Shinwa Wise Holdings株式会社は、外部機関からの指摘により検討した結果、子会社が行った絵画等の売買取引について、金融取引等としての処理の必要性、または売上計上のタイミング等に関しての問題を調査するため、第三者委員会を設置することとしました。
この記事では、同社が公表した第三者委員会の調査報告書に記載されている不適切会計の内容、発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細はShinwa Wise Holdings株式会社第三者委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
会社概要
- 資本金:1,674百万円
- 売上高(連結):3,647百万円(2023年5月期)
- 従業員:42名(連結ベース)
- 事業内容:アート関連事業、太陽光発電施設の売電事業、PKS(パーム椰子殻)の販売事業
- グループ構成:連結子会社9社、非連結子会社2社、持分法非適用関連会社1社
コーポレートガバナンス体制(2024年6月1日現在)
- 取締役会:取締役4名、社外取締役3名、月1回定例開催
- 監査役会:社外監査役3名、うち1名常勤監査役、月1回定例開催
- 経営会議:取締役4名で構成、監査役1名オブザーバー参加、月数回開催
- 内部監査室:内部監査担当者1名任命と説明されているが、J-SOX対応兼務の従業員がいるのみで、内部監査室に所属している者はおらず、内部監査も実施されていないため、有価証券報告書の当該記載は虚偽と認められる
不適切な会計処理をするに至った経緯及び関与者等
2021年5月期における状況
2020年7月15日のShinwa Wise Holdingsの取締役会において、3期連続赤字となったことで「4期連続赤字だと上場廃止となってしまう」との危機感が共有されました。この状況下で、2020年12月28日にシャガール作品を3.5億円で仕入れましたが、転売先が見つかりませんでした。
監査役会は再三にわたり転売を催促し、2021年4月にはa氏(Shinwa Wise Holdings代表取締役社長)がc氏に転売を依頼しました。
2022年5月期以降における状況
c氏がShinwa Prive株式会社の取締役に就任すると、新規顧客の開拓が進み、資金調達としての絵画取引が頻繁に行われるようになりました。c氏は「新規顧客開拓のためにまずはアートに触れてもらうために買戻合意を売却と同時にすることもある」と説明し、「買戻しをして、またその資金で新たな作品を購入してもらえる」と述べています。
金融取引に関与した者
不適切な会計処理は、上場廃止を避けたいという危機感から始まり、c氏とa氏の了承のもとで組織的に行われていたことが明らかになっています。
c氏について
- 契約交渉の全てを担当
- 2014年9月から2018年8月までShinwa Wise HoldingsグループのShinwa ARTEX株式会社の前身であるエーペック株式会社の執行役員として太陽光発電事業を担当
- 2021年7月にB社を設立し代表取締役に就任(a氏とその妻も取締役)
a氏の説明と認識
- 2022年12月21日の取締役会で、「アートコレクターの中には投資を中心として考える顧客は、資金をまわしていくことを考える」と説明
- プライベートセールのための資金調達として、半年で購入価額に5%上乗せした額での買戻しを行う方法を説明
正規の会計処理に関する認識
当初は売買契約書上に買戻約束を明文化していましたが、その後、管理部門に隠すように買戻約束の覚書を締結するようになりました。このことから、金融取引に関与した者は、当初は通常の売買と同じ会計処理で良いという不正確な認識でいましたが、いずれかの時点で正規の会計処理を認識しながら、敢えてそのような処理を回避しようとする意図を有していたと推測されます。
c氏の独断で行ったものではないこと
a氏が取締役会で金融取引について説明していること、契約書や覚書にa氏の署名や実印があること、c氏が適宜a氏に報告をしていたと述べていることから、c氏はa氏の了承の下で金融取引を行っていたと認定できます。
c氏作成のエクセルファイルについて
