行われ、その一部が社内の関係者に還流されていた疑いがあります。

 第三に、工事の出来高を超える過払いが発生していたことが判明しました。これにより、工藤建設の財務状況に悪影響を及ぼしていたと考えられます。

不適切行為に至るまでの経緯

 問題の発端となったのは、甲案件と呼ばれる工事案件です。当初、この案件はW社からの発注により進められ、Z社が施工を担当する予定でした。しかし、Z社の施工能力や財務状況に問題があったため、工事が遅延し、結果として契約の解約に至りました。

 この間、工藤建設からZ社に対して多額の前渡金が支払われましたが、その使途が不明瞭であり、一部が不正に流用された可能性が指摘されています。

 また、Z社との契約が解消された後、工事を継続するためにY社が代わりに工事を担当することとなりました。しかし、Y社との契約に関しても正式な発注手続きが適切に行われず、原価管理の不透明性が問題となりました。

 これにより、工事の進捗とともに、原価の付替えが行われるようになり、財務諸表に影響を与える結果となりました。

不適切行為の具体的内容

 今回の調査では、不適切な原価付替えが複数の案件で行われていたことが確認されました。具体的には、乙案件および丙案件の工事原価が、甲案件やその他の案件に移動され、会計処理上の不正操作が行われていました。

 特に甲案件に関しては、追加工事が発生することを利用し、実際の工事とは関係のない費用を含めて処理することで、利益を調整する仕組みが取られていました。

 さらに、甲案件ではY社との間で覚書を締結し、実態と異なる取引が行われていたことが判明しました。特に、社内の特定の関係者がY社と交渉し、4億円規模の原価移動を行うことに合意していたことが明らかになりました。

 この結果、工事に関する実際のコストと財務諸表に計上された金額に乖離が生じる事態となりました。

 また、Z社に対しては、工事の実態を超えた過払いが行われており、その一部が社内の関係者に還流された可能性があります。特に、Z社の施工が遅延した後も、一定の支払いが継続されており、これは通常の取引では説明がつかないものでした。

その他の不正案件

 本件の調査に関連して、他の工事案件においても不正な原価付替えが行われていたことが明らかになりました。例えば、丁案件と戊案件の間で原価の付替えが行われていたことが確認され、これにより特定の工事の利益を調整する意図があったと考えられます。

 また、建物管理事業部においても、別の案件の経費を付け替える形で、不正な財務処理が行われていたことが判明しました。

 さらに、従業員や協力会社に対するアンケート調査の結果、新たな不正の疑いが複数発覚しました。O社、P社、R社といった取引先との間で、契約条件にそぐわない不正な支払いが行われていた可能性が指摘されています。

 その上、デジタルフォレンジック調査を通じて、関係者のメールや社内文書から不正処理の指示が行われていた証拠が確認されました。

財務諸表への影響

 今回の不正行為の影響により、過去の財務諸表においても不適切な原価計上が行われていた可能性があります。特に、複数の四半期にわたって原価の付替えや過払いが行われており、その影響額は相当な規模に及ぶと考えられます。このため、当社は過去の財務報告の修正を検討し、関係当局への報告を進めています。

内部統制上の問題点

(1)受注プロセスの問題点
購買先の信用調査の不備

 工藤建設では、新たな購買先(下請業者や取引先)を選定する際、基本的に信用調査を行うことになっています。しかし、実際の運用では、その調査が形式的なものにとどまり、業者の財務状況や過去の取引実績、経営状況などを精査するプロセスが確立されていませんでした。

 そのため、経営基盤が脆弱な業者や、過去に問題のある取引を行った可能性がある業者と契約するリスクが高まっていました。

 また、購買先の評価基準が明確に定められておらず、特定の担当者の裁量で選定が行われるケースが多かったことも問題でした。例えば、本件ではZ社がW社の基準を満たさなかったため、工藤建設が間に入る形で契約を進めましたが、その際、Z社の財務状況や業務遂行能力に関する十分な検証がなされていませんでした。

受注時の見積もり検証の甘さ

 工藤建設では、受注の際に工事の見積もりを取得し、それを基に契約を締結する流れとなっています。しかし、見積もりの内容が適正かどうかの検証プロセスが十分に整備されておらず、形骸化しているケースが多く見られました。特に、以下のような問題点が指摘されています。

