株式会社ダイレクトマーケティングミックス(DmMiX)の子会社である株式会社マケレボは、アウトバウンドコール業務に関し、顧客からの資料提出依頼を受け、稼働時間の証跡に不正があると指摘されました。
社内調査により、マケレボの従業員が不適切にログイン履歴を作成し、2022年10月から2023年3月まで、請求額が過大であった可能性が判明しました。
DmMiXは、関連子会社における類似事案の有無を調査し、再発防止策を検討するため、外部専門家を含む特別調査委員会を設置しました。
この記事では、同社が公表した特別調査委員会の調査報告書に記載されている主な不正案件の内容とその発生原因に焦点を当てて要約しています。
※詳細は特別調査委員会「調査報告書」(PDF)をご確認ください。
DmMiXおよびマケレボの概要
株式会社ダイレクトマーケティングミックス(DmMiX)
資本金:21億8462万5752円
従業員数:77人(臨時従業員者数:2人)(2022年12月31日時点)
グループ構成:株式会社マケレボ、CRTM(株式会社カスタマーリレーションテレマーケティング)およびDRM(株式会社データリレーションマーケティング)を含む合計7社の経営管理全般を行う持株会社
コーポレートガバナンス体制:
- 上場当時は監査役会設置会社だったが、2022年3月25日の定時株主総会の終結時より指名委員会等設置会社に移行
- 取締役会は指名委員会および報酬委員会と連携して執行役に対する監督機能の強化に取り組んでいる
- サステナビリティ委員会、リスク・コンプライアンス委員会を設置
株式会社マケレボ
資本金:9000万円
従業員数:215人(臨時従業員者数:312人)(2022年12月31日時点)
本社以外の営業所:全国に3箇所
不適切行為が行われたアウトバウンド業務の概要
顧客から委託された業務は、顧客と契約している者に架電の上、利用に当たっての不満がないかを聞き出し、継続的な利用につなげることを内容とするものでした。
通常のオペレーター業務の流れ
コールセンターのオペレーターの基本的な業務の流れは、概ね以下のとおりとなります。
- 出社:オペレーターのブース(席)が設置された部屋にICカードを用いて入室する
- 業務開始時:オペレーターのブース(席)に着座した後、勤怠管理システムにおいて出勤時刻を打刻し、コールセンター関連システムへログインする
- 業務実施:アウトバウンド業務、インバウンド業務を行う
- 業務終了時:業務終了後、コールセンター関連システムをログアウトし、勤怠管理システムにおいて退勤時刻を打刻する
- 退社:オペレーターのブース(席)が設置された部屋からICカードを用いて退室し、退社する
報酬体系
本件の報酬は業務ごとの時間単価に稼働時間を乗じて算出され、契約内容は3か月ごとに見直すというものでした。
稼働時間に関する業務報告のフロー
本件では、顧客が前月に送付する月間計画に基づき、マケレボが検討・承認を経て稼働時間を決定し、オペレーターを配置して業務を実施していました。
マケレボは、日次、週次、月次で稼働時間を報告し、2022年10月以降は業務開始時に業務管理システムへのログインが必須となりました。
また、マケレボは勤怠記録とログインIDリストを月次で顧客に提出し、顧客はログインデータと照合して報酬請求の基礎となる稼働時間を確認し、相違がある場合はMRに説明を求めることとしていました。
不適切行為の内容
マケレボが顧客企業に対して、実際よりも長い稼働時間に基づいて報酬を請求していたという不適切行為の内容を以下にまとめました。
不適切行為が行われるようになった経緯
2022年10月から、顧客の要請により、業務開始時にシステムへのログインすることが稼働時間の証跡として求められるようになりましたが、マケレボは実稼働時間ではなく月間計画値に基づいた報酬請求を常態化させていました。
2022年1月から実稼働時間が計画値を下回っていたため、ログインデータで実稼働時間が確認されると不都合が生じることとなり、現場責任者のR氏と上長のQ氏は、実際には業務を行っていない者のログインIDを使用して架空の稼働時間を作り出し、虚偽の証跡を作成しました。
不適切行為の実行方法
不適切行為の実行方法としては以下の行為が行われ、その結果、実稼働時間を上回る請求時間に基づいて報酬請求が行われていました。
- 架空ログインを行う前日に不足時間を把握し、当日架空ログインを実行
- 退職者や欠席者のログインIDを利用
