【ICDAホールディングス】中古⾞買取を利⽤し役員が2億円着服

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第三者委員会等調査報告書の要約

 ICDAでは、2023年11月以降の調査により、元役員X氏による2つの不正行為が発覚しました。

 ひとつは2016年4月から2023年10月にかけて、名義貸しによる車両買取契約書を市場価格より高額で作成し、買取金額を着服していた行為で、もうひとつは修繕業者と共謀し、適正価格以上の工事代金を請求させて一部を着服していた行為です。

 これを受けてICDAは2024年2月1日に特別調査委員会を設置しました。

 ただし、X氏は税務調査中の2023年11月に死亡しており、当委員会の調査では、当事者へのヒアリングが不可能な状況となっています。

 この記事では、同社が公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている主な不正案件の内容とその発生原因に焦点を当てて要約しています。

※詳細はICDAホールディングス株式会社特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。

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ICDAグループの事業概要

 ICDAグループは、連結⼦会社3社(三重北、オートモール及びマーク)からなり、三重北及びオートモールが⾃動⾞販売関連事業を、マークが⾃動⾞リサイクル事業を運営しています。

 これらのグループ企業間において新⾞販売・中古⾞販売・中古⾞買取・アフターサービス・リサイクルの流通経路を網羅することで価値向上を目指し、顧客に向けた商品やサービスを提供しています。

不正行為について

 ICDAの元役員であるX氏は、2016年4月から2023年10月までの間に、二つの不正行為を行っていました。

不正行為①:名義貸しによる車両買取契約書を作成し、市場価格より高い価格で買取って差額を着服する行為

不正行為②:修繕業者と結託して工事代金を水増し請求し、その一部を着服する行為

 なお、2023年11月より開始された国税局の税務調査の途中でX氏が死亡したことにより、2023年10月以降は不正行為は発生していません。

不正行為①

 X氏が2010年4月に三重北の中古車部長に就任した後、2016年4月以降に中古車本部を実質的に統括する立場となり、中古車の買取契約や支払に関する全般的な権限を有するようになったことで不正行為が実行可能となりました。

 X氏は、Y氏(三重北中古⾞事業部仕⼊課課⻑)とZ氏(三重北中古⾞事業部E店店⻑)という2人の従業員を不正行為に加担させましたが、その手法はそれぞれ異なっていました。

 Y氏に対しては「他の従業員のミスを補填するための資金が必要」と伝え、断ろうとすると高圧的な態度を取ることもありました。一方、Z氏に対しても同様の説明をしましたが、Z氏はX氏の部下として働いた経験があり、X氏の営業力などに心酔していた面があったため、高圧的な態度を取る必要はありませんでした。

 両者とも、X氏から金銭的な利益の供与は一切なく、お互いがX氏の不正行為に加担させられていることも知りませんでした。

 この不正行為のスキームについて、Y氏への指示では、X氏が社外協力者に名義貸しを依頼し、虚偽の車両情報を記載した買取契約書を作成させ、市場価格より高額な買取価格での契約を成立させていました。実際の車両所有者には正当な査定価格を支払う一方、協力者には高額な買取価格を支払い、その後キャッシュバックを受けて着服していました。

 Z氏への指示では、基本的なスキームは同じでしたが、買取価格の上乗せ額が500千円や1,000千円と、比較的切りの良い数字となっていたことが特徴でした。

 また、不正発覚を防ぐため、2016年4月から2019年3月までは「山売り」(複数台をまとめて販売する商慣習)を利用し、不正取得車両を通常ルートで仕入れた車両と併せて販売していました。2019年4月以降は、取得車両を一旦自社の固定資産(代車や試乗車)に振り替え、減価償却を通じて帳簿価額を圧縮する手法に変更しています。

不正行為②

 2021年9月から2023年12月に、4店舗の外壁塗装等の修繕について水増し請求が行われ、総額18,000千円が着服されました。この金員は修繕業者D社からのX氏の借入金の返済に充てられました。D社の代表者はX氏と懇意にしていた人物でした。

類似事象に関する調査結果

 特別調査委員会は、ICDAグループにおいて類似の不正行為が行われていないか確認するために調査を実施し、その結果、Z氏が担当した案件で6件の類似事象が発見され、X氏の追加着服金額は5,918千円と認定されました。