見積額の妥当性の検証が不足
 通常、見積額の適正性を判断するためには、過去の類似工事の実績や市場価格と比較する必要があります。しかし、本件ではそのような比較が十分に行われず、担当者の経験則や主観的な判断で見積もりが承認されていました。
 その結果、当初の契約金額が過大または過少に設定され、不適切な支払いの温床となっていました。

追加工事費用の算定基準が不透明
 工事の進行に伴い、追加工事が発生することは一般的ですが、その際の費用算定が不透明なまま進められることが多く、後になってコストの精算に問題が生じるケースがありました。
 本件では、甲案件において当初「余剰残土の積込・搬出作業は不要」とされていたものの、実際には追加工事が必要となり、その費用の処理方法について明確なルールがなかったため、不適切な原価付替えの原因となりました。

契約締結前のリスク評価が不十分
 受注時に発生し得るリスク(資金繰りの問題、工期の遅延、工事の中断など)についての評価が行われていませんでした。特に、本件ではZ社との契約を進めるにあたり、Z社の資金調達能力や工事遂行能力を事前に慎重に確認する必要がありましたが、そのような精査は十分に行われませんでした。
 その結果、Z社が工事を進められず、工藤建設が代替措置として別業者を手配する必要に迫られ、財務上の負担が増加しました。

(2)施工管理段階での問題点
原価管理の不適切な運用

 施工管理の基本として、工事ごとに適正な原価を計上し、予算と実績の差異を把握することが求められます。しかし、工藤建設では、原価管理が適切に行われておらず、実際の工事費用と計上された原価が乖離するケースが多く見受けられました。

 特に、施工の進捗に応じた費用計上が曖昧で、一部の工事では発注額と支払額が大きく異なる事態が発生していました。

 また、工事ごとの原価管理が統一されたルールに基づいて行われず、各現場担当者の裁量に任される場面が多かったことも問題でした。その結果、特定の案件の原価を意図的に別の案件に振り替えることが容易な状況が生じていました。

出来高払いの基準の曖昧さ

 通常、工事の進捗に応じた適正な出来高払いが行われることで、工事の実態と会計処理が一致するよう管理されます。しかし、工藤建設では、出来高の計算方法が統一されておらず、工事の実態とは異なる形で支払いが行われるケースがありました。

 具体的には、出来高払いの査定基準が現場ごとに異なっており、特定の業者に対して工事の進捗とは関係なく前倒しで支払いを行うケースが発生していました。

 また、案件によっては、実際の工事進捗よりも過大な出来高を計上し、支払いを早めることで不適切なキャッシュフロー管理を行っていたことも確認されました。

案件間の原価付替えの常態化

 施工管理の不備が重なった結果、特定の案件で発生した工事原価を別の案件に振り替えるという行為が常態化していました。具体的には、乙案件・丙案件で発生した原価が、甲案件に付け替えられる事例が確認されています。

 このような原価付替えが行われた背景には、一部の案件で発生した予算超過を他の案件に転嫁することで、財務上のバランスを取ろうとする意図があったと考えられます。

 本来であれば、原価は各案件ごとに厳密に管理されるべきですが、社内の監視体制が不十分であったため、こうした不正処理が発覚せずに行われていました。

工事進捗と支払いの不整合

 工藤建設では、工事の進捗に応じた支払いが適正に行われるべきところ、実際の工事状況とは異なる形で支払いがなされるケースがありました。特に、Z社への支払いにおいて、出来高以上の金額が前倒しで支払われた例があり、このことが後の資金繰りの悪化を引き起こしました。

 また、Y社との取引では、157,000千円の支払い義務が不適切に発生しており、社内での十分な審査を経ずに支払いが決定されていたことが問題となりました。こうした工事進捗の実態と乖離した支払いは、資金管理の観点からも大きなリスクを生んでいたといえます。

(3)決裁権限の問題(自己承認のリスク)

 本件では、上位の管理職による自己承認が可能な仕組みとなっており、適切な牽制が機能していませんでした。特に、工事原価の決定や変更が一部の管理職の裁量で行われるケースがあり、原価付替えのような不正行為がチェックを受けることなく実行されていました。