c氏が作成した「2023a氏・c氏返金スキーム」「0201アート投資(Shinwa Prive)」という2つのエクセルファイルが発見され、これらには取引先、取引金額、返済状況等が記載されていました。通常の売買取引であれば借入との発想が出てくることはなく、これらの取引が金融取引である疑いを生じさせるものとなっています。
不適切な会計処理の概要
Shinwa PriveおよびShinwa ARTEXは、Shinwa Wise Holdingsの子会社として絵画等の相対取引(プライベートセール)を行っており、調査対象期間中に関与したプライベートセールについて網羅的な調査が実施されました。なお、オークション取引については、オークション会場にて落札者との取引がされるという形態から、金融取引等に該当する可能性は考えがたいため、対象外とされています。
作品「リラの花束」(作者シャガール)に関する取引
Shinwa ARTEXは2020年12月に3.5億円で仕入れ、Shinwa Priveが2021年5月にC社へ3.8億円で売却しました。a氏(Shinwa Wise Holdings代表取締役社長)によれば、評価額は5億円を下らないと評価していたものの、4期連続赤字を避けなければならないという危機感から、「利益を下げても5月末までに転売するように」との方針がとられました。
C社は2021年6月から8月にかけて分割払いで支払いを行い、その後c氏(Shinwa Prive取締役)が富裕層向けビジネスを展開する中で構築していた人脈を使い、海外のオークションに出せば利益を得られることを売り文句に、10名の持分譲渡先を見つけ出しました。この過程で、a氏とc氏は一部の譲渡先と損失補填の覚書を締結していました。
2022年3月にクリスティーズ(上海)のオークションで作品が落札された結果、約1億円の損失が発生しましたが、この損失はE社からShinwa Prive経由でC社へ3.8億円が送金されることで補填されました。
作品Ⅰ(作者①)に関する取引
Shinwa Priveがaa氏に対して行った作品I(作者①)の取引では、売却価格に10%上乗せした金額での買戻合意が存在していました。2022年11月のオークションで落札されたものの代金が支払われず、最終的にShinwa Priveが1.21億円で買い戻すことになりました。
この取引は、売却代金額に料率を乗じた金額を上乗せした金額で買い戻すというもので、後にa氏がShinwa Wise HoldingsおよびShinwa Priveの取締役会において説明した方法の実践といえます。
作品Ⅱ(作者②)及び作品Ⅲ(作者③)に関する取引
この取引では、Shinwa PriveがF社から1.8億円で購入した作品をG社へ同額で売却し、契約書には5%上乗せでの買戻条項が明記されていました。
具体的には、オークション清算後3営業日以内に作品購入代金に5%を上乗せした金額を受け取ること、オークションにおいて作品が不落札の場合も同様の金額を支払うことが定められており、結果としてShinwa PriveはG社へ1.89億円を支払うこととなりました。
作者④の作品17点に関する取引
この取引では、Shinwa PriveがH社へ6,000万円で売却した後、J社、K社、E社への再販売が行われました。
特にJ社との間では6%上乗せの買戻覚書が締結され、当該覚書の存在が監査法人に発覚したことを契機として、Shinwa Priveの不適切な会計処理について監査役lによる調査が行われることとなりました。
またK社、E社との取引も金融取引としての性質が強く疑われる状況でした。
作品Ⅹ(作者⑦)及び作品XⅠ(作者⑧)に関する取引
Shinwa ARTEXによる作品X(作者⑦)及び作品XI(作者⑧)の取引では、ab氏への5,000万円での売却が行われ、その後ad氏へ転売されています。
この取引でも買戻約束をしている覚書のドラフトが存在していました。締結は確認されていないものの、買受約束をしている覚書のドラフトでは、売却代金に10%を加算した金額での買い受けを合意する内容となっていました。
作品ⅩⅡ、作品ⅩⅢ(作者②)に関する取引
この取引では、Shinwa PriveがK社に4,500万円で売却し、その後R社を経由してad氏へ転売されており、これも金融取引としての性質が強く疑われます。