 また、修繕費の水増し請求に関する類似事象の調査として、X氏と懇意であったD社との取引について確認しましたが、2023年10月に1件(1,000千円)の取引があったものの、金額的に妥当な取引と認定されました。

不正⾏為を踏まえた会計処理

 ICDAは、本件不正行為に関して監査法人と協議し、以下の会計処理を行う予定としています。

①2024年3月期第3四半期決算において、X氏に過大に支払った金額を特別損失に振り替え、X氏に対する損害賠償請求権として資産計上します。ただし、X氏に資力がなく遺族も遺産相続しない方針のため、全額を貸倒損失として計上します。

②損害賠償請求権の貸倒処理は税務上損金として認められず、法人税等の修正申告が必要となります。また、売上原価として計上できない部分は消費税の仕入税額控除の対象外となります。これらの追加税金費用を含めた2024年3月期第3四半期決算への影響額は、当期純利益において△177,082千円となる見込みです。

 なお、過年度決算の訂正は行わず、2024年3月期第3四半期決算で処理することとしています。これは、ICDAグループの売上規模や利益水準を考慮し、年度別の要修正額が財務諸表利用者の意思決定へ重要な影響を与えないと判断されたためです。

原因分析

 特別調査委員会の調査結果によると、本件不正行為は、X氏が単独で計画・実施した事案で、X氏が強制した従業員以外の関与は認められませんでした。しかし、約7年間にわたり総額282,560千円もの着服が行われるまで発見できなかった原因として、以下の3つの要因が指摘されています。

X氏に中古車事業部の事業遂行が一任された状態になっていたこと

  • X氏は入社以来、顕著な営業成績を発揮し、代表取締役社長のA氏や代表取締役副社長のB氏からの信頼が非常に高かった
  • 役員会等で従業員を守るような態度を示すことも多く、他の役員からも信頼され、管理者としての資質に問題はないと考えられていた
  • X氏は中古車事業部における業務スキームの改善実績があり、「中古車事業部といえばX氏」という雰囲気が社内で醸成され、部下は無批判にX氏の行動を支持する姿勢となっていた

統制活動上の問題

  • 中古車事業部における最上位の権限を持つX氏が、不正行為を行った全ての関連書類について承認チェックを行っていたため、内部統制が意識的に無効化されていた
  • 商品である車両の取得に関する決裁権限が決裁権限一覧表に明記されていなかったため、所属部長による審査の機会が失われていた
  • 内部監査において、車両買取契約書の名義人と実際の買取車両の名義人が異なる可能性を想定しておらず、車検証の確認がチェック項目に含まれていなかった

リスク情報が報告されにくい企業風土

  • トップダウンの意識が強い企業文化のため、役職上位者に問題を伝えにくい風土があった
  • 人事評価について代表取締役社長の意向が反映されることから、従業員は自分の評価を下げるような行動を躊躇する傾向があった
  • 内部通報制度は存在したものの、従業員の認知度や信頼性が低く、制度が十分に浸透していなかった
  • 全ての役員及び従業員が必携する社員手帳にも内部通報制度や内部通報先が記載されていなかった

 これらの要因により、本件不正行為は長期間にわたって発見されることなく継続され、結果として多額の損失が生じることとなりました。

不正のトライアングル

 不正のトライアングルとは、不正リスク要因を「動機・プレッシャー」「正当化」「機会」の3つの観点から分析するフレームワークです。これを用いてX氏の不正要因を分析します。

 不正のトライアングルのひとつである「機会」について、X氏は長年の実績から会社や上司からの信頼が厚く、中古車事業部における業務執行をほぼ一任されており、この状況が、X氏に不正を行う機会を与えてしまったと考えられます。

 また、ICDAグループの決裁権限一覧表には、商品である車両の取得に関する決裁権限が明記されていませんでした。この体制の不備も、X氏の不正行為を見逃してしまう原因の一つとなった可能性があります。

 なお、調査報告書において、X氏が不正を行った原因となる「動機・プレッシャー」および「正当化」についての明確な記述はありません。しかし「動機・プレッシャー」においては、前述のような隠蔽工作を図っていたことから、金銭的な利益への強い動機があったと考えられます。

 上記に加え、ICDAグループの企業風土も、X氏の不正行為を助長した可能性があります。ICDAグループはトップダウンの意識が強く、役職上位者には意見しにくい風土があったようです。そのため、X氏の不正行為に気づく従業員がいたとしても、それを報告することは難しかったと考えられます。

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