(4)経営管理部のチェック機能の欠如

 経営管理部は、本来、財務・原価管理に関するチェック機能を担うべき立場ですが、その機能が十分に発揮されていませんでした。特に、原価管理においては適正なコスト計上が行われているかの検証が不十分であり、不適切な原価付替えが見逃される結果となりました。

(5)リスク管理体制の問題点

 「コンプライアンス・リスク管理委員会」が設置されていましたが、その機能は十分に果たされていませんでした。本来であれば、企業内のリスクを検知し、適切な対策を講じる役割を持つはずでしたが、実際には不正行為の監視よりも懲戒処分の審議が主な役割となっていました。

 そのため、事前に問題を発見し未然に防ぐ仕組みが機能せず、結果的に不正行為の発生を許すこととなりました。

(6)内部監査の不備

 内部監査についても、監査室の人員が不足しており、十分な監査が実施できていませんでした。特に、2022年以前は内部監査が実施されておらず、監査室の機能は形式的なものにとどまっていました。

 2022年以降は内部監査が導入されたものの、監査の対象範囲が限られており、今回のような大規模な不適切行為を発見するには至りませんでした。また、監査室の指摘に対する改善策のフォローアップも徹底されておらず、過去の問題が放置されたままとなっていました。

コーポレートガバナンス上の問題点

 ガバナンスの面では、取締役会の監督機能が十分に果たされていなかったことが問題です。2024年6月に策定された中期経営計画には「ガバナンス強化」の方針が含まれていましたが、具体的な施策がほとんど実行されていませんでした。

 また、監査体制の人員不足も深刻で、監査室は1名体制で業務を担っており、特命監査が発生すると定期監査が十分に行えない状況でした。

 加えて、過去に発生した不正事案への対応も不十分で、2021年の重加算税事案では仮装隠蔽の疑いがあったにもかかわらず、関係者に対する処分が軽く、組織としての再発防止策が徹底されていませんでした。

 こうした背景から、経営陣のリスク管理意識の低さが浮き彫りとなりました。

原因分析

建設事業部長と部下とのコミュニケーション不全

 建設事業部では、上司と部下の間で適切な情報共有が行われておらず、特に不都合な事実を報告することが難しい環境が形成されていました。

 上長が強い態度で部下に接することで、部下は問題が生じた際に適切な報告を行うことができず、不適切な判断がなされる要因となりました。

経営管理部の役職員に対する研修不足

 経営管理部の役職員に対するコンプライアンス研修が不足しており、不正行為のリスクを十分に理解していない職員が多く存在しました。

 特に、財務報告に関連する内部統制の基本ルールについての研修が実施されておらず、規範意識の欠如や違反行為の見逃しにつながっていました。

過去の失敗から組織として学ぼうとする姿勢の欠如

 過去の不適切行為に対する処分が軽すぎるとの指摘が多くあり、不正を行っても大きな罰則を受けないという認識が広がっていました。

 この結果、従業員のモラル低下を招き、不正の再発防止策が十分に機能しない状況となっていました。

管理職及び有資格者の不足(人材不足)

 建設部門では管理職や専門資格を持つ人材が不足しており、特に土木事業に関する知見を持つ人材がほとんどいませんでした。そのため、現場管理能力が不足し、業者の見積もりの妥当性を判断できないなどの問題が発生しました。

 また、経営管理部でも業務負担が大きく、内部統制の機能が十分に果たせない状況でした。

経営陣のメッセージの不浸透

 経営陣が発信するコンプライアンスに関するメッセージが十分に社内に浸透しておらず、多くの社員が中期経営計画の基本方針や企業理念を理解していない状況でした。

 このため、不正を防ぐ意識が社内に根付かず、ガバナンスが機能不全に陥っていました。

横のつながりにおけるコミュニケーション不足

 事業部門間の連携が不足しており、工事課と営業課の間で情報共有が適切に行われないケースが見られました。例えば、赤字工事の見込みが発生した際に、営業課に適切に伝達されず、施主への追加費用交渉が行われないなどの問題が発生しました。

 また、積算と営業の連携不足により、見積もりのミスが生じ、赤字を抱え込む事態も発生していました。

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