- 架空ログインの状況を別のエクセルファイルで管理し、正規の勤怠記録との整合性を保持
- 顧客に提出する日次、週次及び月次の稼働時間の実績報告も、架空ログインデータとの整合性を保持
- 架電数も不自然にならないように調整
法的リスク
マケレボは顧客企業との契約において、稼働時間に応じて報酬が支払われる時間契約を締結していました。顧客企業は稼働時間を重視しており、架空ログインによる虚偽の報告は、損害賠償請求を受ける可能性を含む高い法的リスクを伴うものでした。
不適切行為の発覚における経緯
★マケレボ
2023年4月、顧客は、マケレボの受託業務が適切に行われているかどうかの説明を求め、マケレボ本社を訪問し、本件業務に従事する者の勤怠データの確認を要請しました。
しかし、架空ログインの存在を認識していたP氏(SMD:社長直下で、営業部門や管理部門を統括する)は、S氏(MD:各営業部を統括する)に指示し、提出済みの資料と整合するような虚偽の勤怠資料を作成させました。
その後も顧客は、入退室データ、有休取得データ、オペレーターの音声データの提出を要求しましたが、P氏(SMD)はS氏(MD)やQ氏(DC:SMD やMDの下、各営業部の一部又は全部を統括する)に指示し、事実と異なる資料を作成させました。
一連の対応についてK社長(マケレボ)は、当初はP氏(SMD)の報告を事実と認識しておらず、事実と異なる資料の作成を認識して以降も、顧客に対して事実を隠蔽し続ける意向を持っていました。
しかし、6月1日に顧客から匿名の通報内容を伝えられ、P氏(SMD)が提出した資料にも疑義があることを指摘されたK社長は、これ以上の隠蔽は不可能だと判断し、事実関係の再調査を指示しました。
マケレボにおける一連の隠蔽工作は、顧客に対する裏切り行為であり、会社に対する信頼を大きく失墜させるものであったと言えます。
★DmMiX
5月22日、K社長はDmMiXのA社長やB執行役と経営会議でマケレボの調査要求を受けていることや、6月1日に顧客訪問を求められていることを報告しました。
訪問した結果はA社長とB執行役に報告され、他の役員には随時情報共有されました。6月27日に臨時監査委員会が開かれ、全取締役が不適切行為を認識するに至りました。
財務諸表への影響
DmMiXはIFRSを採用しており、マーケティング事業の収益認識については、契約内容に応じて収益を認識することが基準に従った処理となります。
本件のように、顧客が契約上も実態としても稼働量に重きを置き、顧客の指定する業務管理システムを用いて稼働量の管理をするような取引については、稼働量に係る証跡の不正作出等により収益認識すべき実際の稼働量と請求を行った稼働量に差が存在し、収益認識額に履行義務が充足されていない金額が含まれているのであれば、その金額については売上を修正すべきであると考えられます。
マケレボによる請求差異の推計額および解決金を合わせた契約負債計上額は、第7期第2四半期の連結財務諸表において、売上高の当期修正もしくは減額処理により反映されていることが確認されています。
原因分析
調査報告書では、マケレボで発生した不適切行為の発生原因が6つの観点から分析されています。
稼働差異に対する問題意識の希薄さ
対象子会社では、顧客が重視するのは成果であって、契約上の稼働量を満たすことは重要ではないという認識が広まっていました。
これは、長年の顧客とのやり取りの中で、成果さえ上がれば稼働時間は問題視されないという認識が形成されたこと、成果に応じた報酬体系から時間やブース数に応じた報酬体系に移行した後も、顧客が成果を重視しているという認識が継続していたことなどが背景にあります。
また、契約書類への意識が低く、実際の稼働時間と請求時間との間に乖離が生じていることへの問題意識も欠如していました。
報酬金額など契約内容に起因する問題
時間単価やブース単価が低く設定されている業務の場合、契約上の稼働時間やブース数を確保すると利益が出ないため、稼働時間を削減せざるを得ず、結果として稼働差異が発生していました。
過度に利益目標達成を重視する社内風土の醸成につながるおそれのある人事評価制度
対象子会社では、売上目標や営業利益目標の達成率が賞与に反映されるなど、成果主義的な人事評価制度が採用されていました。これは、売上や利益を重視するあまり、不適切な業務遂行を招く可能性がありました。
DmMiXグループにおける内部統制上の問題
