【ガーラ】ゲーム開発費の不適切な資産計上

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第三者委員会等調査報告書の要約

 株式会社ガーラは、2023年10月から2024年5月にかけて、外部機関から2つの重要な指摘を受けました。

  1. 連結子会社のGala Lab Corp.が2016年3月期に資産計上を開始したスマートフォン向けMMORPGアプリケーション「X(モバイル版)」の開発に関する無形固定資産について、その資産計上が不適切であった可能性があり、当時の経営者の意向が強く影響していた疑い
  2. Gala Lab Corp.が運営していたアプリケーション「Y(モバイル版)」について、2021年1月にK1社へ25億ウォンで譲渡し、2022年4月に20億ウォンで再取得した取引に関して、当初から再取得の約束があった疑い

 これらの疑義を受けて、ガーラは2024年5月30日に特別調査委員会を設置し、独立した立場の専門家による客観的な調査を実施することを決定しました。

 この記事では、同社が公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細は株式会社ガーラ特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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会社概要

  • 資本金:4,213,860千円(2023年12月31日現在)
  • 従業員数:110名(2023年12月31日における連結正社員数)
  • グループ構成:株式会社ガーラおよび連結子会社7社
  • グループの主な事業内容:オンラインゲーム事業、スマートフォンアプリ事業、HTML5ゲーム事業、NFTゲーム/ブロックチェーンゲーム事業、クラウド関連事業、ツリーハウスリゾート事業、ブロックチェーン関連事業、VFX事業

コーポレートガバナンス体制

  • 取締役会:取締役12名、うち社外取締役5名
  • 監査役会:監査役3名、うち社外監査役2名
  • 役員報酬委員会:社外取締役1名、社外監査役2名
  • コンプライアンス委員会
  • 情報開示委員会
  • 内部監査室

X(モバイル版)資産計上に係る疑義について

 X(モバイル版)は、2006年にサービス開始されたPC向けMMORPGであるX(PC版)を起源とし、中世ファンタジーをテーマとした世界観に基づくゲームです。Yシリーズと比較してよりリアル思考のグラフィック及びキャラクターデザインを特徴とするMMORPGとして開発されました。

 連結子会社Gala Lab Corp.は、2年程度の開発期間を見込み2016年1月からX(モバイル版)の開発を開始しました。この開発の背景には、スマートフォンの普及により市場規模の拡大が見込まれるスマートフォン向けゲームアプリの開発に着手するという方針がありました。

 開発計画の承認までの経緯として、まずGala Lab Corp.は「Y」シリーズのY(カジュアル版)の開発に取り組み、2014年12月にサービス提供を開始しました。しかし、サービス提供開始後2か月で約40%のユーザーが、その後1か月で更に約30%のユーザーがゲームのプレイを止めてしまう状況となりました。

 この結果を受け、ユーザーに継続してプレイしてもらうためには多様な遊び方ができるゲームでなければならず、オンライン上でより多数のプレイヤー同士が交流できるMMORPGの開発を進める必要があると判断しました。

 2015年12月、Gala Lab Corp.はX(モバイル版)の開発プロジェクトを理事会に上程してその承認を得ました。開発方針としては、テスト版の開発までに1年、テスト版の評価を踏まえて修正を行った完成版の開発に1年の合計2年間で開発を行い、サービス提供を開始することを予定していました。

 ただし、2年間でX(モバイル版)の開発を全て完了する想定ではなく、あくまでもサービス提供開始までに必要となると考えられる開発予定期間であり、新たにX(モバイル版)の開発に資金を投入することが可能になるのであれば、サービス提供開始後においても開発を継続する予定でした。

 マーケティング方針としては、テスト市場として東南アジアでの反応を見ながら、必要な追加開発等を実施した上で、マーケティングコストが高い日本や欧米などのグローバル市場に展開することとしていました。加えて、マーケティングに投じた費用をゲームの売上により回収できないリスクを考慮して、パブリッシャーとパブリッシング契約を締結することを計画していました。

 開発の進捗として、2017年9月頃にベータ版が制作され、東南アジアにおいてCBT(クローズドベータテスト)が行われました。CBTの結果、グラフィックは綺麗であると評価される一方で、ストーリー、クエストなどゲームの全体的な流れを大幅に修正し、グラフィック(マップ、キャラクターなど)についても個数を増やしてレベルを上げる方向で開発を継続する必要があると判断されました。