c氏が作成した「2023a氏・c氏返金スキーム」のエクセルファイルには、R社に対して5,250万円を返済したかのような記載があり、R社に対する転売代金額と同額であることから、R社が作品に対する支配を獲得していないのではないかとの疑念が残ります。
これらの取引に共通する特徴として、買戻条件付きの売買契約の締結、売却価格に5-10%程度上乗せした買戻価格の設定、実質的な商品引渡しを伴わないケースが多いこと、最終的な転売先としてad氏が複数回登場すること、そしてa氏とc氏が個人的に損失補填の約束をするケースがあることが挙げられます。
これらの取引は形式的には売買契約として処理されていましたが、実質的には金融取引としての性質を持つものと判断されます。したがって、売上計上時期についても、商品の引渡しや支配の移転の事実関係に基づいて、より適切な時期に修正される必要があると指摘されています。
期ずれの認識
Shinwa Wise Holdingsは2022年5月期の有価証券報告書からプライベートセールの収益認識について、「顧客に商品を引き渡した時点において顧客が商品に対する支配を獲得し、履行義務が充足されることから、商品の引渡時点で収益を認識しております」という会計方針を記載しています。
Shinwa Priveの見解によると、「支配が移転すると考える引渡時点」は、原則として契約締結完了と入金完了時点とされ、例外として契約書日から遠くない日までに支払総額の約1/2以上支払われていることを条件に契約締結日での売上計上も認められていました。
しかし実態としては、支払いが数か月後となる場合でも全ての取引が契約締結日で売上計上されており、入金完了時点での売上計上という原則は機能していませんでした。また、Shinwa Priveの契約書では「作品の所有権は、売買代金全額の支払いをもって移転する」と記載されているケースが多く、支払前の売上計上という問題がありました。
収益認識基準の整理として、Shinwa Priveの収益認識は「売買代金全額の支払いがあり、かつ、物品の受渡が完了した時」に売上計上することが考えられます。ただし、物品の受渡完了時を網羅的に確認できる証憑が揃っていないため、第三者調査委員会は、入金と引渡しが一般的に同時もしくは近似して行われるプライベートセールの性質を踏まえ、売買代金全額の支払日を便宜的に引渡日とみなして、期間帰属の修正要否を判断しました。
このように、Shinwa Priveは契約書締結日基準で売上計上を行っていたため、翌四半期以降の支払いとなる場合には売上の計上期ずれが発生することとなっています。
発生原因
以下のような問題が、単なる管理上の不備にとどまらず、不適切な会計処理を可能にする環境を作り出していたと考えられます。
取締役会の問題点
取締役会の構成については、2020年3月の臨時株主総会後、a氏(Shinwa Wise Holdings代表取締役社長)の意見に賛同する者だけが取締役になるという役員の刷新が行われました。その後、取締役のn氏による不適切な株式取得という問題が発生したため、ガバナンス強化を目的として弁護士のj氏が2022年8月から社外取締役として就任しました。
しかしながら、社内の大半の取締役は不適切な会計処理を含む問題を指摘・改善することができず、その監視義務の有効性・適切性については、j氏が取締役として就任した後に至っても大いに疑問が残る状態でした。
特に重要な問題として、取締役及び監査役に公認会計士資格を有する者が不在であったことが挙げられます。弁護士である監査役のl氏も、弁護士として法的な指摘はできるものの、会計的な問題については的確な指摘ができていなかった可能性を認めています。このため、不適切な会計処理に関する議論が満足になされず、結果として改善されませんでした。
取締役の問題点
c氏(Shinwa Prive取締役)については、a氏の了承のもと買戻し条件付き取引を実行し、社内で当該取引が問題視された後も取引を実行することを画策していました。
2023年4月には監査法人から指摘を受けて始末書を提出し、今後二度とこのような販売方法をとらないと約束したにもかかわらず、その後も顧客から要望があった場合には買戻し条件付き取引を実行する意思があったことが認められます。また、外部機関の調査に対してもa氏と共謀のうえ、取引の実態を隠蔽し続けていました。