請求書の発行フローにおいて、実稼働時間と請求時間の整合性を確認する仕組みが機能していませんでした。また、内部監査、リスク・コンプライアンス委員会、内部通報制度も稼働差異の問題を適切に検知できていませんでした。
収益認識基準の問題
対象子会社は、成果主義的な契約に基づき、顧客の求める成果を達成すれば収益認識が可能であると考えていました。そのため、稼働時間の記録や管理が適切に行われていませんでした。
不正のトライアングルについて
不正のトライアングルとは、不正リスク要因を「動機・プレッシャー」「正当化」「機会」の3つの観点から分析するフレームワークです。これを用いてマケレボの不正要因を考えます。
動機・プレッシャー
マケレボでは、本件業務において、従前からオペレーターの実稼働時間が顧客との間で設定した月間計画値を下回る状況がありながら、月間計画値をそのまま請求時間として報酬請求することが常態化していました。しかし、2022年10月から顧客の要請により、本件システムへのログインが稼働時間の証跡として求められる運用が始まると、実稼働時間が月間計画値を下回っていることが顧客に発覚する可能性が生じました。
顧客に月額報酬の減額を要求されることを避けるために、架空ログインという不正に手を染める動機やプレッシャーがあったと考えられます。
また、マケレボは、時間単価やブース単価が低く設定されている業務を受注している場合があり、契約上の稼働時間やブース数を確保すると利益が出ないため、稼働時間を削減せざるを得ない状況にありました。
利益目標を達成するために、架空ログインという不正を行い、収益を確保しようとする動機やプレッシャーがあったと考えられます。
正当化
マケレボでは、顧客が重視するのは成果であって、契約上の稼働量を満たすことは重要ではないという認識が広まっていました。長年の顧客とのやり取りの中で、成果さえ上がれば稼働時間は問題視されないという認識が形成されたことが背景にあり、不正を正当化する理由として考えられます。
なお、マケレボでは、顧客が設定する成果目標を達成するために必要な稼働時間やブース数を算出し、その時間やブース数に応じた報酬を請求していました。そのため、顧客が求める成果を達成していれば、たとえ契約上の稼働時間に満たなくても、報酬を請求することは問題ないと考えていた可能性があります。
機会
マケレボでは、請求書の発行時に、実稼働時間と請求時間の整合性を確認する仕組みが機能しておらず、不正が行われても容易に発覚しませんでした。
また、マケレボでは、内部監査においても、稼働時間が正しく集計され、請求されているかどうかの検証が不十分でした。
ガバナンスや全組織的なリスク管理における問題点
金融庁が公表している内部統制基準では、内部統制はガバナンスや全組織的なリスク管理と一体的に整備及び運用されることが重要であるとされています。
本件不適切行為における取締役会の監督体制やリスク管理機能の実効性についての問題点がいくつか考えられます。
DmMiXグループの取締役会
DmMiXグループの取締役会は、子会社であるマケレボにおける架空ログインによる不正請求問題について、その発生を未然に防ぐことができなかった責任が問われます。
具体的には、DmMiXグループの取締役会は、子会社の業務執行状況を適切に監督する体制を構築しておらず、マケレボにおいて、顧客との契約上の稼働時間と実際の稼働時間に差異が生じていることを把握していませんでした。
また、マケレボにおいて、顧客が重視しているのは成果であって、契約上の稼働時間数を満たすことは重要ではないという認識が広まっていたことを認識できていませんでした。
DmMiXグループのリスク管理機能
DmMiXグループには、内部監査、リスク・コンプライアンス委員会、監査委員会、内部通報制度といった監査等委員会が存在していましたが、いずれも稼働差異の問題を事前に発見することができませんでした。
内部監査においては、請求書や入金の確認は行われていましたが、その基となる契約書類の内容については十分な確認が行われていなかったため、稼働時間が正しく集計され請求されているかどうかの検証は特に行われていませんでした。
リスク・コンプライアンス委員会においても、議論の中心はコールセンターで発生する人事労務関係の相談対応であり、稼働差異の問題が取り上げられることはありませんでした。
また、内部通報制度については、労働問題以外のコンプライアンス問題についても内部通報の対象となるという理解が従業員に十分に浸透しておらず、本件不適切行為のような問題を早期に発見するための制度として十分に機能していませんでした。