 その後、2018年6月に2度目のCBTを実施し、2019年2月には韓国・中国・台湾でのサービス提供に関してH社とライセンス契約を締結して2020年3月期第1四半期に東南アジアでのサービス提供開始を予定していました。

 しかし、より高いクオリティを求めるパブリッシャーの意向を踏まえ、演出の完成度及びグラフィックの改善のためにリリースを遅らせ、最終的に2020年3月に東南アジアでサービス提供を開始することになりました。

 X(モバイル版)の資産計上に関する会計処理について、Gala Lab Corp.及び会計監査人は以下のように認識していました。

  1. Gala Lab Corp.では、モバイルゲーム対応として進めたX(モバイル版)については初めての本格的なモバイルでのMMORPGであったこと、開発期間が1年を超える予定であったことに加え、リリース後の回収期間も長期を想定していたため、費用収益対応の観点からも、IAS38の資産計上要件を満たす場合には資産計上することが適切であると個別に判断した
  2. 会計監査人は、2015年12月の打ち合わせにおいて、X(モバイル版)は自社利用目的のソフトウェアに該当すること、当該開発費をソフトウェア制作費とコンテンツ制作費に区分することは困難であり、開発費の主要な性格をソフトウェアとみなして資産計上することの説明を受け、自社利用のソフトウェアで将来の収益獲得が確実であると認められる場合には資産計上に問題はないと判断した

 このように、X(モバイル版)は開発開始時から資産計上されましたが、2018年3月期に仕様変更に伴い732百万KRWの除却損が発生し、さらに2020年3月期に1,224百万KRWの減損損失を、2021年3月期に残存する残高全額である2,502百万KRWの減損損失を計上することとなりました。

Y(モバイル版)譲渡・再取得に係る疑義について

 Y(モバイル版)は、PCオンラインゲームであるY(PC版)を基にGala Lab Corp.が開発したスマートフォン向けMMORPGです。2017年1月に韓国でサービスを開始し、同年5月に英語版(フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド等)、同年9月に日本語版、中国語版、タイ語版、英語版(北米等)、同年12月に欧州向け多言語版と、順次サービス地域を拡大していきました。

 譲渡の経緯として、2019年にブロックチェーンプラットフォーム「Kサイト」を運営するK1社から、Gala Lab Corp.のゲームで暗号通貨を使用できるようにしたいとの提案を受けました。

 「Kサイト」では暗号通貨「暗号通貨K」でのプレイが可能であり、新規ユーザーとして「Kサイト」会員の取込みと同時に、暗号通貨Kを使ったマーケティングによりユーザー数の増加を図ることができると考えられました。

 2019年11月に共同事業契約を締結し、2020年3月にはY(モバイル版)、Y(PC版)およびX(PC版)のパブリッシング権限並びにX(モバイル版)のチャネリング権限を含むより包括的な共同事業契約を締結しました。そして2021年1月、Y(モバイル版)を2,500百万KRWでK1社に売却することを決定しました。

 売却の判断理由として、以下の点が考慮されました。

  • K1社がY(モバイル版)というゲームタイトルを保有でき、これまでGala Lab Corp.に支払っていたロイヤリティも不要になること
  • スマートフォン向けゲームは売上維持期間が短く、リリースから数年が経過したY(モバイル版)は残り2年程度でサービス終了が見込まれること
  • Y(モバイル版)の売却代金で、東南アジア以外の地域でのリリースに向けて開発中だったX(モバイル版)の開発費用を賄えること
  • 一方でPC向けゲームは安定した売上があり売却は難しいと判断したこと

 その後、2020年中にM社の子会社K2社がK1社を買収して合併し、K2社となりました。K2社ではゲーム事業の縮小・廃止を検討する中で、Gala Lab Corp.は2021年7月末頃からY(モバイル版)のライセンス及び運営権を戻してもらうことを提案し、2022年4月に2,000百万KRWでの買戻しが実現しました。

 買戻し価格の交渉では、Gala Lab Corp.は直近の月額売上100百万KRW、サービス継続可能期間を最大3年(36か月)として3,600百万KRWを提案しました。これに対してK2社は月額売上85百万KRW、サービス継続期間を2.5年として2,550百万KRWを提案し、最終的に2,000百万KRWで合意に至りました。この金額はK2社によれば、減価償却後の簿価を考慮したものでした。