a氏についても、少なくとも2022年10月ごろには買戻し条件付き取引の問題点と当該取引をc氏が実行していることを認識していながら、2023年4月ごろの監査法人からの指摘時には関与を否定し続けていました。
さらに、本件調査のヒアリングにおいても、不適切な会計処理取引に係る各契約書や覚書については誰が作成したかわからないと関与を否定し続けるなど、代表取締役としての責任ある対応を取っていませんでした。
管理担当取締役であるo氏は、J-SOXへの対応が不十分で、内部統制や内部監査への関与が希薄でした。特に、2023年4月以降、c氏が買戻しの条件をつけてアート取引を行っていたことが発覚したにもかかわらず、Shinwa Priveのプライベートセールに係る内部統制について特段抜本的な見直しを行わなかったことは、管理担当取締役としての責任を果たしていないと言えます。
また、子会社Shinwa ARTEXの社長を兼務していたため、当該執行部門については事実上管理担当取締役が不在となり、執行部門の監視が十分にできない状態でした。
監査役の問題点
監査役会は全員が社外監査役で構成され、常勤監査役のv氏は週に2、3回の出社にとどまっていました。その後、k氏が常勤監査役となりましたが、同様に週に2、3回の出社程度で、最近は足が遠のいている状況でした。
また、c氏による不適切取引発覚後の再発防止策の実行を徹底できず、書面の確認等も行っていませんでした。加えて、会計知識の不足により、買戻し条件付き取引の存在は認識していたものの、会計上の問題点を適切に指摘することができませんでした。
内部統制の問題点
内部監査室は形式上設置されていましたが、メンバーは全員が兼務で、内部監査に十分な時間を割けていませんでした。
J-SOX対応も形式的なものにとどまり、内部統制の評価計画が策定されていない、業務プロセスの整備評価手続を実施していない、プライベートセールの引渡しに関するコントロールの不備が常態化しているなどの問題がありました。
また、内部監査室の責任者は経理部長が務めており、自己監査の状態となっていました。経理部門は内部統制の評価対象であることから、このような体制は不適切でした。
監査法人からも「これだけ内部統制ができていない上場企業も珍しい」との指摘を受けていたにもかかわらず、十分な改善がなされませんでした。
契約書・受領書の管理における問題点
契約書作成フローは存在したものの、契約書のシステム管理はされておらず、押印手続さえクリアできれば誰でも自由に契約書を作成できる状態でした。
また、受領書の取得や保管も徹底されておらず、本社引っ越しの際に保管していた書類の所在が不明になるなど、契約書や受領書の適切な管理ができていませんでした。
不正のトライアングル
不正のトライアングルの観点から、調査報告書をもとに、不適切会計につながるa氏およびc氏の行為の要因をあらためて以下のようにまとめてみました。
動機・プレッシャー
- 4期連続の赤字を回避する必要性:監査役会は資金繰りの改善と上場維持のため、黒字化を強く求めていた
- a氏の「アートファンド構想」:c氏の富裕層向け営業力を評価し、自己の構想を実現する片腕としてc氏に期待を寄せていた
機会
- Shinwa Wise Holdingsグループの不十分な内部統制:内部監査室は機能しておらず、契約書管理や受領書の受取、在庫管理、送金手続きなど、様々な面で不備が見られた
- a氏とc氏の間に強固な関係性:a氏はc氏の営業手腕を高く評価し、社内からの異論を押しのけてc氏を取締役に就任させており、これはa氏とc氏の間に強い信頼関係があったことを示唆し、不正行為を隠蔽する土壌となった可能性がある
- c氏のShinwa Priveへの経営関与:c氏は顧客の決算書や請求書の作成、取引の仲介など、Shinwa Priveの業務に幅広く関与しており、c氏に不正行為を行う機会があった可能性がある
正当化
- 新規顧客開発と利益確保:c氏は、買戻しを伴う取引を「新規顧客開拓のためのアートへの投資機会」と説明しており、また、「利益が抜ける」など、会社にとって利益があるかのような説明をしていた
- 資金調達手段:a氏は、買戻しを伴う取引を「資金繰りのための手段」と説明しており、高利な資金調達方法だが絵画取引であるため2%の利益があれば問題ないと主張していた