 買戻しと同時に、Gala Lab Corp.はK1社の旧経営陣が設立したL社とチャネリング契約を締結しました。この契約は、L社が発行する暗号資産を使用して同社のブロックチェーンプラットフォームでGala Lab Corp.のゲームをプレイできるようにすることを目的としていました。

 ガーラと会計監査人は、これらの取引について以下のように判断しました。

  • 売却時の会計処理はIFRS15の適用対象であり、2021年3月期に2,500百万KRWの売上計上は適切
  • K1社は将来にわたってロイヤリティ収入を100%得ることができ、知的財産権も獲得しており、支配の移転は否定されない
  • 買戻しは売却とは別個の取引として評価でき、2022年4月1日付で2,000百万KRWのソフトウェア計上は適切
  • 2023年3月期末での減損損失計上も適切

 調査の結果、Y(モバイル版)の売却時点で買戻しを行うことまでの合意があったとは認められず、売却と買戻しは別個の取引であると判断されました。また、2023年3月期末での減損損失計上も適切と判断されました。これらの取引は時期的には密接していますが、それぞれが個別の事情で発生したものであり、相互に関連しているとは認められませんでした。

 以上のことから、Y(モバイル版)の売却及び買戻しに関する会計処理について、訂正は不要と結論付けられました。

件外調査の方法及び結果

 特別調査委員会は全体的な件外調査として、まずガーラグループ各社を対象とした臨時通報窓口を設置しました。2024年6月18日から7月12日までの25日間、匿名での通報も可能とし、本件疑義やその類似事象についての情報提供を依頼しましたが、情報提供はありませんでした。

 次に、ガーラ及びGala Lab Corp.の全役職員74名に対して社内アンケート調査を実施しました。本件疑義に関する個別の質問と類似事象に関する質問を実施しましたが、類似事象についてはいずれも認識がない旨の回答でした。

 さらに、デジタル・フォレンジック調査として、ガーラ及びGala Lab Corp.の役職員8名のコミュニケーション関連データの解析を実施した結果、ツリーフルののれんの減損に関して2023年3月期において不適切な会計処理を企図している可能性があるメールが発見されました。

 これを受けて調査を行ったところ、ガーラは2021年4月にツリーフルの第三者割当増資を引き受けて160百万円を出資し、122百万円ののれんを計上していました。2023年3月期の減損検討において、2期継続して営業損失を計上しながらも減損の兆候はないと判定されていましたが、計画値と実績値の乖離は「著しい」とまでは認められず、不適切な会計処理は行われていないと判断しました。

 個別的件外調査としては、X(モバイル版)の資産計上に関して同様の事例がないことを確認し、またY(モバイル版)の譲渡・再取得については、関係各社との全取引に係る契約関係書類を精査したところ、不適切な会計処理を伴うような疑義のある取引等は認められませんでした。

原因分析

 本件の原因として、以下の4つの主要な問題点が認識されました。

経営陣の会計基準等の遵守に向けた認識不足

 X(モバイル版)の開発には多額の開発費が発生することが見込まれ、また研究開発費等会計基準は1999年に策定されたもので2015年当時においても経済・技術環境に合致していない部分があり、各社における実態判断が必要な状況でした。

 さらに、ゲームの開発費に関する会計方針もガーラグループには存在していませんでした。このような状況下で、経理責任者に会計処理上の判断を任せきりにすることなく、外部の会計専門家への相談や会計監査人との協議を指示するなどの対応が求められました。

経理部門の脆弱性

 ガーラの2016年3月期における経理体制では、G氏(ガーラ管理部門担当部長)のみがゲームの開発費に係る会計処理の検討を行う体制となっていました。G氏は会計基準に精通していたわけではなく、X(モバイル版)の開発費を資産計上したいと甲監査法人に相談したものの、自らが主体的に資産計上の可否について検討、判断することはありませんでした。

 財務諸表の作成責任は監査人ではなく提出会社にあるため、自ら検討、判断できる体制を備えるべきでした。

開発プロジェクトの管理及び契約関係の整理の不十分性

 Gala Lab Corp.で開発されるゲームは、研究開発費等会計基準上、自社利用ソフトウェアに区分されるものが主でしたが、その判断基準は社内で整理されておらず、都度経理担当者により判断されてきました。

 また、ソフトウェア開発においては、適切なタイミングで企画内容や予算、成果物やコスト発生状況を含む開発状況のモニタリングが重要ですが、これらが十分に実施されていませんでした。

他の役員によるモニタリング機能の不十分性

 ゲーム事業に関する意思決定及びこれに伴う会計処理は、ゲーム開発を主軸の事業とするガーラグループにとっては重要な事項であるにもかかわらず、ガーラの取締役会において、深度のある検討や議論がなされた形跡が見当たりませんでした。

 これは社内において、Gala Lab Corp.のゲーム事業のことはB氏(ガーラ代表取締役グループCEO、Gala Lab Corp.代表理事CEO)が一番理解しているため同人の考えや方針を尊重するといった意識、風潮が少なからずあったことが要因として考えられます。

Appendix

研究開発費等に係る会計基準

一  定義

1  研究及び開発

 研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。
 開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。

2  ソフトウェア

 ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう。

二  研究開発費を構成する原価要素

 研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために費消されたすべての原価が含まれる。(注1)

三  研究開発費に係る会計処理

 研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければならない。
 なお、ソフトウェア制作費のうち、研究開発に該当する部分も研究開発費として費用処理する。(注2)(注3)

四 研究開発費に該当しないソフトウェア制作費に係る会計処理

1  受注制作のソフトウェアに係る会計処理

 受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理する。

2  市場販売目的のソフトウェアに係る会計処理

 市場販売目的のソフトウェアである製品マスターの制作費は、研究開発費に該当する部分を除き、資産として計上しなければならない。ただし、製品マスターの機能維持に要した費用は、資産として計上してはならない。

3  自社利用のソフトウェアに係る会計処理

 ソフトウェアを用いて外部へ業務処理等のサ-ビスを提供する契約等が締結されている場合のように、その提供により将来の収益獲得が確実であると認められる場合には、適正な原価を集計した上、当該ソフトウェアの制作費を資産として計上しなければならない。
 社内利用のソフトウェアについては、完成品を購入した場合のように、その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合には、当該ソフトウェアの取得に要した費用を資産として計上しなければならない。
 機械装置等に組み込まれているソフトウェアについては、当該機械装置等に含めて処理する。

4  ソフトウェアの計上区分

 市場販売目的のソフトウェア及び自社利用のソフトウェアを資産として計上する場合には、無形固定資産の区分に計上しなければならない。(注4)

5  ソフトウェアの減価償却方法

 無形固定資産として計上したソフトウェアの取得原価は、当該ソフトウェアの性格に応じて、見込販売数量に基づく償却方法その他合理的な方法により償却しなければならない。
 ただし、毎期の償却額は、残存有効期間に基づく均等配分額を下回ってはならない。(注5)

五  財務諸表の注記

 一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額は、財務諸表に注記しなければならない。(注6)

六  適用範囲

1  委託・受託契約

 本基準は、一定の契約のもとに、他の企業に行わせる研究開発については適用するが、他の企業のために行う研究開発については適用しない。

2  資源の開発

 本基準は、探査、掘削等の鉱業における資源の開発に特有の活動については適用しない。

3 企業結合により被取得企業から受け入れた資産

 本基準は、企業結合により被取得企業から受け入れた資産(受注制作、市場販売目的及び自社利用のソフトウェアを除く。)については適用しない。

研究開発費等に係る会計基準注解

(注1)研究開発費を構成する原価要素について

 特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置や特許権等を取得した場合の原価は、取得時の研究開発費とする。

(注2)研究開発費に係る会計処理について

 費用として処理する方法には、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法がある。

(注3)ソフトウェア制作における研究開発費について

 市場販売目的のソフトウェアについては、最初に製品化された製品マスターの完成までの費用及び製品マスター又は購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用が研究開発費に該当する。

(注4)制作途中のソフトウェアの計上科目について

 制作途中のソフトウェアの制作費については、無形固定資産の仮勘定として計上することとする。

(注5)ソフトウェアの減価償却方法について

 いずれの減価償却方法による場合にも、毎期見込販売数量等の見直しを行い、減少が見込まれる販売数量等に相当する取得原価は、費用又は損失として処理しなければならない。

(注6)ソフトウェアに係る研究開発費の注記について

 ソフトウェアに係る研究開発費については、研究開発費の総額に含めて財務諸表に注記することとする。

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